ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・18

黒衣の章・18
「さて」

私は顎に手を当てながら、ひとまずの一歩を踏み出した。
エリシアが姿を消した方向を目指して。
しかし探せと言っても、一体どこから手を付けていいものやら。
いくら階層を絞っているとはいえ、紛いなりにもここは城である。
部屋など多数存在しているし、あのような小さな生き物が隠れる場所など無尽蔵に存在している。
溜息を付きつつ、まず目についた部屋の扉を何とはなしに引いてみた。
カビ臭いすえた臭いがひやりと漏れ出、綿埃がふわりと舞った。
私は眉を顰めるが、歓迎としては中々だろう。
覗き込み、視界に飛び込んできたのは絵画、金銀宝石や書物、剣や鎧など。
要するにガラクタばかりである。
大きな窓に引かれたカーテンは触れる者が絶えて久しいらしく、すっかり色褪せてしまっていた。
まあ分かりやすい話、物置である。
ろくに掃除も手入れもしていないため、小さな生き物には、あまり中をうろちょろしてもらいたくない場所でもあった。
幸い埃の積り具合から見て、長い間誰もここには立ち行っていないようだが。
安堵し、扉を静かに閉めてほっと一息つく。

しかし私の生活圏内にはこうした物置と化した部屋がいくつも点在している。
その内の一つにでも隠れられ、怪我を負ってしまえば……――いかん、面倒の予感に頭痛がしてきた。
その上城の中はあらゆる魔物が棲み付いている。
小さな人間の子供など、一口で食らうか嬲り殺すか、そのどちらかしか浮かばないような者ばかりである。
ヴァネッサ辺りに捕獲されると安心できるのだが……それはそれで後から嫌味が飛ばされる事だろう。
流れに任せてとんだ面倒を招いてしまったと、その時になってようやく気付くこととなった。

「……仕方ないな」

そういうわけで私は軽く目を瞑る。
あの、思慮の足りない腑抜けた顔を思い浮かべてみてから目を開き、目的地へと足早に向かった。



それからしばらく歩みを進め、目的の扉を引くと、今度は爽やかな日の匂いが私を出迎えた。
悪くない。そう思い何食わぬ顔をして部屋に入ってみたのだが、中にいた三名のメイド達が総じてぎょっと目を剥き、私を注視した。
できることなら見て見ぬ振りをしてもらいたくはあったのだが、仕方があるまい。
私がこうした場所を訪れることなど滅多にない。
ベッドカバーやシーツなどが整然と積まれておりメイドらがせっせと働く、城でもあまり目立たない場所にある薄暗い部屋。
つまりはリネン室だ。

「ま、魔王様……どうかしましたか?」
「いや何、少し失礼する」

その内の一人がおずおずと歩み寄るのだが、それを片手で制し、私はずかずかと部屋の奥に進む。
他のメイド達は慌てて道を譲ってくれた。
今は姿の見えないヴァネッサはあの調子だが、その他のメイドはある程度私を敬い恐れてくれている模様。
当然のことではあるのだが、やはり気分は多少ながらに良くなった。
そうして辿り着いたその先にはシーツがうず高く積まれたカートがある。
その内の一つを、私は黙って見下ろす。やたらに雑な積まれ方をし、時折もぞもぞとその山が蠢く一つを。
ちらりと振り返れば、メイド達は相変わらず私を見つめている。
しかし、その頬がひくついていたり、視線が泳いでいたり、肩を震わせていたり、とそれぞれ思い思いに挙動不審であった。
そこで全てを察した。やや苛立ちが生まれるものの、構えば恐らく墓穴を掘る。
私は彼女らの生温かい視線を背に受け、シーツの山を払いのける。
すると中身はにへらと私を見上げるのだった。
カートの底には膝を抱えたエリシアが詰まっていた。

