ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・10

黒衣の章・10
今日で子供が城に来てから、四日が経過した事になる。
当初はどうなることかと思われた子供の世話は、案外手間が掛らぬものと知れた。
しかしここで、新たな問題が浮上した。子供に時間を割かなければ、ジンから事務仕事を押し付けられるという。
それでは日頃と何も変わらぬ上、一応は子供の世話という“仕事”をこなしたことが前提なので、体調不良等の理由で逃げる事は難しくなるだろう。
何しろジンの奴が無意味にやる気を出してしまっているので実に面倒臭い。
しかしのらりくらりと真面目な穀潰し生活に甘んじる事こそが私の生きる意味である。
そのため今日からは新たな観点で持って子供と向き合うことにする。つまり、必要以上に世話を焼く。





「……おっと」

子供の部屋に足を踏み入れた直後、ふらついてしまった。
何故か。扉を開いたすぐそこに、子供がぽつねんと坐していたものだから。危うく踏んでしまう所だった。
子供の背丈は、私の膝程も無い。私のように巨躯を持て余す魔物の重さに、耐えられるとも思えなかった。
しかし子供は自身の命の危機など気付いてすらもいないのだろう。
いそいそと立ち上がり、頭を下げる。

「こんにちは」
「あ……ああ」

私の口を付いて出たのは、返答とも言えぬ返答だった。
それでも子供は満足したようで、頭を上げて至極満足げな笑みを私へと向けるのだ。
今日は何故か朝から機嫌が良い様子。無為に喚かれることを思えば好ましい事だろう。
しかし私は魔王である。
あらゆる魔物の王である。
残虐非道の限りを尽くさんばかりの気迫を滲ませ、恐ろしげな外見によって、陽の光の元生きる者達を震えあがらせねばならないはずの死そのものである。
城警備員と化し始めた私とはいえ、やはり一度は魔王として立った身。
このような子供に、怯える事も無く足元をうろちょろされているようでは、ありもしない沽券に障るのだ。
落ち着きの無い子供をむんずと片手で捕まえてみる。当然のように、子供は何の抵抗も無く捕獲された。
むしろ楽しげな悲鳴を上げる始末であった。この扱いに、何の不満も抱いていないようだった。
潰してしまわないように加減しているとはいえ、つい昨日の段階では私が触れるだけで怯えの色を見せていた癖にこの様とは……。
目の高さまで持ち上げてから、私は子供に訊ねてみる。

「……何をしているんだ。こんな所で」

自然浮かぶのは渋面で、声も地獄から響くかのように底冷えする低さとなった。
だが、子供は臆することなく私の顔を不思議そうに見つめるだけだ。
どこか誇らしげにも見えるその表情は、おおよそ虜囚が浮かべるものとは程遠い。
子供は自身を拘束しているはずの私に向かい、はにかみ言う。

「まおうさんをまってたの」
「は?」
「きょうも、おひるにくるっていってたから」

確かに昨日、飯を食ったか確認するため、昼が終わり次第にやって来ると予告しておいた。
子供の頭越しに奥のテーブルを見やる。配膳された食器の上は多少散らかり汚らしいとはいえ、粗方食いつくされてしまったようだ。
子供の顔色も問題はない。それどころか健康的すぎていて、逆に相応しくないのではないかと思われるほどである。
大した問題は無い。無いのだが。

「だからと言って……なあ」

言い淀む私である。魔王の訪問を待ち望む人質とは、やはりどこかがおかしい。

「まってちゃ……だめ?」
「……いや」

しかし瞳を揺らし、小さく訊ねる子供に、私は首を振るしか出来なかった。
否定するだけの条件が上手く揃わず、揃ったところで子供に説明を解するだけの知恵があるとも思えなかったためである。要するに諦めたのだ。
そうした葛藤があるとも知らず、子供はぱぁっと花が咲いたかのように笑う。
その笑みは、かなり癪に障る類の物であった。直視に耐えかね、私は子供から視線を逸らす。

「……しかしな、あのような場所に居ると、私に踏まれてしまうぞ。待つのは良いが、場所は変えろ」
「ふ、ふまれてもへいき」
「平気な訳があるか。いいか、明日からは別の場所で待て」
「うー……うん」

不承不承といった様子で頷く子供だった。
従順だが、それは忠誠といった明確な上下関係を軸に据えた物ではないようだ。
痛む頭を押さえながら、私は子供を降ろすため寝台に向けて足を踏み出しかける。

