ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・20

黒衣の章・20
しかし共に寝るかと言ってみたのは単なる気まぐれで、反故にしたところで何の問題もないはずだった。
それこそこのまま自室に戻り、寝台に潜るのも悪くない。
余計な鬱積を押し付けられた直後であるが故、独り静かな休息を求めるのは自然の道理である。
だが私は腰を上げようとしなかった。
エリシアを閉じ込めている客間だ。私は椅子にかけ、テーブルに肘を付き睨む先を探していた。
大理石の壁や床には汚れ一つなく、本の一冊も見当たらない。
窓の外に広がるのは星すら瞬かぬ暗い夜空で、私の目を楽しませる気がさらさらない。
手持ち無沙汰を持て余し、私は仕方なく膝の上に手を伸ばす。
すると小さな手がそっと私の指に触れた。

「まおうさん?」

私の異形の手に、エリシアはまるで頓着しない。
私の指を撫で、弱い力で掴み、そうして挙げ句の果てには頬擦りするまでに至った。
膝の上でじゃれつくエリシアを、私はただじっと見下ろすだけだった。
エリシアの柔らかく温かな手に比べ、私の手は老いた木のように硬く、冷えている。
そうだというのにエリシアは私の手から離れようとはしなかった。
エリシアを送り届け、ヴァネッサは部屋を後にした。そのためこの部屋にいるのは私とエリシアのみである。
夜も遅い時間となってしまいエリシアは少し眠たげに目をこすってはいるものの、まだまだ元気に活動可能なようである。
放っておけばきっといつまでも私の膝で一人遊んでいることだろう。
部屋に戻った時には既にエリシアの髪は乾いていて、私の腹に預けた背中もそろそろ冷えてきている。
そろそろベッドに詰めた方がいいかもしれない。しかし風呂に入れるだけにしては妙に時間を待たされた。
まあ、理由の見当はついているのだが。エリシアには幾つか匂いがついていた。
私はエリシアの顎を軽く掴んで動きを止め、聞いてみる。

「お前、先程ジンに会ったか?」
「うん」

平然と頷くエリシアだ。やはりな、と私が言う前に更に一言付け加える。

「あとね、あとね、ズィーベン」
「あー……ふむ、そうか」
「うん!」

紛れもなく、エリシアは楽しげにその名を口にした。
間違いであって欲しかったが……これまたやはりズィーベンか。全く油断も隙もない。
私はエリシアの顎を撫でながら、声を低くして囁いた。

「いいか、あいつは面倒な奴だ。あまり近寄るなよ」
「どうして?」
「どうしてもだ……分かったな?」
「えー」

しかしどうも腑に落ちないようで、エリシアから同意の声が上がることはついぞなかった。
軽く痛むこめかみを抑え唸る私だ。
あいつが私の目の届かぬ場所で、エリシアにちょっかいを出すことくらい予想はしていた。
しかしもうすでに接触済みであったとは。あの厭味ったらしい含み笑いを思い出し、私は心底辟易した。
つまるところは面白くない。
言い淀む私に何かを察しでもしたのだろうか。エリシアが私の膝の上に立ち、私の顔を覗き込み。

「まおー……さん?」

バランスが取りにくいのか私の襟元をしかと掴み、小首を傾げて不安そうに言う。
心なしか瞳も潤み、揺れていた。
立ち上がったところで私の肩にも届かない小さな体のくせをして、どうして私にそこまで大胆な無礼を働けるのだろうか。
私は感心と苛立ちを持て余し、エリシアの体を引き寄せる。
軽い悲鳴を上げて、容易く胸に埋まるエリシア。私はその頭をそっと撫でてみた。
くすぐったいのか、照れているのかどうかは知らないが、エリシアはくすくすと小さな笑い声を漏らす。
蜘蛛の糸のように細い金の髪を梳いてみると、それらは絡まることもなく私の指を滑り落ちた。
逃げ去る錦糸が、何故だか妙に腹立たしく感じられた。
しかし私はその憤りを表わす言葉を知らなかった。
エリシアの頭をぽんぽんと叩き、結局はあ、と盛大なため息をこぼすのだった。

「……寝るか」
「うん!」

それからエリシアをベッドに詰め、私はその隣に横たわった。
エリシアは無邪気に私にすり寄り、しばらくもしないうちに小さな寝息を立て始めた。
体を丸めて寄り添う様は、すっかり安心しきっているようだった。
潰してしまわないかと少々肝が冷えたが、とうとう覚悟を決めて私もその場で眠りにつくことにした。
最後にエリシアの頬を指先で撫でてやる。
反応がないのをいいことに好き勝手につついた後で、私も目を閉じ眠りに落ちた。
夢は見なかった。ただ深い眠りだった。
朝日と共に目覚めると、エリシアは昨夜と同じ寝姿のままだった。
私の腕にしかと抱きつき、幸せそうな寝顔を浮かべていた。
私が身を起こせば恐らく目を覚ましてしまうことだろう。
そうしたわけで、私は珍しく二度寝と洒落込むことにした。



