ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・13

黒衣の章・13
廊下をしばらく進み、その間私に平穏が訪れることはなかった。
何しろ子供とくれば、まるで落ち着きがなかったのである。やや緩めてやった私の足に付いていくのもやっとの程だった。
ブロンズの甲冑が柱の側に飾られているのに気付くとびくりと怯え、廊下の先に魔物の姿がちらりと覗けば息を飲んだ。
しかしそれで済めば、私がこうして渋面を形作る理由はないのである。
私は足元の子供に、一旦剣呑な目を向けてみる。

「おい……ちゃんと真面目に歩け」

すると子供は私を見上げ。

「おしろすごいね」

そう言って、へなりと笑うばかりだった。
頭を抱えるまでもない。そろそろ言葉が通じにくいことくらいは、嫌というほど理解できていた。
結局子供が僅かに見せた怯えなど、私の目論んだような負の感情は全て長くはもたなかった。
子供は好奇心顕わに目を輝かせ、あちらこちらを忙しなく眺め回し始めたのである。
足取りはよたよたと危なっかしく、何度も何度も転びそうになりながら。
その都度私が舌打ち交じりに叱るのだが、まるで反省の色を見せることなく気ままな物見遊山に興じる子供であった。
ちなみに私の右手薬指は子供にしかと握られたままであり、子供のちょろちょろとした変則的な動きに付き合わざるを得なかった。
そのため私は子供の動きに呆れると同時、こうまで舐められねばならないのかという真っ当な怒りもふつふつと沸き上がった。
だがそれを発散するべく私が口を開くその前に、子供は静かに言うのである。

「おそと、はれてるね」

子供の視線を追い、窓の外を見やる。
そこには今朝からずっと変わらず、快晴が広がっていた。
青く澄みきった空には綿を小さくちぎったような雲が、少しばかり浮かんでいる。
しかし、だからどうしたと言うのだろうか。
一先ず適当な相槌を打ってやる。すると子供は同じ調子で続けた。

「あったかいといいね」
「……そうだな」
「あったかいのとさむいのだと、あったかいのがいいの」
「まあ……それには同意しておこうか」
「うん」

なおざりな私の返事にも、子供は真面目に頷いた。
その真摯な態度には幾分か緊張感らしきものが紛れていたが、子供に捕らわれたままの右手薬指からはただもう一方的な親しみのみが伝わった。
これではもう、残酷なまでに明白だ。私は子供に好かれてしまった。

「……はあ」
「な、なに?」

一つ溜息を零してみると、子供は気遣わしげに私を見上げる。
何でもないとぶっきらぼうに言うと、子供はにこりと頷いた。
そうして私は本格的に、深く深く悩み始めるのである。
私は何か子供に懐かれるような事をしたのだろうか。
ここ数日確かに面倒を見てきたが、それは果たして好意を寄せられて然るべきものだったのか。
いや。あれで懐くなら生存本能をどこぞに置き忘れてきたとしか言いようがない。
見れば見るほど子供は弱弱しい。どこもかしこも柔らかく、四肢や容積の少ない頭蓋を支える頸椎はひどく千切れやすそうだ。
いくら手加減していると言ってもほんの少しの弾みさえあれば、私は子供を殺してしまうことだろう。
それなのに子供は最早私を恐れない。臆することなく私を捕える。

この小さな手を振り払う事は容易い。
しかし、何しろしたり顔で異形のこの手を掴めと言ったのは私自身である。それ故に今更放せとも命じづらかった。
むしろ子供に屈してしまったことを認めることにもなるので、それだけは何としても避けなければならないのだ。

(ともあれ躾け直すべきだな……うむ)

私はそう独りごつのだが、今現在まさに躾けになると思い無理やり外を引きずり回しているところである。
しかし子供には散歩にしか思えないよう。今も私の足元をちょろちょろと動き回り、私は今日何度目かも知れぬ舌打ちをするのだが。

「え、何やってんのお前」
「む」

不意に降りかかった声に、思わず冷静を取り戻す事が出来たのだった
何かと思い振り返れば、そこにはジンが立っていた。
その顔に、僅かな不信を浮かべながら。面白くもない誤解の予感が突如として私を殴った。

