ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・16

黒衣の章・16
「む」
「オヤ……」

角を曲がったその先で珍しい影と出くわし、私は足を止めた。
影も私の前で立ち止まる。
私はそれをじろじろと頭の先から爪先までを眺め回してみるのだが、どう見たところで配下の内、かなり個性的な一人である。
頭三つ四つ分は図体の大きな私に睨まれても平然と、むしろ何がそんなに可笑しいのやら。
ぐっぐ、とくぐもった笑い声を漏らし、下卑た形に口の端を持ち上げてみせる始末であった。
その姿を見る者、その声を聞く者に、圧倒的な不快感を一方的に叩きつける生き物。
その一貫した在り方は流石であると思う。思うのだが、今私はこいつとまともに顔を合わせることが非常にマズイ。
声など出さず、そのまま通り過ぎれば良かった。
一抹の後悔を胸に抱き、何事も無かったかのように影を避け先を急ごうとするのだが。

「これはコレは魔王サマ……ナンだかやたらとお久しぶりでゴザイますネエ」

一歩踏み出すその前。計ったかのようなタイミングで影が陰気な台詞を吐いた。
いや、恐らく完全に計っていた。その証拠に私を見上げる左目が、無意味な光を宿している。

「ああ……ズィーベン」

仕方なくその名を呼ぶと、目の光は一層暗いものとなった。
纏う腐臭が色濃くなったような気もしたが、それは恐らく錯覚だろう。
こいつは何の事はない。
私の配下の魔物の一人であり、死体を操ることに長けたよくあるネクロマンサーという奴である。

その実力は大したもので、百程度の死体であれば生前以上の力を引き出し意のままに操ることができる。
その上不死の体を持っているときた。
斬っても突いても燃やされてもへらへら余裕で笑っていられるものだから、これほど敵に回すと面倒臭く薄気味悪い男もいないだろう。
我が城の実力者の一人としてジンなどと肩を並べる者なのだが、如何せんその陰気で嫌味な性格と、余りに酷い見た目のせいで周囲からの信望は皆無と言ってもいい。
ズィーベンは不死の体を持て余しすぎて、自身も死体と変わらぬ容姿と成り果てた。
体を覆い隠す闇色のローブの下にある肉体は傷だらけであると聞き、唯一外に出している顔も血の気は失せ、右目は潰れ、鼻には大きな切り傷、耳も両方千切れ掛けている。
まともなパーツなど唯一左目くらいしか残っていない。
軋む音まで聞こえそうな傷んだ髪は、血を思わせる暗い朱色だ。

何故か右手首を大事そうにさすっている様子を見る限り、また何か無茶でもして傷めでもしたのだろう。
手にも大小様々な傷が皮膚を埋め尽くさんばかりに刻まれていて、マシな部分は青白く、傷んだ部分は赤黒く、そして抉れた部分は深緑だった。
気色悪いからそれ以上怪我を負うなと私が何度命じても、そのうち治るからと従う素振りが全くない。
どうやら、自身の身に心底興味がないらしい。それにしたって限度があるだろう。
そうした外見的特徴だけでは済まなくて、どうやら口だか喉だかの損傷が相当激しいらしく、こうして濁った喋り方しか出来ないでいる。
それがまた当人の陰険さというか、全般的な負の部分を過剰に味付けしてしまっていて、忌避すべき存在として名実共に知れ渡ってしまっていた。
と、ここまでつらつらと悪口のような人物評を下したが、私としては別に構いはしない。
配下の容姿やアクの強さに引いているようでは、魔王が務まるはずもないのである。
しかし私は苦い顔をせざるを得ないのだ。何故ならこいつは――

「ぐっぐっぐ……そりゃソウデしょうねエ。ここのトコロ、ずット人間のガキと遊んでらっしゃるダケなんですカら。気楽なモンで何よりデスヨ」
「ほう」

確実に突っ込まれると思っていたが、まさか直球とは。
逆に感心から来る唸りを上げてしまう。
しかしズィーベンは揺るがない。
ただ嫌味たらしく私をはるか下方から睨み上げるだけであった。


あの、中庭で名前を吐かせた日から十日が経過した。
子供……エリシアはよく私の言いつけを守り、大人しく日々を過ごしている。
全く手がかからない、というわけでもないのだが、手綱を握れたためかあまり気負わず世話が出来る収穫は大きい。
文字の手習いを暇潰しに見てやる。間食を与えて静かにさせる。
部屋に閉じ込めているだけでは体に障るので、毎日少しの時間外を歩かせる。
その程度の世話をしながら、私は本を読んだり昼寝をしたりして空いた時間を潰している。