「何をやっているんだ、お前は……」
「みつかったー」

片手で摘み上げ睨んでみるも、ろくに効果は見られない。
満面の笑みを私に向けるばかりである。
それを抱きかかえ……るのは他の目があり憚られ、荷物のように小脇に抱える。
その瞬間、突き刺さる視線がやや熱いものになった。気がした。
エリシアもメイド達も、一体何が琴線に触れているのだか。
追求するのも億劫で私は部屋を後にしようと、颯爽と踵を返すのだが。

「見つかってしまいましたねえ」

一人のメイドが絶妙なタイミングで声を掛け、私はその場に縫い付けられる。
どころか、少し後ずさる羽目になった。
計六つの目が揃いも揃って私に……いや、私が抱えた荷物に、暖かな微笑みを向けていたもので。
思わず言葉を失う私の代わり、エリシアは彼女らにあっけらかんと言う。

「みつかっちゃいました」
「残念ですねえ……」
「折角隠して差し上げましたのに……魔王様ときたら」
「大人げないですよ、魔王様。ズルをなさってはいけません」
「待て、待て」

確かに気配を辿ってここまで来たが、何故そうも非難轟々なのか。
エリシアを見てみれば、どうも現状が私以上に分からないらしく、むやみににこにことメイド達を見つめている。

「お前達、こいつをむやみに構うな。調子に乗るだけ」
「魔王様だけ姫様と遊ばれるだなんてズルいです!」
「そうですよ! 私たちだってお世話差し上げているんですから!」
「メインのお世話ができるヴァネッサ様が羨ましいです!」
「……」

食ってかかる彼女たちに、私は最早言葉が無かった。何か、何かがおかしい。

「どういうことだ……」
「魔王様ご存知ないのですか?」
「今、城のメイド達の中では空前の姫様ブームなんですよ! その日のお世話係をクジで決めてはみんな一喜一憂するレベルで!」
「お湯浴みなんかはヴァネッサ様お一人が担当ですけれど……お食事のリクエストを頂いたりお部屋を掃除したりなんかして、私達も姫様のお世話をしているのです。たまにはこうして遊ばせて下さったっていいじゃないですか」
「姫様ってば私たちに毎回『ありがとう』って言って下さるんですよー。人間なのに健気で可愛いんですもの。ねー姫様ー」
「ねー?」

無論、彼女らも魔物である。人間の形は取っているものの、一目でそれと分かる異形である。
それが人間の子どもを可愛がっている。シュールと言う他ないだろう。
エリシアもエリシアで、彼女らに怯える素振りは微塵もない。
幸い空いていたもう片方の手で、私は痛む頭を押さえ苦悩することができた。

「まさかとは思うが……そのブームはお前達以外にも及んでいるのか?」
「さあ、どうでしょうねえ。メイドの間ではその話題で持ちきりですが」
「そう……か」

深く肩を落とし安堵する私であった。
食われるかどうかと案じてみたものの、流石に魔物達全般に好かれ懐かれ可愛がられる人間というのも不気味な話である。
これ以上被害を広めてはならない。こいつは人質で、おおよそ歓迎を受けてはならない客人のはずである。
私はこの辺りで毅然とした態度を取り、彼女らの態度を改めさせる義務があった。

「でも……姫様、魔王様とたくさん遊んでもらいたいって仰ってましたものねえ。叶って良かったですね」
「うん」
「今度私達も混ぜて下さいね」
「お願いしますよー」
「うん」
「…………」

和やかな会話に私が入り込む隙など用意されてはいなかった。
しかしエリシアめ、私にはやたらと遠慮ない癖をして、メイド達にはやや反応が固い。
普通は逆だろうと思いつつも、手玉に取れていると理解して、まあ機嫌を持ち直しておく。

「まおうさん、まおうさん」
「……なんだ」
「おろして」
「あ?」

唐突に話が打ち切られたかと思えば、妙な願望が届けられる。
いつもなら私が抱いている時は大人しくしがみ付いていると言うのに。何だ、持ち方が悪いと言いたいのか。生意気な。
などとは、メイド達の手前叱る事も出来ず、私は渋々エリシアを床に降ろす。
その瞬間、メイド達がきゃあとささやかな歓声を上げた。解せない。
しかしもっと理解しがたい台詞は、エリシア自身から放たれた。

