ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・12

黒衣の章・12
子供に指を掴まれて、恥ずかしい話。しばらく私は硬直していた。
私の人差し指を握った子供の手の平は、とても小さく柔らかく、骨が入っているのかすらも怪しかった。
掴む力も微々たるもの。容易く振り解けるような拘束である。
それなのに私は何も出来なかった。何をしようとも思えなかった。ただ私は子供をじっと見つめるだけだった。
私のこの指を取り、今もなお私を見上げ首を捻る、この得体の知れない子供が一体何を思い何の覚悟を持ってその瞳を輝かせているのかを、知ろうとした。
しかし一対の青からは結局ろくな物が読みとれず終いであった。
つまりは期待と好意。漏れ出る物はひどく場違いかつ一方的。
全く由来が知れぬ代物で、心底気味が悪かった。
その上いつの間にか私は掴まれた以外の指を曲げ、子供に爪が当たらぬようにと配慮してやっていた。
無意識に、子供を慮っていた。
目の前に立ちはだかるあらゆる事象が私を不愉快にさせるばかりで、あからさまに顔を歪めて舌打ちしてしまう始末であった。
しかしそれで事態が好転するかと言えば否である。
子供は最早、私の苛立ちを前にしてもたじろぐような愚行は犯さなかった。
誇らしげな顔をゆるい微笑で上書きしさえする。

「いこ?」

子供が短くそう言うので、私は目を伏せ力なく首を縦に振るのである。
そうしてたった一言、こう唱えた。

「……ヴァネッサ」
「はい」

静かな声がかかり、振り返るとヴァネッサが頭を下げて佇んでいた。
近頃私に対する敬意が品切れ気味であるとはいえ、彼女は魔王の側付きメイドである。
その名を呼ぶだけで、音も無く主の側に参上するくらい造作も無いのだ。
子供は突然現れた彼女に少し驚いたようだったが、しっかりと私の指を掴んだまま放そうとはしなかった。
先程確かに放せば仕置きだと告げたが、そうした強制力のせいと言うよりも、その手からは単に私に縋ろうとする意図が見えた。辟易する他無い。
しかし、私はひとまず子供を指差し、ヴァネッサに言う。

「外に出ようと思うのだが、こいつに何か羽織る物をやってくれないか」
「まあ」

ヴァネッサは僅かに目を丸くした。
時節はまだ冬から春への代わり目で、空は移ろいやすく肌寒い。
子供が纏うのは薄い着物一枚だ。火炎系の魔術で快適な気温に保たれているため部屋の中では問題ないだろうが、外に出ればそれでは些か心許ない。
そう思い、私はヴァネッサに着物の調達を命じたのである。
気温の変化で体調を崩されてはいらぬ世話が増えてしまう。純粋に子供の身を案じる気は毛頭無かった。
だが、ヴァネッサにその意図は届かなかったようだった。
次第に彼女の表情は驚愕から、何ともぬるい笑みへと転じていった。
その笑みの意味を私が問う前に、彼女はすっと、子供の側にしゃがむのだ。
視線の先には私の囚われた指があった。

「仲がよろしいのですね」
「いや、これはだな」
「良かったですね、姫様」

私の弁明を無視し、ヴァネッサは子供に語りかける。
子供はこくりと頷いた。ふふふ、と満足げに笑う彼女。
その柔らかく慈愛に満ちた笑みは、私の内に言いようも無いわだかまりを落とすのだった。

「あのな、何を勘違いしているかは知らぬが……私は別に」
「ただ今ご用意いたします。姫様、しばしお待ち下さいませ」

再度頷く子供に微笑んで、彼女は早々と出て行った。
私はその背に、やはり数日前と同じで言葉を掛ける事が出来なかった。
彼女が私と子供と、一体どちらを重んじているのかを薄らとでも悟ってしまったが故にである。



「行くぞ……」
「う、うん」
「行ってらっしゃいませ」

少しして、私は子供を連れ立ち部屋を出た。
現れた時と同じように、頭を下げて見送るヴァネッサだった。
私はそんな彼女に、何を言うべきか未だに計りあぐねていた。
ひとまず生ぬるい視線から逃れるべく、私は廊下を道なりに進み始める。
右手の指を子供に掴まれたまま。