因みに時間を潰す場所は無論、子供の部屋である。
本を開くと読み聞かせろとせがんだり、昼寝のため寝台に入ると隣に潜り込んで来たりして、子供は無駄な自由さを事あるごとに発揮した。
しかしまあそれほど鬱陶しいものでもないので特に叱ることなく傍らに置いてやっている。
本を読んでやっても理解できないのかすぐに眠ってしまったし、昼寝の際は言わずもがな。
世話をする上ではかなり楽だった。
若干危機感やら恐怖心やらが枯渇しているような気がするものの、忠義らしきものは尽くすので問題はない。
そんな私の公私混同とも言える様を目の当たりにするにつけ、ジンは脱力気味に睨みつけ、ヴァネッサ他メイド達は意味ありげな微笑みを向けてくるのであった。
しかし一応は割り振られた職務に励んでいることになるので私がこうして気ままに過ごす事に誰も文句が言えないはずだ。どこからも正面切って文句が出ようはずもない。そうに違いないと思い、今日まで自堕落に過ごしてきた。

「マア、いいんデスがネエ……それが魔王様のオシゴトなんですシ」

だが、ズィーベンの物言いはあからさまである。
値踏みするかのように私を睨むその濁った左目は、随分と粘着力の高いものだった。
さりとて私が怯まねばならない道理はない。ふむ、と鷹揚に頷いてみせる私である。

「そうだ。仕事だからな。仕方がないだろう」
「ハッ……」

それに対して帰ってくるのは、苛立ちの籠った嘲りだ。

「ですが、忘れナイデ頂きたいものデスネエ魔王様……」

どうせこんな不穏当な言葉に続くのは十中八九、私の苦い顔を期待してのものである。
意地でも崩してやるものかとの決意を込めて、私はニヤリと笑みを貼り付けた。ズィーベンはしかし動じない。
右手を撫でながら、にやにやと。

「アナタのその行動を、不愉快に思ってイル者だってスクナからズ存在シているのデスよ?」
「その一人がお前というわけか?」
「サーア。どうでショうカね」
「はは、そう謙遜するな」
「ぐっぐっ……」

後はもう、互いに性根の腐った微笑を交わし合うだけだった。
実に非生産的なやり取りであることは十分承知の上であったが、下手につつくとかなり不愉快な申し出をされるに違いなかった。
しばらく低く朗らかに笑い合っていると、先に根を上げたのはズィーベンの方だった。
奴は最後の〆とばかりに私をねっとりと見上げた後、深々と頭を下げた。

「それジャ、シツレいいたしまスヨ。オレもそんなにヒマじャないモンデ」

そう言うや否や、私の返事も待たず隣をすり抜け、ズィーベンは右手をさすりながら足早に去って行った。
ひょいと振り返った時には既にその姿は立ち消えており、あまりにあっさりとした退場に悪い白昼夢でも見せられたのではと思われたが、どうも胸焼けのする気配だけは辺りに残ったままであった。
全く、鬱陶しい奴に出くわしてしまった。いつか当て付けをされると思っていたが、こんなに早いとは思わなかった。あくびのような溜息が零れ出る。
そりゃまあ、私がこうして人間の子供と遊び呆けていることは、さぞかし気に入らないことだろう。あいつにとっては。
とりあえず、今後子供に会わせぬよう気をつけよう。そうした軽い決意を胸に、私は目的の部屋に向かうのだった。




そうして進んだ廊下の先。今日はその見慣れた光景が少しばかり違っていた。
いくつもの扉が並ぶその中で、何故か子供の部屋のものだけが開け放たれたままになっていたのだ。
私はその光景を前にして、息の詰まる思いがした。
メイド達がそのような粗相をするとは思えず、かと言って子供が私の言いつけを破り、勝手に外に出たとも考えられなかった。
しかし後者は万一起こると実に厄介である。
中の様子を確かめるため、やや急ぎ足で駆け寄り中を覗き込むと。

「あ……?」
「あ」

そこにあったのは、いつも通りの子供の姿だった。
それ自体は実際のところ意外でも何でもないのだが、やや虚を突かれて固まってしまう。
子供は床に敷いたクッションの上に座り、カップを両手で抱えてふうふうと冷ましていた。
傍らにはトレーが置かれ、その上にはティーポットと砂糖にミルク、そして伏せられたもう一つのカップと二枚のソーサーが整然と乗っている。
絵に描いたように優雅な午後の一コマといったところである。解せぬ。

