ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・15

黒衣の章・15
それ以降、子供は私の指を掴んだまま大人しく従った。
道中その他魔物とすれ違う機会は幾度かあったのだが、ジンの時のように突然私の指を放し駆け出すことはしなかった。
ただし、だからと言って子供の態度は殊勝には程遠かった。

「こんにちは」
「……ハァ?」

彼らとすれ違う度、子供は丁寧に頭を下げ挨拶するものだから、私は訳も分からぬ苛立ちを持て余すことになるのであった。
魔王に囚われ引き摺り回されているというのに、何故にそうした余裕を振り撒けるのか。
と言うか、折角私には及ばないでも恐ろしい獣なり翼や角なりが生えた仰々しい魔物がいるのだから、しっかりと怯えろ。
言葉なく睨んでみても、鈍い子供はまるで気付く素振りがなかった。
しかし幸いにもほとんどの魔物は訝しげに子供を見るだけで足早にその場を立ち去ったので、私が子供を嗜める場面は少なく済んだ。
しかし一部。
メイド達は顔見知りなのかヴァネッサから子供の存在を聞き知っているのか、一々足を止め子供に構う始末であった。
無論、彼女達もこの魔王城に仕える身。魔物である。
それなのに彼女達が子供に対して浮かべる微笑みは、どうした訳か色濃い好意に満たされていて、思わず私が言葉を失う程度には甘いものだった。

「魔王様に姫様、ご機嫌麗しゅうございます。お外に出られるだなんて珍しいですね」
「おい、なるべく構うな。こいつはただの人質」
「お……おさんぽです」
「まあ!それは良かったですねぇ」
「……」

あるメイドなどこうした会話を私を余所に長々繰り広げてから、子供に幾つかの飴玉を与えて手を振り去って行った。
色々と意味が分からない。
強いて言挙げるとするならば、彼女が去り行く際に主たる私へと何の言葉も献上しなかったその理由であろうか。
しかしこれは理解せぬ方が恐らく吉だ。
首を捻り唸っていると、それをどう思ったのだろうか。子供が私に飴玉を一つ差し出した。
与えられた飴を見つめてにやついていたと思えば、いつの間にやらやけに似合わぬ真面目腐った顔をしていた。

「……何だ」

極力ぞんざいに、興味など皆無であるとの姿勢を心掛けて声をかける。
しかし子供は特に臆することもなかった。

「あ、あめあげる」

最早何を言う気にもなれず、黙って掴まれていない片手を差し出した。
すると子供も黙ってそこに飴玉を転がして、後はもう期待の眼差しを惜しげもなく披露する。
私は甘いものを好く質ではない。しかし疲れた脳が糖分を欲していた。
安っぽい包みを乱暴に破り飴玉を口に放り込むと、単純な甘みが舌の上でじわりと滲みた。
慣れない感覚に私は顔を顰めてしまう。何とも爽快感のない、澱のような味覚だと感じた。

「おいしい?」

子供が真面目なその顔のまま尋ねた。しかし私に感想など抱けるはずもない。

「まあまあ、だな……」

適当な言葉で濁すと、子供は真妙に頷いた。
それから飴を食べていいかと尋ねてきたので、これもぞんざいに肯首した。
子供はそうして初めて自身も飴玉を口にした。口にするなり幸せに顔をほころばし、真面目な気配は掻き消えた。
そんなに美味いものかな、これは。しかし稀に従順な様を見せつけてくる奴である。
呆れの篭った目で見つめていると、子供は慌てもう一つの飴玉を差し出した。いやいや。

「もういい。後はお前が食え。行くぞ」
「う、うん」

道中このように小さな面倒はいくつもあった。
その都度もう部屋に戻ってしまおうかと思いはしたのだが既に道のり半ばはとうに越えていて、戻るよりも庭に出て気分をリセットした方が無為に時間が潰せもするので得である。
そう思い私は嘆息しつつも歩を進めざるを得なかった。
子供は変わらず、上機嫌で私に付き従う。
忠誠に飢えていた私にとって、それは何の慰めにもならなかった。
何故こんな生き物のみに慕われねばならぬのか……。
適当に二三言葉を掛けながら、私は残りの道中を急ぐのだった。


そうしている内に、ようやく中庭に出ることが出来た。
肌寒いながらも程よく日の光が降り注ぎ、風も僅かで過ごしやすい。
爽やかに漂う緑と花の匂いを深く吸い込むと、心が洗われるようである。

