ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・14

黒衣の章・14
私は何を馬鹿げたことをと睥睨する他ないのだが、ジンが黙ることはなかった。
それどころか、その場にしゃがみ子供と無理矢理目線を合わせる始末である。
どの辺に蹴りを入れてやろうかと脇腹辺りをじっとり観察していると、見下ろす先のジンの顔が、さも愉快とばかりに歪む。
更には喉の奥でくつくつと笑い始める始末。
そのため子供は顕著に怯え、私の指を掴む力を増すのであった。
子供は庇うべきか、もしくは手を離せと言いつけるべきか。
選択の余地がないはずの手段に、私は少々迷ってしまった。
よって無言が生まれ、ジンは我が物顔で子供に手を伸ばし。

「よっと」

子供の頬を乱暴に摘まむのだった。
ジンは人とそれほど外見的には変わりがない。
そのため爪を持つ私のように気遣う必要もなく――あったとしてもどうだろう。頓着しない気もするが。――ぞんざいかつ気軽に子供に触れる事ができるのだ。
それを見て、私の顔がどれだけ引きつってしまったかについては、敢えて度合いを述べるまでもないだろう。
しいて言うなら大量の毒虫が詰まった巣に、手を入れてかき混ぜるような感覚。
魔王と言えどもさすがに堪える程度である。

「あはは、変な面だなあ」
「おい待て貴様」
「あぅ……う」

案の定べそをかき始める子供だ。しかしぐっと目を瞑ったまま、懸命に涙を堪えている。
その辺りを見るに、少なからず耐えているのだろうと思われた。
ジンは構うことなく思うさま子供を弄くり回す。
怪我はさせないだろうが、小さな傷くらいは付けてしまいそうな遠慮のなさだった。
子供自体か、その反応かが珍しいのだろうか、やたらと意地の悪い笑みを浮かべている。
そうか、私が先日子供をからかい遊んでいた時、ヴァネッサがえも言われぬ表情を見せていたことに今更ながら合点がいく。
確かにこれは見苦しい。

「やめろ」
「なんだよ」

下僕の醜態に耐え切れず、私はジンの手を払う。
その拍子に子供はあっと短く歓声らしきものを上げるのだった。
助けてやったと思われるのは癪である。
酷く輝く子供の視線には気付かぬ振りをして、憮然としたジンを睨む。

「見苦しい真似はよせ。このような取るに足りぬ生き物を痛ぶり楽しいのか?」

やれやれとばかりに肩を竦めて言い放つ。
するとジンは己の行為を恥じ、私に頭を下げて詫びる……のかと思われたが。

「あ? お前だってガキ玩具にして遊んでたんだろ。ヴァネッサから聞いたぞ」

理解不能といった顔で見つめ返されるばかりであった。
気のせいだろうと誤魔化してみるも、依然ジンは疑わしげな目を向けており、それどころか子供ですらもが不思議そうに私を見上げる始末であった。
ええい鬱陶しい奴らめ。魔王に対する心構えがまるでなっていない。
ジンは今更矯正不可能だが、子供はまだ一縷の望みがある。
しっかりと教育し、私への敬意……もとい恐怖を植え付けねば――

「な。こいつめんどくせーだろ?」
「う、ううん……」

半意気投合を見せるな貴様ら。ちらちらと気遣わしげに送られる視線は無論子供のものだ。
それを見、ジンは満足げににやりと笑い、のそりと立ち上がる。そして子供を見つめて言う。

「まあ何にせよ、ペットの世話とでも思って励んでくれや。お前に渡すメインの仕事はまだ先の話になるからよ」
「……ああ」

それはただ事実を告げるような口調だった。まあ当然の事だろう。
真実を知らぬジンにとって、子供は単なる餌でしかない。
ふと目を落とすと、予想通りに子供の視線とぶつかった。
最早私の指にかかった手は二本に増えてしまっていて、不思議そうに私をじっと見つめるその目に、悲惨な運命を歩む者特有の悲しみや諦め不幸が浮かぶ事はない。おぞましい程の光に満ちている。
だからこそ私は口を噤むのだ。私の掛け替えのない平穏な日々のため。その結果子供がどのような末路を辿ろうと、私の知ったことではない。

「くっ……くくく」

不意に上がった笑い声。見るとジンが口元を押さえて呻いていた。
こいつの挙動不審はいつものことだが、今日はやたらと上機嫌で気色が悪い。

「はは……そのガキに随分とご執心のようだな。情でも沸いたか?」

そして出てくるのは勘違いも甚だしい台詞であった。

「抜かせ。そんな訳があるか」
「そうかあ?」

私はそれを吐き捨てるようにして斬り捨てるのだが、ジンはなおもにやにやと下卑た笑いでもってして私の真意を問うのである。
不躾にも程があるその笑みに、無論私の苛立ちは増すばかりであった。
何故私がこんな生き物一つに情けをかけてやらねばならないのか。
植物ならば手をかけ情けをかけた分、目に見えて実りが現れる。しかし子供には何があると言うのだろう。
利にならぬ労力を良しとしない私にとって、子どもの世話は打算的な意味しか持たないのである。
かれこれ百年と少しという長い付き合いだと言うのに、何故この手下にはそんな簡単な事が分からないのだか。

「お前はそう言うが、『これから目覚める可能性が無きにしも非ず』って感じに見えるんだがなあ。やめてくれよー? 流石の俺でも仕える主人が幼児性愛とか、ちょっと本格的に下剋上を考えざるを」
「行くぞ」