「まおうさんだ」

そうして子供は私に笑いかけるのだった。私の訪問を歓迎する意志しか見えない笑みであった。
かける言葉を探しているその内に、子供はカップに口をつけ、後は零さぬようにそっとソーサーに乗せた。
音をほとんど立てない行儀の良さに感心、とまではいかないのだが何とはなく思う所を感じ、ようやく私ははっと我にかけることとなった。
しゃがみ、精一杯低い声を心掛けて言うのである。

「…………何をやっているんだ」
「あ、あのね。このまえ、ふんじゃうからドアのそばでまってちゃだめって、いったでしょ?」
「ああ」
「こうしたら、ふんじゃうまえにみえるでしょ? まっててもいいよね?」
「…………」

何とも誇らしげな顔と言葉だった。
小さい生き物故に細かい動きは計りかねるが、どうやら胸を張っているようにも見える。
言葉を失うついでにふと見ると、開け放たれた扉には一枚の張り紙が貼られていた。
曰く、『お手を触れないでください・苛めないでください・かじらないでください』。
悲しいことに、見慣れた達筆だった。

「ヴァネッサだな……この張り紙も、この用意一式も」
「うん。ヴァネッサおねーちゃん」
「全く、余計なことばかりしおって……」

はーあと溜息をつきながら、そっと子供の頬を片手で撫でてみる。
どれだけ扉を開けて待っていたのだろうか。いつもより少しだけ冷えていると感じた。
子供は逃げる素振りも抵抗も見せる事はなく、大人しく私の異形の手で撫でくり回されている。
近頃は私に触れられると怯えるどころか、こうしてうっとりと目を細め、蕩け切った顔をするようになった。
猫であったのなら、喉でもごろごろと鳴らしていたことだろう。

「あのな、エリシア」

更に名前を呼んでやれば、もうどうとでもしてくれとばかりに更にへなりと顔がゆるむ。
犬であったのなら、腹でも見せてごろりと寝転がっていたことだろう。
ただ残念ながら子供は人間で、私の右手にそっと触れ、きゃーと小さな歓声を上げるだけだった。
それが何とも腹立たしく、もう一方の手で頭をぐりぐりと撫でまわしてやった。
ヴァネッサが整えたであろう髪の毛もすぐ無惨に乱れてしまって、実に小気味良い。
子供はお構いなしで甘え続けてくるのだが。

「お前は魔王に攫われて、閉じ込められ、恐ろしい拷問を受けている真っ最中なんだぞ」
「う、うん」
「だったらもう少し魔王である私の事を、怖がってみせろ」

撫で回しながら言う台詞ではないと我ながら分かってはいるのだが、誰も見ていないとはいえ、体面だかを保たねばならぬような気がした。
私の無駄なあがきに、すると子供はにこにこと屈託の無い笑みを私に向け。

「こわいよ」
「は?」
「まおうさん、すっごくこわい」
「ああ、もういい。分かった分かった」

そんな返答を受けてしまえば、さしもの魔王もお手上げである。
もういいかとエリシアを抱き上げて、温かな部屋に入ることにした。
ズィーベンの言葉を思い返しながら。
やはりこれはさぞかし腹立たしい光景になるのだろうなあと。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

なんだこの名前欄!!!

>3
付かず離れずで微妙な距離感です!かわいくなってれば良し!

>E
壊死とかググるもんじゃないですねほんと。ズィーベンは終始このままです。イメージは洋グロゲーの敵。でも萌えキャラ!

>B
まさにまあしてやったりという感じですよあざーっす!!

>C
片方えらいいかついしデカイしで撫でにくいと思いますが!それでもよろしいのでしたら!

  • 2011/06/03(金) 22:08:43 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

うぁぁぁぁ

もうなんて可愛いんだ、両方

頭ぐりぐり撫でたくなる

  • 2011/06/03(金) 19:10:12 |
  • URL |
  • 惰眠を貪るダメ人間C #HCI4rwHI
  • [ 編集 ]

あーもう

ニヤニヤが止まらん、どうしてくれるんだw

  • 2011/06/02(木) 10:35:17 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

グロ画像にダメージを受けるきつねちゃん可愛い!



姫のお陰でネクロマンサーの容姿が良くなったら笑うw

  • 2011/06/02(木) 09:47:03 |
  • URL |
  • 名無しのスライムE #-
  • [ 編集 ]

はうーーーーーーんwww
あまあああああああああい(*´Д`+)

あーもう。あーもう♪

  • 2011/06/02(木) 09:26:13 |
  • URL |
  • 名無し3 #-
  • [ 編集 ]

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