ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・19

黒衣の章19
(本編とは何の関係もないキャラクターが出てきます。興味がある方は本館まで)
食事は監視することにしていた。しばらく前から。
何しろこいつときたら妙なのだ。
肉や魚、野菜にいたるまで何一つとして好き嫌いなく平らげるくせして、人目があるとまともにフォークも握らない。
水すらろくに口にしない。
そのためしばらく食事は一人で取らせていたのだが、ある時間食を与えている最中にエリシアはぽろりとこぼした。

「ごはんも……いっしょがいいな」
「……」

小さな手のひらでカップを包み、減った中身をぼんやり見つめながらの言葉だった。
一切れのケーキを胃袋に収め、満足しきって油断した。そんな独り言でしかなかった。
二杯目を注いでやろうとした私は、ポットを持った手を止めざるをえなかった。
こいつがまた妙なことを言い出した、と。
因みに、何故か私の前では積極的に物を口にした。
あれだけ懐いているというのに、ヴァネッサ他メイド達がいると何を出されても手を付けようとしなかった。
好物のはずの、甘味でさえ。

「食事を……私と共にとりたいと?」
「あ」

私が聞き返すと、エリシアはさっと顔を伏せてしまった。叱られるとでも思ったのだろうか。
かすかな怯えが見てとれた。
しかし、その態度が私の心を妙に掻き乱した。
私ともあろう者がその程度で怒るものか。
言いようのない苛立ちを隠しながら、私はそっとエリシアの顎に手を当て、無理やりに上を向かせる。
不安げに揺れる青の瞳。

「別に構わんが」
「え」

とたん、そこに驚愕が滲む。
徐々に徐々にと違った色に染まり始め、しまいには喜色満面といった様子であった。
目をそらす代わりに私はその顎を放し、頭をおさえ幾分乱暴にその髪をかき混ぜた。
エリシアはきゃーといつもの気楽な調子で騒いでいた。

それから幾日経っただろう。
私は今こうして、エリシアと向かい合い夕食を共にしている。
パンを千切りながら、ちらりとエリシアの手元に目線を落とすと、音を立てないようスープ皿と格闘していた。
あまり時間がかかるようなら、冷める前に止めようと思う。マナー如何を求めるには、こいつはあまりに不出来な生き物だ。
エリシアの部屋に用意させ、あとは二人きりで黙々と食事をする。
新しく出来たこの決まりごとも、そろそろ日々の一部と化してきていた。
思えば誰か同じ者と、こうして食事を続けることなど珍しい。
ジンなどと飲むことはあっても、面と向かって静かに食事をすることは滅多にない。
私は基本的に、一人で過ごすことが多い。
そろそろ、スープ皿から湯気が消えかけていた。

「エリシア。もう気にせず啜れ」
「う、うん」

大人しく、エリシアはスプーンをかちゃかちゃとやり始めた。
私はそれをじっと見つめながら、再びパンを千切る。
私とエリシア。鏡合わせである。
魔物と人間、齢数百と齢六、陰と陽、右と左、裏と表。
まるで何もかもが異なる私たちが、何故同じテーブルについているのか。
私にはこの光景が、いまいち腑に落ちないものであった。

何故私はこいつの願いを叶えてやる。
何故私はこいつと共にいる。
何故私は、あの、青の瞳が気にかかる。
乱暴に結論付けるとするならば、それは全てジンに押しつけられたからに他ならない。
私は魔王で、人間を刈り尽くさねばならなくて、そのための骨休めというか、あいた時間にこうした世話をさせられている。
たったそれだけだ。
すっかりきれいになった皿からエリシアが顔を上げる。
一滴残らずパンで掬って食い尽くしたようである。
食い意地が張っていることは健康な証拠だとは思うにせよ。

「ああ……全く」

ナプキンで汚れた口元を拭ってやった。
そこまでしてやる必要はなかったと思うが、単純に見るに耐えなかっただけである。

「ありがとう」

満面の笑みでエリシアは言う。私はそれを、早く食ってしまえと放り投げた。
どうでもいい、取るに足らない生き物のはずなのに。

「食後のデザートは何がいい」
「ケーキ!」
「お前は本当にそればかりだな」
「すき!」
「そうかそうか」

何故こうも私は笑みを絶やさずにいるのか。
私には、全く見当もつかないでいた。
そんなことを考えていたからだろうか。私はとんだ災難に見舞われた。



「やあやあご無沙汰しておりましたねえ」

絶句。この一言に尽きた。
食事を終えヴァネッサにエリシアを託したあと、自分の部屋に戻ろうと廊下を歩んでいた時のことである。
私の背中に、世にもおぞましい陽気な声が掛けられた。
いや、声だけではない。
いつしか背後には一つの淀み傷んだ気配が生まれていて、私が振り返り罠にかかるのを今か今かと待ち構えていた。
私は立ち止まったまま、微動だにできない。それどころか握った手には汗が滲む。
ここで無視して逃げたところで無駄である。こいつのしつこさは蛇すら引く。
そう、長年の経験から学んでいたため、私は意を決して振り向くのだ。