あれから時を置かずして、ヴァネッサは私が所望した品を携え戻って来た。
お陰で私は軽く面食らうこととなった。
彼女の仕事の早さにではない。問題はその量だった。
彼女の下で働く平のメイドを二人従えて、ヴァネッサは合計五つもの大きな衣装ケースを子供の部屋に運び入れた。
最初は何かの冗談と思い動向を見守っていたのだが、その内に子供が奪われて着せ替えの人形とされてしまった。
彼女達にああでもないこうでもない、色をどう合わせようかサイズはどうか等々散々に弄ばれ困惑する子供を遠目に観察しながら、私は決して構うまいと沈黙を貫いていた。まずもって興味があろうはずも無い。
衣装ケースの中身は色とりどり、様々な衣類が詰まっていた。
無論衣装ケース五つその全てに隙間なく。
子供を攫うそのついで、ジンは彼女に粗方の用意を頼んでいたらしい。
食事や衣類など、最低限の生かす用意である。しかし生真面目な性格である彼女のことだ。
頼まれた仕事を必要以上にこなした所で、何ら不思議な点は無い。
しかしこれは少し過剰ではないかと思われた。
この子供は魔王に攫われてきた、単なる人質のはずである。
賓客などでは決してない。それなのにヴァネッサ他メイド達は、子供を一式着飾らせ、髪まで整え始めるほどのもてなしを見せていた。
私は確か、そこまで命じたつもりはない。

子供はヴァネッサ達に良いように遊ばれている間、心ここにあらずといった表情で、私の方をちらちらと窺うばかりであった。
ヴァネッサに呼ばれた際に見せた逡巡を、私の方から手を振り払うことで断ち切ってやったのだが、不安は拭い去れないようだった。
もしやそんなに仕置きが怖いのか、ひいては私が恐ろしいのかと直感し、薄く嘲笑を向けてやった。
すると子供は意表をつかれたようなとぼけた顔を浮かべるのだった。
何もかもが白紙に戻されたかのような表情の後、最早見慣れてしまった真っ当な笑顔を見せたので、私は何故だと声なく苦悶することとなる。
子供は以降、にこにこと上機嫌で彼女達の仕立てに協力した。

そうした私達の無言の内での戦いを背景に、彼女達の仕事もまたすぐに締め括りとなった。
一通り身支度を終え、子供はようやくまともに外をうろつける程度に着膨れて、乱れていた髪もきちんと一つに結われていた。
解放されると、子供はすぐに私の側へと駆け寄った。そして再び私の指を取る。
私は足元の子供を忌々しげに睨みつけてみるのだが、照れ笑いのようなものを向けられるばかりで、やはり一向に期待する効果が表れなかった。
それが、さぞかし仲睦まじく見つめ合っているように見えたよう。
観客代表たるヴァネッサは頬に手を添えて、目を細め言う。

「ふふ……やっぱり仲がよろしいようで」
「……いや、何がだ」
「何よりです」

まるで私の話を聞こうとせず、ふうと一息ついて額の汗を拭うヴァネッサだった。
僅かに浮かべたその微笑みは、一仕事終えた充足感で光り輝いていた。
彼女にそうした表情をもたらすほどに重要かつやりがいのある仕事であったのだろうかと、私は疲れ果てた頭を無理やりに悩ませるのだが。

「どこにいくの?」
「あ、ああ……そうだな」

子供が指を引き呼びかけてきたので、否応がなく現実へと引き戻された。
とりあえず立ち止まってみると、子供もそれに倣った。
廊下を進み始め、しばらくが経過していた。
その間魔物とすれ違うこともなく、磨かれた床には染み一つ無くどこまでもまっさらで、目に入る景色にろくな変化はない。
子供でなくとも少々退屈してしまう道のりである。
しかしそう言われた所で、連れ出し怯えさせることだけが目的で、行き先などは全く考えていなかった。
むしろその暇すら与えられなかったというべきか。
私は顎を一撫で二撫で思案し、そうして一計を思い立つ。

「天気も良いようだし、ひとまず庭にでも出るか」
「う、うん!」

そう言ってやると、やたらと晴れやかな返事が返って来る。
それがどれだけ私を苛立たせているのか、子供は思いも寄らないのだろう。
なるべく気にしないようにして、私は中庭へと足を向ける。
すると子供も慌てて脚を動かし始めるた。歩幅がかなり違うため、私の一歩は子供の二歩三歩である。
それでも子供は置いて行かれまいと必死に、軽い足音を響かせ小走りに後を追う。
自然、私の右手は後方から引かれる形となった。少々不自然で二の腕に響く。
先に利き手を差し出した事を、私は今更ながらに後悔した。
しかしこうして並んで手を取り取られしていると、子供も利き手の自由が利かない。
つまり痛み分けというわけであり……。

「おそと、どんなのかな……」

気楽な子供の呟きで、私のみが痛みと感じているのだと知った。溜息すら零れない。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

B……?他にも仲間が……こわい。
咲夜さんは確かにありかもしれません。メイドって言われると咲夜さんと歩鳥が浮かぶ。
今後もこっそり更新し続けます!

  • 2011/03/28(月) 12:37:39 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

更新乙です

いつの間にか来てた~♪
ヴァネッサが咲夜さんで脳内変換されてしまうwww

  • 2011/03/26(土) 20:36:02 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

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