ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・11

黒衣の章・11
しかし本日の目的は、何も子供の機嫌を取ることばかりではないのである。むしろ全く別の方向を向いていると言ってもいい。
子供はなおも紙をぼんやりと見つめていた。私はそれを、片手でつまみあげる。

「いいか、よく聞け」
「?」

流石に紙から視線を外し、ぽかんと見つめ返す子供である。
しかしそこに恐怖の色は微塵も見られなかった。
目の前にいるこの魔物が自らの命を握っているとも理解できぬ程頭が弱い存在なのか。
むしろ知っているからこそ全てを諦め従順になっているのか。
そのどちらでもないことは、今までの反応を見る限り嫌と言うほど理解できていた。
現に私が顔を顰め睨んでみたところで、子供は僅かも動揺を見せようとはしなかった。
その代わりに首を少しばかり傾けてきょとんとした顔をする。
魔王を前にしてこの百年来の友のようなくつろぎ様。いっそ肝が据わっていると言えなくもない。
それを突き崩すべく、私は無理やりにでも嘲笑を浮かべ、顔を近づけ言うのである。

「今日は部屋の外に出してやる」
「!?」

子供は黙って息を飲んだ。
そうして目を白黒させながら、私をじっと見つめるのだ。

「お……おそと?」
「ああ。お前も少しは動かねば体に障る」
「……」

本格的に言葉を失う子供であった。
お陰で私の自尊心は少々ながらも回復を果たすこととなる。


当たり前のことだが、この城には魔物がごまんといる。
些か私に慣れてきたとはいえ、子供にとって魔物は当然恐怖の対象でしかないはずだ。
一般的な魔物達を間近で見させて再度恐怖を植え付け、ひいては彼らの主である私の権威を回復させようとする狙いである。
無論、側で私が監視するため身の安全は保障する。
しかし恐怖を煽りに煽って煽り尽くす所存である。
適度な運動をさせることにより生命力は増し、また子供に殊勝な態度を思い出させることが出来る。
私にとっては利のみだ。そう意気込んで世話を焼くことを決断したのだ。
目論見通り、子供はすっかり静かになった。
ここがどこであるかを知っており、更にジンが派手に暴れる所を目撃している。
そのような危険極まりない魔物達が蔓延るこの城を出歩くなど考えれば、さぞ身の竦む思いなのだろう。
私は駄目押しとばかりににやりと笑ってやった。

「外には魔物がうじゃうじゃいる。しかし無理やりにでも」
「いいの?」
「連れ出…………は?」
「おそと、だしてくれるの?」

いつしか子供の目は、あろうことか光に満ちていた。
次に言葉を無くすのは私の番だった。
何ということだ。ここまで愚昧な人間だったとは。
目を剥き驚愕する私に、子供はまっすぐに期待の眼差しを向けている。

「どこにいくの? おにわにいく?」
「いや……お前な」
「おにわ、きれいだよ」
「……」

脱力した私は、再度寝台に子供を放った。
今度も一度弾みはしたものの、そのまま寝転がるでもなく子供はすぐさま飛び起きる。
そうしていそいそとそこから降り、私の隣に並び得意げに見上げるのであった。
本格的に頭痛の種である。

じろりと見降ろす私を前にしてもなお、子供は庭に行きたいという要望を、遠回しながらもじわりじわりと伝えてきた。
どうやらこの部屋から見える私の中庭が気に入ったらしかった。
手入れをしている私としては気分が良くないことはなかったが、それもまた状況次第だ。
取るに足らない虫けらに称賛された所で、私は何も思う所が無いはずなので。

しばらく、どうすればこの小うるさい虫を黙らせることが出来るのだろうかと思案を巡らせた。
しかし上手く妙案が浮かぶはずもない。
このような数秒で決着付く事案であるならば、面倒事は最小限で帰結を迎えるべしとする私が四日も悩まされるはずがないのである。

「……おそといかないの?」

気付けば子供が汚い手で私の裾を掴み、見上げていた。
私はそれを振り解くべきであった。
後の事など考慮せず、ここで何もかも踏み潰してしまうべきであった。
しかし眼下には悲しげな子供の顔である。
辛く当たればまず確実に泣き出す事だろうと知れた。

