ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・21

黒衣の章・21
それからしばしの間、私は黙々と紙に挑むはめとなった。
魔物達の指揮系統をまとめたものから、物資調達のルートの整備など。
書類の山に目を通して、サインをし、これと思うものは改めさせるために脇に除ける。
あとあとチェックをするであろうジンの目を誤魔化せるとも思えず、私は嫌々ながら真面目に机に向かっていた。
いくら向かってくる人間共を蹴散らすだけとはいえ、前準備は膨大だ。
その上エリシアという妙な厄介も押し付けられるわで、やはりこのような馬鹿げた計画など打ち立てず、大人しく部屋に籠城していた方がよかったかもしれない。
ぐだぐだと私が鬱憤をため込むその間も、すぐ側のソファでは気楽な空間が形成されていた。

「ジンはまおうさんの、おともだちなの?」
「ダチってーかなんつーか……まあ義兄弟的な? ちなみに俺が兄貴分な」
「おにいちゃんなんだ」

ジンの隣に腰かけて、エリシアは機嫌よく絵を描いていた。ジンと言葉を交わしながらも、真剣な面持ちで机に広げた紙に向かっている。
こちらからではよく見えないが、黄色のクレヨンを持って手を動かしているのを見るに、自分の髪でも塗っているところなのだろう。
何本ものクレヨンが紙の上に散らばっていて、更にはヴァネッサが用意した焼き菓子やチョコレート類なども積まれている。ジンが書類を積んでいた先ほどまでとは一変し、机の上は随分とにぎやかだ。
しかしあのクレヨン。私が与えたものではない。全くいつの間に。
ちらりと、傍らに控えるヴァネッサに視線を送ってみる。すると微笑みとともに、何杯目かも分からない紅茶が注がれた。
違う。そうではなくて、私が言いたいのは……。

「できたー」
「おお」

エリシアの気楽な声と、ジンの軽い感嘆の声。
再びそちらへ目を移せば、感極まったような顔でエリシアが紙を掲げていた。
それを覗き込み、ジンは私の方を指さして、にやりと笑うのだった。

「んじゃまあ、そっちで淋しそうにしてるやつに見せてこい」
「うん」

……誰が淋しそうだと?
睨みなじるその前に、私の椅子にエリシアがぱたぱたと駆け寄った。
はい、と手渡すその紙を、私は仕方なしに受け取った。
見ると黒い化け物のすぐ隣に、小さな子供が描き足されていた。
化け物はひどく難しそうな顔をしているくせに、子供は満面の笑みだった。
私の膝にあごを乗せて、エリシアは甘くとろけるような声で言う。

「かいた」
「そうだな、描いたな」

私はその頭を、ただぞんざいに撫でるだけだ。むやみに褒めては調子に乗る。だからそこまでにしておく。
エリシアは楽しげな悲鳴を間断なく上げ、私の膝に甘えつくすばかりだった。
それが少々方うるさく癪に障った。私はエリシアを摘みあげ、膝の上に座らせる。
すると一瞬だけエリシアはきょとんと私の顔を見上げ、あとはにへら、とゆるい笑みを浮かべるのだった。
少し遠慮がちに私の服をつかみ、足をぶらつかせるでもなく大人しくしていた。
私はしばしエリシアと絵について話した。とは言え、これが誰で、それが誰で、とエリシアが一方的に語るばかりで、私は相槌を打つばかりの語らいであった。だが、息抜きには丁度いい時間になった。
ジンやヴァネッサは生ぬるい視線を送りこそすれ、私の本業をせかす真似はしなかった。
どうやら奴らはエリシアが絡んだ時にのみ、思いやりというスキルを発揮するようだ。
本当に、何故ジンまでもが甘やかしに加担するのだか。どいつもこいつも、人間の子供風情になんたる醜態。
私が軽いため息をこぼすと、エリシアが小首をかしげた。

「まおうさん、げんきないの?」
「いいや」

首を振り、私はエリシアから絵を受け取った。小さな子供以外、描かれている皆が皆そうと分かる異形の者だ。
だが描き手からの畏怖らしきものは感じられず、どこか柔らかで温かい。
お前には、私達がこう見えているのか。
尋ねようとしたが、ジンやヴァネッサがいる手前、諦めた。それに、どうせ返ってくる答えなど分かりきっている。
私は絵を机に置き、エリシアを抱えたままで椅子を立つ。