「シュライク……」
「どうも。暇を持て余してぶらりと立ち寄ってみました」

どうですか一発、とたわけたことを抜かすその灰色の男めがけ、手近にあった壺を投げつける。
だがひょいと容易くかわされて、あえなく壁にぶつかりゴミと化した一級調度。
その破片をしげしげと眺める間も、奴の表情はわずかに翳りさえしなかった。
ただいつもの調子で底抜けに明るく、底の見えない不気味さを携え、人畜無害に笑っている。
シュライク。私はその名を、憎悪に近い感情と共に再度吐き捨てる。

髪から目から服までも。
奴を構成している全てが全て、白に限りなく近い灰色に染まっている。
常時へらへらとした笑みをたたえ、それが何とも気色悪い。
もしこいつが私の手下でありさえすれば、消えろと一喝すればいい。しかしそれすら難しい。
何しろこいつは私の手の者でないどころか、この世の者ですらないのである。
こいつは異世界、どこかの世界の元魔王だ。
経緯は知らないが魔王の座やありとあらゆる物を捨て、流浪の旅と称し数々の世界をふらふらと渡り歩いている。
私のいるこの世界も奴の旅路の例外ではなく、稀に姿を見せては私を悩ませる。
毅然として睨むも、シュライクはどこ吹く風である。くすくすと這い寄るような笑い声をこぼすのだ。

「恥ずかしがっちゃって。相変わらず初心なんですから可愛らしいですねえ」
「何度も言うが、私にそうした趣味はない……」
「無くて結構。何故なら私が身をもってめくるめく境地を教えて差し上げ」
「くたばれこの色欲魔めが!!」

城に被害が出ないような攻撃手段とすれば限られて、私はシュライクに殴りかかる。
しかし、これもやすやす避けられ……ていればまだよかった。
あろうことか奴は私の右手を掴み、息がかかる程に顔を近付けてくる。
私は無論、ゾッとするのである。こいつの趣味は、あろうことか男色だ。

「何をする!放せ!!」

振り払うと、案外にそれは簡単に解くことができた。汚物を払うように、手を服の端で拭う。
しかしシュライクは笑みに苦いものを滲ませ言うのである。

「君から人間の匂いがしますね。しかも女性」
「あ……ああ」

厄介な奴に勘付かれた。私はあからさま舌打ちしてみせる。シュライクが笑みを深める。

「城に篭りきりなはずの君が何故人間なんかを?まさか偶然下界で出会った人間に惚れて攫ってきたとか?」
「馬鹿を言え。何故私が人間なんぞに惚れねばならぬ」
「そうですよねえ」

にやにやと、シュライクが私に詰め寄った。殴りかかる代わりに後ずさる道を選ぶ。
するとたった二歩で私は壁と背中合わせとなった。

「人間と魔王なんてどうせ分かり合えっこないのですから」
「はっ、貴様の経験か……?」
「いいえ。色々見てきた結論と言いますか」

鼻先が触れるか触れないか。限りないゼロ距離で私たちは睨み微笑み合った。
私はその時に、シュライクの小うるさい口をどうにかして閉じさせるべきであった。
しかし私のこの戸惑いを、全て底まで見透かされているような気がして、忌々しい灰の瞳から目をそらすことができずにいた。
シュライクは構わず語る。まるで自身に言い聞かせるかのように、まるで私を妬むかのように。

「君がその人間を気に入ったのなら覚悟した方がいいでしょう。その人間はまず間違いなく不幸になります。死んだ方がマシだったと嘆く程度には破滅します。君は君の思い故に愛する者の道を閉ざすのです。そうして君は愛する者を地獄に引き摺り込んだ輝かしい実績に対して涙を流して歓喜する」

笑みのままそうした戯言を吐くあたり、まだこいつも魔王として腐ってはいないらしい。
シュライクは感極まったかのように、自身の体を抱きしめ悶える。
私は痛む頭を押さえ、軽く瞼を下ろすしかない。

「羨ましいですねえ私もそんな風に愛する人と泥沼の恋がしてみたいものですああ何処にいるのでしょうか私を愛し愛されてくれるような可愛い人は!」
「貴様の理想など知るか、気色悪い」
「言いますねえ。ですがその人間の匂いが君に強くついている所からして大変に可愛がっているのでしょう?毎日毎夜相手にしているのでしょう?下種ですねえ」
「くだらん。単にまだ子供で手間がかか」
「子供!?」

突然の、素っ頓狂な悲鳴だった。私は驚き目を開くのだが、その先には私以上の驚愕染まったシュライクの顔があった。
こいつがこんな表情を作るとは。
状況を何一つ把握できず私はうろたえるしかなかった。
シュライクは腕を戦慄かせ、今にも息絶えそうな勢いで私に迫る。しかしそこには私を狙う気配は感じられなかった。