「……はふ」

しかし隣の子供は爽快感とは無縁の息を吐き出すのであった。
中庭がいくら押し込めてある部屋に臨むとはいえ、城最上階から降りれば時間も距離もかかる。
子供はどうやらこの長旅に疲れて果ててしまったようで、庭に足を踏み入れた時には既に口数がめっきり減ってしまっていた。
興味深そうにきょろきょろと辺りを見回し、辛うじて私について来てはいるものの、足取りはかなり重い。
私はそれを引き摺るようにして進むのであった。
因みに、この魔王城は世界の北の果ての果て。巨大な岩山の上に居立している。
そのため雑草ですら自然と生えることはないのだが、城は私の魔力によりある程度住みやすい環境に保たれている。
棲みつく魔物達のため、気温や湿度、酸素の濃さなど地表とほぼ同じ条件を作り出した副産物として、このような園芸に精を出すことが出来るのだった。
さすがに天候まで制御してはいないので、雨風に襲われる事はあるのだが、父上が存命の頃はそのような配慮が全くなされておらず、年中凍て付く風に晒され外はおろか中も随分と寒々しい荒れ具合であった。
それを私の代になってから、こうして住み心地良い城に仕立て上げたのだ。
私が城の警備員を自称するのもその辺りに由来するのだが、ジン辺りの口さがない者共は私が私利私欲、もとい庭で自堕落に草花と戯れんがために城を快適に保っていると思っているようだ。
全く失礼な連中だ。まあ、七割程はその通りの理由であるのだが。

庭には様々な植物が息づいている。
形の良い植え込みの前には、スミレやユリなどの鉢がいくつも並べられており、大人しく風に揺れている。
庭の隅には蓮の浮く小さな池がある。
この庭は私の個人的な空間であるため、よっぽどのことがない限り、他の者達は立ち入り禁止にしている。
乱れの無い水音と、木の葉の擦れる音、そして私と子供の足音だけで満たされた、実に静かな空間で――

「うぉら何をもたもたしてやがるてめえら!! 姐御のお呼びなんだぞ!? 一秒でも遅れれば俺たちゃ命はねえ!!」
「へ、へいすいやせん兄貴!! あ、魔王様今日は! んでもって失礼しまーす!」
「あ……ああ」

今のようにごく稀に、騒々しい魔物達が近道がてらに横切ったりもするのだが、基本はそう、静かな空間だ。
と言うか、相変わらずヴァネッサには荒々しい舎弟が多いようである。
子供は最早ぐったりと疲弊しきっていて、魔物達に反応すらしなくなっていた。
仕方がないので私はそれを片手で抱え上げ、運んでやることにした。


持ち方に少々困ったが、小脇に抱えるにしても子供は微妙な大きさがあったので、結局胸に抱くようにして持つ事にした。少々身じろぐ子供であったが、特に抵抗する事はない。ぎゅっと私の服を掴み、怖々私を見上げるだけだった。
大人しくしていろと言い付けてから、私は庭の中心へと向かった。
そこにはつる薔薇の生い茂る生垣で、周りをぐるりと囲まれた空間がある。
私の、ささやかな隠れ家だ。中には青銅色の小さな椅子と机だけが備えてある。
いつぞやの、小雨が降るあの日以来である。
アーチをくぐり立ち入ると、つる薔薇の蕾から洩れ出た甘い香りが鼻腔をくすぐった。
そろそろ訪れる開花時期に備えて英気を蓄えているのだろう。
この分なら今年も例年に漏れず、いや、それ以上に出来のいい薔薇が見られるかもしれない。