「……よう」

しかし私は平静を装い、ジンに軽く片手を上げて応えてみる。
それによりジンの顔色は曇りに曇った。顔を強張らせたまま、カッカと固い足音を響かせ近付くジン。
それに子供は怯えてしまったようだった。指にかかった僅かな力の変化にちらりと見下ろせば、ジン以上に険しい顔がある。
そういえば、こいつを攫って来たのは目の前にいるジンだった。かなり派手に血生臭く事を起こして来たと言っていたので、未だ実力の片鱗を包み隠したままである私とジンとを比べ、どちらが畏怖の対象たり得るかなどは明白である。しかし気に入らなかった。
不本意な怯えをこれ以上見ずに済むようにと、わざわざ私は影に子供を隠してまで、盾になってやった。
すると子供ははっとしたように私を見上げる。青の瞳は相も変わらず、私だけを映していた。その目に何かを答えるその前に、襟首に違和感。

「お前……こんな所でガキと何やってやがるんだ」
「散歩だ」

仕方なく前を向くと、やや下方から凍て付く眼光が三つばかり。
子供のものとはかなり質の異なるそれらを前にした所で、私が動ずる義務はない。

「分かったらその汚い手を放せ」
「ちゃんと殺菌消毒しとるっつーの。こう見えて職業柄健康にゃ気を使ってんだよ」
「戦場で華々しく散るためか。出来た心構えだ。しかし主君に対する忠義心は些か不足しているようだな」
「んなもん元から持て合わせてるわきゃねーだろボケが」

おおよそ発してはいけない類の台詞だが、ジンの口調に躊躇いはない。
吐き捨てるついで、私の襟首を乱暴に解放する。舌打ちしながらも私は皺の寄った衣類を払うように正すのだが、ジンは私の行動になど眼中にないようだ。いつしか奴の視線は私の足元に注がれていた。無論その先には、大人しく息をつめて私達のやり取りを見つめていた子供がある。
ジンははあと溜息を吐いた後、子供を指差し言う。

「で、散歩はいいとしよう。何だよこれは。何だってガキと手繋ぎ仲良く城ん中徘徊してんだよ」

苛立ちの籠った不躾な言葉。
私はそれを怒鳴るなり殴りかかるなり、どうとでも止める手段は有していた。しかし残念な事に利き手が子供に囚われたままである。
おまけに事を荒立てると子供が喧しくなるかも知れぬと思えてしまい、仕方なく、私はなるべく静かな声色を心掛けるのであった。

「迷われると面倒だ。しっかり捕まえておかねばなるまい」
「いや、どっちかってーとお前が掴まってるように見えるんだけど……」

腑に落ちないとばかりに顎に手を当て悩むジン。
しばし子供を睨みつけていたのだが、しかしすぐにギクリと我に返ったようで私を見上げて言う事には。

「え、お前マジでそういう趣味はねーよな?」
「潰して庭の肥料にでもしてやろうか貴様」

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

>ななし3さん
うわあああお大事にほんとお大事に…!
まだまだ落ち着かないことと思われますが、なごなごして下さい(´;ω;`)

  • 2011/04/24(日) 01:52:24 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

被災したあと立て続けに病気にかかって入院と言う名の軟禁にあってましたw
無事退院してようじょになごなごしています。

  • 2011/04/23(土) 09:56:12 |
  • URL |
  • 名無し3 #-
  • [ 編集 ]

>水無月さん
今はまだ単なるロリコンですけどね!

>名無しBさん
悪くなくても血となれ肉となれ経験値となれー!(殴)
ほんとあと何ページしたらデレるんでしょう!作者も分からん!

  • 2011/04/08(金) 23:41:52 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

ぼくは悪い名無しじゃないよ

魔王がデレるまでもう一息か…

  • 2011/04/07(木) 22:49:37 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

まおうさま は ろりこん じゃ ないよー。
ただの おやばか な だけなんだ!

  • 2011/04/07(木) 04:19:32 |
  • URL |
  • 水無月 #-
  • [ 編集 ]

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