「みつかったから、こんどはおに」
「は?」
「おに!」

高く手を上げ主張するので、分かった分かったと頭を叩いてあやす。
また、メイド達から悲鳴が上がった。理解したくない。

「だから、まおうさんはかくれるの。さがすの」
「ふむ」
「じゃあ、ひゃくかぞえるよ。いーち、にーい、さーん」

そう言って、エリシアは私の返事も待たず、目を閉じ数を数え始めた。
私はそれを、ただじっと聴き流すに留めておいた。
十の位が一つ下がったり、数字を飛ばしてしまったりと、かなり適当な算数能力を披露しているその間、メイド達は固唾を飲んで見守っていた。何なんだ、この処遇は。
そうこうしている内に、どうやらエリシアとしては百を数え終わったようだ。
ひゃーく、と百十四回目になるかけ声と共に期待の篭った目を開き、すぐさま私と目が合いきょとんと首を傾げる始末。

「なんでかくれていないの?」
「お前なんぞから、私は逃げも隠れもしない」
「どういうこと?」

するとメイドは口々に。

「姫様から一歩も離れたくない、とのことです」
「姫様が迷子になったら困る、とのことですよ」
「姫様は可愛らしいなあ、とのことです!」
「意味の分からないことを抜かすな」

このような子供から身を隠さねばならぬなど、プライドに障る。
たったそれだけのことだと言うに、何故そうした曲解が出来るものなのか。
私は彼女らを説得することを諦め、エリシアを拾い上げる。
今度は不服を申し立てられても面倒なので、いつものように胸に抱く。
メイド達がにわかに沸き立つも、無視して来た時以上の早足で扉に向かう。
エリシアはもぞもぞと、私の首にしがみつき。

「かくれんぼは?」
「今日はもう終わりだ。お前はまず、数を学ぶ必要がある」
「おべんきょう? する!」
「よし、楽でいい。戻るぞ」
「えー! まだ姫様とお話したいです!」
「知るか。戻る」
「うん。おねえちゃんたち、またねー」
「姫様ぁー……」

追い縋る彼女らを断つように、私は廊下に出てすぐ、後ろ手に扉を閉めた。
しかしそれだけでは一息付けない。
依然彼女らの文句の声が微かに届いていたがため、私は同じ歩調で来た道を戻っていかなければならなかった。

「全くお前は……面倒な奴らに気に入られたものだな」
「きに?」

溜息交じりの呟きに、ろくな返答が返って来る事はなかった。
この場にジンやズィーベンがいなくて、本当に良かった。『鏡を見ろ』、とでも言われるに違いなかったので。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

>D
お巡りさんから隠れるだけの簡単な遊戯っすか?^^可愛くいきますよ!

>B
ほんと将来どうなるんすかねー(棒)外堀埋めながら全力で居場所を確保するしたたかさです幼女。

>3
もう隠しきれねーだろって感じになってきました段々とww次辺りからあからさまになるかと!

  • 2011/07/30(土) 00:30:23 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

かわいいよエリシアかわいいよエリシア(*´Д`*)
メイドさんたちもいい味だしてる。
そして魔王の溺愛っぷりがじょじょに漏れ始めてwww

  • 2011/07/29(金) 10:29:52 |
  • URL |
  • 名無し3 #-
  • [ 編集 ]

相変わらずニヤニヤが止まらない( ̄∀ ̄)<ニヤニヤニヤニヤ…
しかし無意識に外堀を埋めていくとは恐ろしい子…(;゜д゜)ゴクリ
将来が楽しみだなー、想像もつかないや(棒)

  • 2011/07/28(木) 19:53:39 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

なにこのいきものかわいい。
さぁ!おじちゃんとかくれんぼうしようか^^

  • 2011/07/28(木) 17:12:27 |
  • URL |
  • 名無しのスライムD #-
  • [ 編集 ]

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