ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・8

黒衣の章・8
結局昨日一日は、子供によって潰された。
ヴァネッサが細かい世話を焼いてくれたとはいえ、子供は私の担当と認識されているらしく、彼女は全てを請け負ってくれる気などさらさら無いようだった。疲労は全て私だけのものである。

昨日陽が沈み始めた頃、子供を風呂に入れさせるようにとヴァネッサに言いつけて、夕餉前に一眠り……と自室でまどろんでいた時のことである。唐突に扉が叩かれた。
またジンが何か言い掛かりをつけに来たのかと無視していたのだが、静かながらにしつこいノックの連続に重い身を起こし出てみると、すっかり身綺麗になった子供を抱えてヴァネッサが立っていた。
子供はヴァネッサの胸に顔を埋めて船を漕いでいたが、私が顔を出すとすぐに目を覚ましたようで、遠慮がちに伏せた目を向けた。
その青が明るく煌めいたような気がして、私は思わず目を奪われ、子供としばし見つめ合うこととなった。
子供の表情には当初と同じく怯えと不審、そして食べ物の恨みが入り混じった暗い影が落ちていたのだが、何故だか私は、そこにほんの少しの期待すら見出した。
何だ、また焼き菓子類を所望するとでも言いたいのか。無論たじろぐ他無い私である。
子供は無言のままただ私をじっと見つめるばかりであり、私も言葉を失ったままだった。
その均衡は永久に続くかとすら思われたが、ヴァネッサの取った行動によってあっさりと破られることとなる。

私が気を取られているその隙に、しれっと子供を手渡したのだ。
彼女の業務的な笑顔からは残業を良しとしない気迫がありありと滲んでいて、思わず私は子供を受け取ってしまった。
ようやく文句の言葉が浮かんだのは彼女の背が角を曲がり消えた後であり、私は子供を抱きかかえたまま、呆然とするばかりであった。
あの時の彼女の手並みの良さは、恐らく称賛に値するものだろう。不服ではあるものの。

確かに私は『風呂に入れて着替えさせろ』とは言ったが、『元の部屋に戻しておけ』とは言わなかった。
言わなかったが、それくらいはやって然るべき仕事だと思う。
どうして子供と言い手下と言い、周りは行間とも言えない行間ですら読んでくれない者ばかりなのだろうか。納得がいかないし、恐らく納得してはいけない事柄である。
しかしぶつけるべき相手もおらず、私はしこりを飼ったまま子供を部屋に詰め、更には夕食もきちんと取るかどうか監視し、寝台に放り込んでから部屋を後にした。
つまり全てが終わったのは夜中であった。

その間子供は私の命令をよく聞いたし、何より運んでいる途中に泣き出すことも無く大人しくしていて、そういった意味ではとても扱いやすくなっていた。
しかし慣れぬ仕事の連続だったことは事実である。勘弁してくれとばかりに私は床に倒れ込み、そうして気付けば朝になっていた次第。
日頃よりも睡眠時間は取ったと思うが、久々の労働はかなり響いたようで、寝台から起き上った私の体は節々軋んで悲鳴を上げていた。
朝が得意な私であっても、これは今日一日を穏やかに過ごさねば身が持たないと二度寝を決め込む気概さえ持つ程であり、それと同時にこれからの日々に立ち込める暗雲の予感に、むしろ起き上る気力すら沸かなかった。
爽やかな朝日の中、魔王は不甲斐なくも、己の"詰み"を認めたものだ。

しかし二度寝の後に昼食を取り、子供の部屋を訪れると、案外平和な光景が広がっていた。
その時子供は一人テーブルに付き、ゆっくりと食事を取っている所だった。
食べる量がやや少なく、また少々顔色を悪くしていたが食欲はあるようで、部屋を出るなと言いつければ無言で頷き従う意思を見せた。
その際まだ何か物言いたげに私を見ていたが、結局子供はまともな主張を何一つ行うことなく、黙したままでいた。
私はそれを追求するような愚行は犯さなかった。何故なら面倒であったから。
しかしこれならば食事の時間毎に部屋を覗き、定期的に風呂に入れて戻すようヴァネッサに言い付けるだけで、子供はようやく勝手に生きることだろう。
私は子供の縋るような目を無視し、意気揚々と自室に戻ったのだった。
しかし、その数分後には部屋に舞い戻ることとなる。大量の書類を抱えて逃げるかのようにして。



「で……?」
「『で?』じゃねえよ。これ、お前が目を通す分だから」

子供の様子を確認し、足取り軽く自室に辿り着いたまでは良かった。
しかしそこでは意地の悪さを張り付けた、笑顔のジンが待ち構えていたのだった。
奴よりも、奴の抱えた荷物を目にし、私は踵を返してどこぞに逃亡を図ろうとするのだが、易々と回り込まれて手渡された。
ヴァネッサといいジンといい、臆せず立ち向かう相手を間違っているのではないかと思わずにはいられない。それと私は反射的に、面倒事を受け取り過ぎだ。
手渡された神の束は、文面を読むまでも無い。私が目を通し、サインしなければならないような公的な書類の数々だった。
苦々しい思いを隠そうともせず、私はジンに荷物を押し付ける。しかし、それで大人しく受け取るタマではない。
にやにやとほくそ笑みながら、静かに首を振り拒絶を示すジンだった。

「話が違うだろう……私は子供の飼育に忙しく」
「お前が計画したんだから、微調整はお前がやってくんねーと。俺ら下っ端がせっせと働いて、それを監督するのがお前の役目だろ。その唯一の子供の世話だって、今日は何もやってねーじゃねえか」

至極もっともな意見である。へ理屈すら思い付かないほどに。
つまりどこまで行っても私に仕事をさせようという、側近としては当然の腹積りであるのだろう。
ぎりと歯噛みする私に、しかしジンはこの上も無く爽やかな調子で。

「んじゃまあ頑張れよ、子守魔王。流し読みでサインなんざしやがったら、後でぶん殴るからな」

そう言い放ちジンが片手を振って去ったのだった。
こうして私は反骨精神剥き出しで、来た道を戻ることにした。
つまり仕事を放棄せざるを得ない、大義名分を探すためである。



「邪魔をするぞ」
「わ……」

再度部屋を訪ねた時、子供はぼんやりと窓の外を眺めていた。
この部屋からは私の手入れする中庭が一望できるので、それを見ていたらしかった。
しかし今となっては私がノックも疎かに部屋に踏み入れたせいか、子供はカーテンにしがみ付き、中庭の代わりに不安げにこちらを見つめていた。

「ああ、別に何をするわけでもない。面倒にならない程度に、お前の面倒を見させてくれ」
「……?」

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

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