「よう、ガキとの一夜はどうだった?」
「……」

そうして私とエリシアは昼前に目覚めた。
軽い食事を取ってからヴァネッサにエリシアを任せ、私は一旦自室に戻ることにした。
そこで私を出迎えたのがジンである。
我が物顔で私の執務机に向かうジン。
無許可で入り込んだことを咎める前に、私の目は机に積まれた書類の山に釘付けとなる。
ジンはニタニタと笑うばかりだった。

「ヴァネッサがすげー楽しそうに言いふらしてたぞ。『魔王様と姫様が一夜を共にした』って」
「語弊がないかその言い方は……全く、あいつは悪意があるのかないのか見当がつかない」
「一定量あるんじゃねーの。ガキにはおおむね好意的みたいだが」

笑みを浮かべたそのままで、ジンは私の椅子から退いた。
忠義心から来る行為ではなく、単に仕事をさせようという腹づもりなのだろう。
しかし私はその椅子にかけるわけにはいかなかった。

「仕事ならあいつの面倒を見ながら、あいつの部屋で片付ける」
「お前この間散々適当なことしやがっただろ。俺が後で全部直したんだぜ。
 だから今日は横で俺も仕事片付けるついで、見張ってやる」

色々打ち合わせとかもしたいしな、と真面目な顔で言ってのけるジンに、私はあからさま舌打ちし顔を顰めてみせた。
こいつが側にいると適当な仕事はできないし、何よりこれからエリシアと約束がある。
今日はまた城の中をあちこち見せてやるつもりだった。
しかし、ジンにそうした事情を打ち明けることはできなかった。
棒立ちで睨み付ける私の肩を、ジンは気楽な調子でポンと叩く。

「まあ今日のところはガキの世話を諦めて本業に勤しんで下さいよ大将。じゃねーと今からズィーベン呼び出すぞ」

そう言われてしまえば、抵抗の気力も失せるというものだ。
ズィーベン自体は苦手ではない。ないのだが、今回ばかりは話が違ってくる。

「なあ、あいつは……正直どうにかしてくれ」
「嫌に決まってんだろ。ま、ガキの面倒見てる間くらい睨まれてろって。あいつ昨日お前のこと色々言ってたぞー良かったなー慕われてて」
「はあ……」

仕方なく、私は椅子に腰掛けた。
微かな軋みを上げ、私を迎え入れる革張りの豪奢な椅子。
この机と椅子は私が即位した頃から愛用していて、机上には無駄な物は一切置いていない。
だからこそ仕事が捗るというわけでもなく、単に物をあれこれ置く性分ではないだけだ。
積まれた書類の山は今日一日、丸ごと潰されてもおかしくはない量である。
ちらりとジンを盗み見ると、自分は自分で応接用のソファに腰を下ろし、早速書類をめくり始めていた。
全く有能な部下である。その調子で、私の分まで働いてくれれば言うことはないのだが。
ため息混じりに私は山の頂きに手を伸ばすのだった。


そうして、一時間ばかりが経過した。
適宜抜け出す隙を窺っていたのだが、ジンがその隙を見せたのはやり遂げた顔で伸びをした時だった。
ある程度の区切りがついたらしい。
私はといえば、山を二合ほど切り崩したところで行き詰まっていた。
決して私が無能なわけではなく、やる気が皆無なだけである。
休憩後に打ち合わせなと言い残し、ジンはどこぞに消えていった。
ついでに席を外せば仕事倍増と私に釘を刺してまで。
ジンの背中を扉の向こうに睥睨ついでに見送って、さて私はどうしようかと思案する。
逃げるか従うか。今頃エリシアはどうしているだろうか。す
ぐ戻ると言っておいたというのに、これだけ時間が経ってしまえば約束を破ったことにはならないか。
少しの間あれこれ考えを巡らせて、結局私は仕事を片付けることを選ばざるをえなかった。
エリシアはまあ、放っておいてもヴァネッサやメイド達と遊んでいることだろう。
せめて言い訳でもしておこうかと、私は手を叩く。

「おい、ヴァネッサ」
「はい、お呼びですか?」

音もなく、傍らにヴァネッサが現れる。
恭しく頭を下げる彼女からは、有り余る忠誠心とゴシップめいた好奇心が感じられた。
こいつが親を亡くした幼い頃から、私手ずから面倒を見てやっていたというのに……何故そうも素直に私を慕わない。
追及する気にもなれず、私は早く用件を済ますことに決めた。