「はあ……」

私はようやく椅子に腰を降ろすことができた。
私が座っても軋む音すら上げないところを見るに、まだしばらくは野晒しにしていても平気だろう。
子供は私の膝に座らせた。
椅子が一つだけの上、机は私が肘を付くくらいの広さしかないので子供を乗せるには少々足りない。
そのため子供を置く場所がここ以外に存在しないのだ。仕方がない。
子供は私の膝の上で、じっとしている。
しかしそれは言い付けを守っているのでも、庭を眺めることに夢中となっているのでもなかった。
ただ子供は私を見つめていた。
それは特に感情の読み取れない、空虚な瞳だった。
それでも瞳の青はどうしようもなく澄んだ色のままで、私がどれだけその色を見つめ返してみても、まともに揺らぐ事は決してなかった。
私は一度目を閉じ、うるさい青色を視界から追い出すことにした。こいつは今日一日で、一体どれだけ表情を変えれば気が済むのだろう。
ヴァネッサ達メイドには過剰に可愛がられ、ペットとしての地位を築き始めたかと思えば、時折私を振り回し、ジンには何やら衝撃的な言葉を浴びせたりもする。
全く、理解の難しい生き物だった。
しかしそれでは困るのだ。
再度目を開いてみれば、そこには変わらぬ青があったのだが、少し間を置けば僅かに幸せが溢れ出た。
その理由が私にはさっぱり理解できず、やや胸が焼けると同時に不安が去来する。
こんな風にして子供のペースに巻き込まれているようでは、ジンに子供が使えぬ駒だとばれてしまうのは時間の問題だろう。
そんなことになれば、いらぬ面倒が私に降りかかるのは目に見えている。
何かしっかりと、子供の手綱を握る方法はないものか。
私だけが、子供を操れる、鍵のようなものが何かないだろうか。
飴などの甘い物で釣るのは簡単だが、それでは些か不十分な気もする。
文字の練習を見てやると喜んだが、それも微妙だ。何か、何かないか。
子供の瞳を見つめ、考え込んでいるその内に、はっと一つの単語が浮かぶのである。
エリザベス。これだ。そう思うのと、言葉が口をついて出るのと、どちらが早かったのだろうか。

「おいお前、先程私の手を放しただろう。言い付けを破ったな」
「ひ」

突然低い声で話し始めた私に、子供はあからさまに身を固くする。
しかし私は攻めを止めない。喉を恐怖に詰まらせ怯える子供の顎を掴み、あるはずもない逃げ道を断ってから。

「罰として」
「ご、ごっ、ごめ、ごめんなさ、いっ」
「名を、エリザベスと言ったか?」
「…………」

そう問いかけると、途端に子供は気力が尽きたかのように、顔を曇らせる。しかし言葉なく頷いた。
私はそれを見て、にやりと笑い続けてやった。

「私はその名が気に食わない。何か。何か他に、呼び名はないのか?」
「え……」
「何でもいい。教えろ」

この子供は影の姫。
ならば姫のものではない、本当の名前があるのだろうと当たりをつけたのだった。
名前とはそれだけで強い力を秘めている。
いざと言う時真の名を知っていれば、どうとでも子供を操ることが出来る上、始末することも容易となる。
馬鹿な子供はそうした私の思惑になど、気付く事は無いだろう。
ぼんやりと、何も見えていないような恐怖に染まった目で、しかし確かにこう呟いた。

「エリシア」
「そうか、エリシアか」

エリシア、エリシア。と私がその言葉を確認がてら口にする度、子供は壊れかけの機械のように力強く頷いた。
死の安らぎに浸るような、過酷な生に甘んじるような。
そんな、数年ばかりを生きてきた小さな生き物が浮かべるにしては、どうも極端すぎるような涙を滲ませながらも、そうすることが義務であると言いたげに、何度も何度も首を縦に振るのであった。

「では、エリシア」

私は子供の顎を掴んだままで、仕上げとばかりに顔を近付け、こう囁くのだ。

「この名は私と、お前だけの秘密だ。ジンやヴァネッサには教えてはならない。いいな?」
「は、い」

子供の瞳に映った私の顔は、酷く楽しげに歪んでいた。




子供はそれからしばらくの間嗚咽を上げて泣きじゃくっていたのだが、いつの間にか眠りについていた。
ぐったりと私の胸にもたれる子供を抱いたまま、私は再度その名を舌に乗せてみた。
ささやかな平和を維持する道具の名は、案外に良き響きを持って空気に溶けた。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

もっとやりますやったね( ´∀`)b
これからちょっとずつ甘くなります多分。

  • 2011/05/18(水) 23:36:23 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

なんか、この微妙な距離感が( ´∀`)b
いいぞ、もっとやれ( ゜∀゜)o彡°

  • 2011/05/16(月) 23:58:21 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

まだまだ焦らしますよ!なんかこの距離感が楽しくて!
ちなみに、実際は突き抜けてデレています。無意識なんで描写がないという。

  • 2011/05/15(日) 22:44:16 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

えりしあ(*´Д`*)
いまもいい感じですが、早くいちゃいちゃべたべたしてください!

  • 2011/05/14(土) 07:28:12 |
  • URL |
  • 名無し3 #-
  • [ 編集 ]

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