「まさか君が手元に置いているのは」
「人間の、雌の子だが……って、き、貴様まさか!?」

そこで私は思い出す。こいつは男色の気があるだけでなく。

「わあい幼女とは!こんな所に来て幼女との遭遇とは!運命としか言えそうにありませんね丁度最近幼女に飢えていたところですから存分に匂いを嗅いだりつついたり触ったり舐めたり舐めまわしたり咥えたりあまつさえ」
「こんのクズがっっっ!!」

その時の私の行動は、ひどく迅速なものであった。
私は右手親指を噛み、滴る鮮血をシュライクの額に押し付ける。
避けるでも払うでもなく、シュライクはわずかに目を丸くして甘んじてそれを受けながら。

「ほらやっぱり。大事なモノなのでしょう」

嘘のように穏やかに微笑んでみせるのだった。私はもう我慢の限界だった。

「向こう十年はその呪が効く!この世界に姿を見せることは叶わんからな!」
「分かっていますとも。さすがにこれを解く力は残していませんから大人しくしばらく来ませんとも」

その、分かりきった物言いが特に癪に障るのだった。私は後はもう無視して呪文を紡いだ。
私の知らないどこか遠くの世界の果てに、こいつを送りつけることだけを考えた。
シュライクを中心に据え、青白く光る魔方陣が浮かび上がる。そんな中でも奴の余裕は崩れない。
最後にシュライクは両手を広げ、高らかに。

「君と君の愛するその子に幸あれ!」

そんな呪いを吐き、光に飲まれて消え去った。



「おい!」
「ふにゃ」
「あら?」

エリシアの部屋まで急ぎ足で戻ると、エリシアを抱いたヴァネッサが廊下に出てきたところだった。
どうやら風呂に向かうようだ。

「魔王様、どうかしましたか?」

ヴァネッサが首を傾げて尋ねるも、私の目的は彼女ではない。
抱かれたエリシアはもう夜も深くなってきたためか、随分ととろんとした目を私に向けている。
私はその目をじっと見つめ。

「お前、何も変わりはないな?」
「?」
「……何もないならそれでいい」

結局軽く首を振るのだった。エリシアはきょとんとしている。
あいつが去り際何かしら面倒な呪いでも掛けていないかと不安になったのだが……どうやら実害はないらしい。
しいて言うなら私に多大な疲労を残していった。

私がこの子供を気に入っている?
果てはこの子供を愛している?
馬鹿げているとしか言いようがない。
しかし万が一、私がこの子供に好ましくない感情を既に抱いているとしたら。
シュライクの言葉が蘇る。

『その人間はまず間違いなく不幸になります』。

そんなことは分かりきっている。
私は魔王で、滅びと悲しみを撒く存在だ。そんなものに愛されて、まともに生きていけるはずもない。
しかし、どうせこいつは長くない。
人間にも、魔王にも利用された挙句無惨に死ぬことは、ほぼ確定しているのだ。
つまりこの思いは単なる憐れみだ。ただ私が気まぐれに感じた、独りよがりな物だった。
そう思い込んだところで、結果は何も変わらない。
エリシアは、きっと近い内に命を落とす。

私は手向けとばかりにエリシアを奪い抱きしめた。
エリシアが苦しげな声を上げ、ヴァネッサが目を丸くしているが気にはならなかった。
しばらくそうしてから、私はエリシアを高く持ち上げ目線を合わせ。

「今日は一緒に寝るか」
「え、え、ほんと?」
「ああ」

笑いかけると、エリシアも眠気が飛んだようで屈託のない笑顔を浮かべる。
私はそれを忘れないでおこうと思うに止めた。


これでいいんだ。これが道理だ。ただ、その時まではこのままで。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

パソコン復活!

>ななし3
ただ単に出してみたかっただけですはい!
もう少しツンが続きます。あと二本か。

>ななしB
もげろと罵ったらすぐ後篇に移るという仕様ですが!デレさせますとも!

>ee5SiWYg
なんかまた昨日ツンデレってたわよーやーねーとか言われてるの聞いちゃったらおとん泣く。

  • 2011/09/09(金) 00:07:21 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

青の瞳!

翌日あたりまたメイドさんの間で噂が…w

  • 2011/08/31(水) 23:49:08 |
  • URL |
  • #ee5SiWYg
  • [ 編集 ]

番外編?キター

もう魔王ったらツンデレなんだから(〃〃)
本気でデレるまでもう少しか…
はやくもげろって罵りたいw

  • 2011/08/31(水) 08:48:29 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

ふおお。シュライクキターヽ(´ー`)ノwww
そして食事と寝床を共にするとは!
イイヨイイヨー!!!

  • 2011/08/31(水) 07:36:41 |
  • URL |
  • 名無し3 #-
  • [ 編集 ]

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