下品な弁論を垂れ流すジンの横をすり抜けて、私は庭へと足を向けるのだった。
時間を無為にしてしまったことの帳尻を合わそうとしたために。決して、それ以上のジンの言葉を子供の耳に入れさせないようにと急いたためではない。
呼び止めるかとも思ったが、ジンは同じ笑みを湛えて私を見送るばかりであった。
全く腹立たしい事だ。しかし相手にするのも面倒で、尚且つ利き腕が封じられているとくればこうして流す他ない。
子供は私が突然踏み出したので、少々たたらを踏んでしまった。
転ぶように足を出し、私の指に捕まり何とか体勢を立て直そうとする。私の歩数でたった五歩の距離。
本来の私の歩調であるならばこの間に九歩は進める上、歩幅もかなり狭く抑えてやっている。
私は何かにつけ面倒の多い子供を睨むことでしか、この不本意に対する手段は無い。
その上更なる面倒が降りかかってしまったとあれば、いくら私とは言え対処のしようが見当たらない。
何かと言えば、ようやく体勢を直し自らの足で歩き始めた子供が、そのすぐ後に私の指をあろうことか放してしまったのである。
ふとした拍子に偶然、というものではなく、その行動にはしっかりと子供の意志があった。
何しろ私の指を離してすぐに背を向けて、進む方向とは真逆――ジンへと駈け出して行ったため。

「お、おい」

まさかそちらからこの拘束を解くなどと思ってもみなかったので反応が遅れ、手を伸ばした時にはもう遅く、子供は僅かに届かぬ距離まで離れていた。
私は酷く狼狽した。主導権は私にあるはずではなかったのか。
放せば仕置きだとする私の言葉を忘れてしまったのか。
そのどちらにせよ、右手小指にほんの僅かにかかっていた力は消え去った。
その事実が私の心を掻き乱した。言い付けを守らなかった子供に対する、憤り以外の何物でもない。
そう結論付け片付けようとするのだが、私の体は何故か思うように動かなかった。
金縛りにでもあったかのように、その場に凍り付く。
ただ出来ることと言えば子供とジンのやり取りを、少し先、手の届かない場所から見つめていることだけだった。

「あ……あの!」
「あ? 何だ、ガキ」

にやにやと子供の前に再度しゃがみ込むジン。
すると子供はジンの耳元に顔を近付け何事かを言ってのける。それは、惜しいかな私の耳には届かなかった。

「…………は?」

次の瞬間には、ジンが得も言われぬ、呆けた顔を浮かべているのであった。
それから奴は以降口を開いては忌々しげに閉じ、という施行を繰り返し、その内に顔は薄気味悪いものでも見るかのような青ざめたものになった。
その先にあるものは私ではなく無論餌呼ばわりしていた子供である。
私の場所からは子供の背しか見る事ができない。
そのため子供の表情を読み取る事は出来なかった。
しかし何とはなしに、私に向けるものと同種のものを作っているのだろうと予感した。
だが子供がジンに語りかけたのは時間にして僅か数秒ほど。
その間に何か言うことが出来るとすれば、ほんの一言二言だろう。
その数少ない言葉によって、あのジンが完全に子供に飲まれていた。
私はあまりに突飛な光景に、我が目を疑わざるをえなかった。
果たしてどのように強力な力が込められていたのだろうか。
様々な可能性を考えてはみるものの、どれもこれもが適さない。
まずジンをこうまでうろたえさせるなど、私にすら中々出来ないことであると言うに……。

「あ」

ふと気付いたように子供は声を上げ、駆け足で私の元へと戻るのだった。
そうして元通り私の指を取る。小さく、あってないような感触が再度舞い戻った。

「ご、ごめんなさい」

心底申し訳なさそうに縮まってしまったが、そこに在るのは変わらぬ子供の顔だった。
それは恐ろしい魔物を言葉一つで抑え込んでしまえる程に力を有しているとは到底思えない、凡庸なものである。
私はそこで、ジンに何を言ってのけたのかと問うべきであった。
しかし私は子供に関心があまりない。だからこそ聞く必要はない。
そうでなければならない。そうでなければ何かがおかしい。

「……まあいい。行くぞ」

私はその一件を忘れることにした。元通りに足を踏み出すと、子供は滑らかに付き従った。
子供の所作はあまりに自然で、その自然さが早く庭に出なければと私を追いたてた。
私たちは逃げるようにその場を後にした。
一度だけそっと振り返ってみると、ジンが先と全く同じ、得心のゆかない顔をして私達の行方を見つめていた。
それは大変に、気力の失せた虚ろであった。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

明かすのは結構先になると思いますが、まあそんなに捻ってはいませんよ!
気付いたら増えてる…という気儘更新でやっていきますww

  • 2011/04/30(土) 23:02:37 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

またいつの間にか来てるしw
幼女何を言ったんだろ
何となく予想はつくけど、次回を楽しみにしときます( ̄ー ̄)

  • 2011/04/28(木) 12:27:06 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

ありがとうございます!次の章では娘視点をちょこちょこ入れるので、そこで明らかにしようかと!
そして3が定着したwwいいんですか?www

  • 2011/04/27(水) 23:39:00 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

今回もおもしろかったー!
そしてようじょはなにを言ったのか?
きになりますw

  • 2011/04/27(水) 07:24:58 |
  • URL |
  • 名無し3 #-
  • [ 編集 ]

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