「…………いや、行く」
「うん……!」

私は折れてやることにした。
すると子供は真面目くさって頷いた。どこか誇らしげにも見える顔のまま。
それを崩してみたいと思うのは、果たして魔物としての本能なのか、魔王としての義務であったのか。その時の私には分からなかった。ただ何かしらの行動に移さねばと少々焦りを感じていた。それだけだった。

「……ただし、だ」

私の裾を掴んだままでいた子供を手で払いのけ、そして手の甲を子供に向けて、私はこう言い放った。

「私のこの手を、離すなよ」

離せば仕置きだと付け加えると、子供は表情を強張らせ私を見上げた。
そうだこれで良い。

私の腕は子供の胴程の太さがあり、肌はくすんだ灰色で、見た目の通り老いた樹のように固い手触りをしている。その上とどめとばかりに長く鋭い爪である。
私から触れられることに慣れたところで、自主的にこの私に触れ、尚且つそれを離さずにいるなど、どんな生き物であれ忌避すべきものだ。
子供はきっとこうして固まったまま、私の手に触れることなどないだろう。
私は子供を屈服させるため、子供を怒鳴る大義名分を得るため、敢えてこの手段を選んだのだ。
子供は私の手と顔とを、交互にゆっくりと見比べていた。
そこに滲むのは微小な戸惑いで、私はそれが大変に気に入った。

「ほれ」

爪を突き出してやれば、子供はびくりと震え一歩だけ下がった。
それでも小さな一歩である。私の長く醜い腕から逃れられる程に、距離を稼ぐことは出来なかった。
また逃げるなと言えばそれ以上下がろうとはしなかった。
怯えの色は明らかで、私を見る目は一日ぶりに、元の殊勝な物に戻っていた。
その時点では、私の機嫌はかなりの程度で回復していた。ようやく、だ。
そしてにやりと笑って見せる余裕も生まれていた。
さてこれから命令に従わなかったことに対し、ねちねちと調教し、その後引きずり出すようにして城の中を徘徊し一層の恐怖を味わわせるのだ。
そう思い手を引きかけたその時だった。

「うん」
「!?」

子供は私の指を、爪を避け、躊躇いがちにそっと掴んだのだった。
爪に当たればまず間違いなく怪我を負う。
気遣う理由の無いこちらが肝を潰す唐突さだった。

「……つめたい」

覚悟を決めた面持ちも、掴むほんの一瞬前までの事。
結局子供はぬるま湯に浸かっているかのような緩い表情を浮かべながら、この言い草だ。
その時私が一体どんな顔をしていたのか。
後々になってもまるで記憶から引きずり出すことが叶わなかった。
ただ子供の手の平はとても小さく、在って無いような感触で酷く曖昧な物であったと記憶している。
熱など感じられるはずもなかった。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

>ななしさん3
大変な時期にありがとうございます…!本当に募金くらいでしか応援できずに心苦しいですが、どうか頑張って下さい!ようじょも沢山書きますね!



あと何人かななしさんが増えたら、合体してななしさんキングになるんだろうかとかry

  • 2011/03/19(土) 02:14:52 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

更新楽しみにしてました。
仙台市在住で現在も被災の影響が多々ありますが、ようじょになごなごして癒しをいただいてます。

  • 2011/03/16(水) 17:42:32 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

>水無月さん
ようじょで生きる!あともうちょっとデレさせます。

>ななしさん1
何かの発散に書いています。癒しになれば幸いです。

>ななしさん2
幸い関西住まいですので、今回の地震による被害はありませんでした。ご心配ありがとうございます。こんな時期に更新というのも変な話かも知れませんが、ある程度いつも通りに続けていこうと思います。書いてると気が紛れる……!

  • 2011/03/16(水) 14:52:11 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

更新乙です
無事で何より

  • 2011/03/15(火) 20:02:52 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

更新、ありがとう!
欝、癒しになるよ

  • 2011/03/15(火) 10:32:19 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

魔王様・・・。絶対父性が芽生えてきてるよねw
しかし、ようじょはさいきょうなのさ!

  • 2011/03/15(火) 03:37:46 |
  • URL |
  • 水無月 #-
  • [ 編集 ]

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