「これ」
「? 何だ」

しかしそれも子供によって差し出された、一枚の小さな紙切れによって制された。
受け取り広げてみると、そこには文字がたどたどしく並んでいるだけだった。
この世の言語で用いられる文字が順番通りに記されており、その下には私の名が幾つかと、ヴァネッサの名前が幾つか。
ヴァネッサの名は、彼女自身が教えたのだろうか。それ以外は昨日の昼間、戯れに子供に教えてやった物だった。
ただし私が付けた丸もサインもが見られなかった。
首を捻る私である。それを、子供はどこか期待の籠った眼差しで持って息を潜めて待っていた。
昨夜は子供の夕餉を監視し、それから部屋に戻った。
風呂もその後の世話も、ヴァネッサに念を入れ微細に至るまでしつこく命じていたが故、私は一日ぶりの安眠を心行くまで貪ることができたのだ。
その間、こんなものを子供が書いていた覚えはない。

「いつ書いた」
「きのうね、おやすみのまえにね、かいたの」

『れんしゅうなの』と呟いた子供の声は、幾分か熱に浸されていた。
紙に記された文字は、確かに昨日よりもまだ随分と見られたものとなっていた。しかし私は文字の稽古を言い付けた覚えなど毛頭ない。
ちらりと子供へと視線を戻せば、依然として期待の籠った眼差しを私に向けていた。そうして私はその期待の先にある物が何であるかをはっと予感するのだった。昨日の反応を見ていれば嫌でも分かることだろう。
しかしその期待に付き合ってやる理由はないのである。むしろ踏み躙って然るべきものだ。魔王とそれに攫われてきた姫という、古今東西あらゆる場面において踏襲されるべき立場の差。それをこの辺りで、生意気な子供に知らしめてやるのもまた一興であるかもしれなかった。
魔王たる私は、紙をただ無慈悲に破り捨て、余計な事をするなと理不尽に子供を叱り付け、死なない程度に躾けてやるべきである。

「…………」

その程度の事は、流石の私と言えども理解していた。
しかしかなりの逡巡を経て、私はしどろもどろに言うのであった。

「あー……そうだな。上手く……書けたんじゃないか?」

すると子供はぱぁっと顔を輝かせる。何故だ。
と言うよりも私は何をやっている。何故子供を喜ばせるような真似をする。
予感は的中し、子供は私に褒められたいがため、このようなものをしつらえたという事実だけが無意味に浮き彫りとなってしまった。
足早に寝台まで辿り着き、子供をそこにぽんと放る。
一度小さく跳ねただけで、後は柔らかいマットに沈みごろんと仰向けに転がった。
荷物以下の扱いを受けながらも、子供は薄気味悪い、陽の光のような笑みを浮かべ続けていた。
私は深みに嵌っていくのを感じ、頭を抱えるのだが。

「まる!」

やおら起き上った子供の静かな声。
私は子供を見降ろし、極力冷たい声色を心掛けて問う。

「……丸?」
「まる。きのうみたいに」
「…………ああ」

最早ここまで来てしまえば、どこまで落ちようと同じであった。
子供は私にペンを差し出した。私はそのようなものを子供に与えた覚えはなく、またこの部屋に備えてあった物とも違う、見覚えの無いペンだった。
しかし特に気にせずそれを取り、昨日と同じく私は紙に大きな丸を付けてやる。

「おなまえも」
「分かった分かった……」

最後にささやかな注文が飛ばされたので、自嘲気味に署名を行った。
頭上にひらりと落としてやると、子供は慌ててそれを拾う。そしてしげしげと紙を見つめ。

「ありがとう!」

先程までの温い笑みはどこへやら、だ。
私に向けられた子供の表情を、火花のように鮮やかな笑み――と思ってしまった。
その不甲斐なさに私は大人げもなく舌打ちするのだが、子供は紙を眺めることに夢中で気付くことはなかった。
良くも悪くも。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

水無月さん
なんかそろそろ『お前…』って感じになってきました魔王。犯罪臭さをまだまだ追求しますよ!!

ななしさん
今後は月2以上を目標に頑張ります!幼女と魔王をいちゃいちゃさせるだけの簡単な通報寸前。

  • 2011/03/13(日) 01:35:24 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

更新きてたー!
幼女幼女!魔王様魔王様!(*´Д`*)

  • 2011/03/10(木) 07:14:54 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

幼女可愛い。
魔王様も可愛い。
側近もメイドも可愛い。
なぜ可愛い子しかいないのだ、ここには!

  • 2011/03/10(木) 02:39:27 |
  • URL |
  • 水無月 #-
  • [ 編集 ]

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