「今日はしばらくあいつの世話ができん。すまんがよろしく頼む」

するとヴァネッサは首を傾げるのだった。

「あら? ですが先程ジン様が」
「おーいベル、逃げてないかー」

と、そこで颯爽と帰ってきたジンへと目を向けて、私は固まることとなる。

「……は?」
「はー……」

ジンが小脇に抱えた荷物は、私の部屋を興味深げに見渡して、そうして一言ぽつりと呟く。

「ほんがいっぱい」
「何故連れて来た」
「いや、暇そうにぼけーっとしてたんでな」
「まおうさんのおしごとみるの」
「そう……か」

私は机に突っ伏すしか道がなかった。
そんな私の背をヴァネッサがさすってくれたのだが、おざなりもいい所の手つきに、余計気分が滅入ったことは言うまでもない。



「あのね、こっちがジンなの」
「じゃあこれはヴァネッサか?」
「うん」
「へーそっくりだな。よく描けてんじゃねーの」
「ほんと?」

ソファの方面で繰り広げられる会話に耳をそばだてながら、私は傍らに控えるヴァネッサに小声で問いかけてみる。

「なあ、ヴァネッサ」
「何でしょうか」
「あれは何なのだろうか」
「ジン様と姫様、すっかり仲良くなりましたねえ」
「どいつもこいつも何時の間に……」

深くため息をついてみるが、ソファの方面に届くことはなかった。無駄にエリシアがはしゃいでいたものだから。
仕事をほとんど終えたというジン。
それがエリシアの面倒を見てやると言い出した時はさすがに正気を疑ったが、数日前の剣呑な態度はどこへやら、だ。
白い紙にエリシアが絵を描き、それにジンが適当なコメントを加える。
そんな単純なやり取りの中に、どうも薄っぺらくはない信頼が見てとれて私は言葉に詰まってしまう。
エリシアが懐くのは分かる。こいつは無意味に無防備だ。
しかし何故ジンが満更でもなさそうにしているのか。とことん解せなかった。

腹立ちまぎれに書類の山を崩していくと、割合手早く片付いていけた。
きゃっきゃと騒ぐエリシアの声に耳を傾けながら六合ほどを崩している最中、ふと傍らにヴァネッサとは異なる気配を感じ視線を落とす。
するとそこにはエリシアがはにかみ立っていた。
仕事の邪魔だと言う前に、エリシアは持っていた紙を私に差し出した。

「みてみて」
「ああ、城の者たちを描いたのか。どれ」

広げると、そこには様々な人物らしきものが描かれていた。
全身黒の何か大きな化け物じみた物は恐らく私だろう。
ジンやヴァネッサその他の魔物たちもそれと分かる程度に描かれていて、ジンの言う通り、中々拙いながらに特徴をよく捉えていると思われた。
しかし私はそれを一通り眺めた後、エリシアに紙を返し。

「……描き直せ」
「え……」

手短に感想を返してやると、エリシアの顔色がさっと曇った。
その瞬間、私の心臓が縮み上がった。まずい。今の言い方では絵の全否定ではないか。
泣き出す前にと、私はエリシアを抱え上げ、一端膝に乗せてごしゃごしゃと撫で回してやる。

「あ、ああ違う。描き足せ。ここにはお前がいないだろう」
「……あ」

何かに気付いたように、目を丸くするエリシア。
もう大丈夫だろうと私は床に下ろし、その背中を軽く押してやった。

「ほら行け。自分を描き終わったら、また私に見せろ」
「う、うん」

そうしてソファに戻るエリシアだった。ふうと一息つく私だったが、ふと生ぬるい視線に気付き顔を上げると。

「何だ、お前たち……」
「いえ別に」
「なー、別にぃー」

にやにやと、ジンとヴァネッサは互いに目配せし合うのだった。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

wktkあざっす!この辺はぬるくてゆるいのを目指してみました!

  • 2012/08/17(金) 23:27:19 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

だめだwktkが止まらん。

  • 2012/08/16(木) 16:54:31 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

>3
そろそろ通報されてしかるべきかもしれません。描写はありませんが、おとんきっとにやにやしてますww

  • 2011/10/01(土) 01:26:19 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

そいねえええええええ!!!(*´Д`*)
おえかきいいいいいい!!!(*´Д`*)

  • 2011/09/30(金) 23:01:41 |
  • URL |
  • 名無し3 #-
  • [ 編集 ]

>B
こう、語らない時間枠でエリシアとジン、ズィーベンは色々とやり取りがあります。後半で出せると思いますので、どうか2828お待ちください!ww

  • 2011/09/29(木) 23:53:50 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

282828

だめだ読んでる間28282しっぱなしだw
それにしてもジンめいつの間www

  • 2011/09/29(木) 06:28:01 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

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