「少し出てくる。すぐに戻る」
「あ? 逃げる気か」

言うと、ジンが剣呑な目を向けてきた。
まあ逃げてもよいのだが、どうせ逃げ場などどこにもない。私は机の上の紙を指し。

「いいや。せっかく描かせたんだ。入れる額を探しに行く」
「おお……あ? 何だって?」

そう言うと、ジンはいったん納得しかけたが、すぐさまぎょっと目を剥いた。
エリシアもまた事態が飲み込めないのか、首を傾げて私を見上げていた。
ただ一人、ヴァネッサだけは違っていた。にこやかに近付き、エリシアに語りかけることには。

「よかったですねえ姫様。魔王様、姫様の絵がお気に召したようですよ」
「え?」
「くだらんことを吹き込むな」

手で払う仕草をしてやるも、ヴァネッサは気分を害したふうでもなく、微笑みを崩そうとしなかった。
ジンも腰を浮かして軽い混乱を持て余しているようで、疑いの眼差しを向けていた。
居心地の悪くなった私はそれらを振り払うべく、無言で部屋を後にした。

「行ってらっしゃいませ」

私の背に頭を下げているであろうヴァネッサに、エリシアが私の肩越しに手を振った。



そうして物置きまでやって来た。
先日、遊びに付き合わされている時に覗いた部屋だ。
足を踏み入れてすぐエリシアが埃にむせて喧しかったので、窓を開けて空気を入れ替えた。
窓の外に広がるのは澄み切った青空。その下は城の裏手の断崖絶壁だ。
この世の北の果ての果て。険しい高峰の頂上に、私の城は立っている。
今日は雲が少なく、遥か下方に広がる、暗い大海原が見渡せる。不気味なほどに静まり返ったその海面には、鳥はおろか船すら見えない。
この近辺の海は乗り付ける場所もなく、魔物が多く住んでいる。
そのため近づく船はほぼ皆無で、たまに迷い込んだ数隻も時を置かずして沈んでしまう。
まさに死の海と言えるだろう。
エリシアはそんな事情を知らないのだろう。海を見渡し、波の音を復唱し、そうして私を見上げる。

「これがうみ?」
「そうだ」
「おっきいね。まおうさんみたい」

ねー、と笑うのだが、私は何がなんだか。
ひとまずエリシアを下ろし、私はその辺りのガラクタを漁ることにした。
すると様々なものがてんで無秩序に顔を出した。門外不出の魔道書から、持ち主の寿命を吸い取る首飾り、生き血を啜る呪いの剣……などなど。
何故こんな厄介なものが……という物品ばかりが出てくるので、私はそれらに手をつけるごと、傍らに立つエリシアに。

「エリシア、私の後ろにいろ。あまりその辺りの物に触れるなよ」
「うん」

と、声をかけなければならなかった。
私の言いつけを守り、エリシアは私の服の裾をつかみ、ガラクタを見上げていた。
しかしいくら従順だからといって、危険なことに変わりない。
部屋を出て待っていろと言おうともしたが、エリシアは私の危惧などお構いなしで、興味深げな目で怪しげなアイテムを見つめていた。私は何も言えなくなった。
なるべくそっと部屋のあちこちを漁り、使えそうな大きさの額を何枚か選んだ。
全てに絵画が収められているのだが、表面のガラスは薄汚れ、色あいは分かるものの、何の絵なのかまでは判別がつかない。
ただし必要なのは額縁だ。中身など何だろうが構わない。
私は部屋の真ん中に額縁を並べ、指さし言う。

「選べ」
「え、えーっと、えーっと」

その前にしゃがみこみ、唸るエリシア。そうそう違いもないと思うのだが、当人にとっては重大な問題であるらしい。
しばらくかかりそうだと判断し、私は周りを簡単に片付けることにした。
特に危険な剣などをエリシアの手が届かないような高い場所に移し、あとは軽くまた積みあげた。
私も昔は剣術を嗜んだものだが、近頃はとんと縁遠く、今更扱う気にもなれない。
しかしここで腐らせておくのも少々勿体ないような。誰ぞに払い下げられないか、どうだろうか。
そうこう考えているうちに、エリシアの決意をはらんだ声が上がった。

「これ!」

私がそちらに目を向けると、エリシアが大きな黒い額縁を抱えていた。視界は極端に悪そうだ。
危なっかしいので、転ぶ前にその額縁をとりあげた。中の絵画は他のどれよりも埃にまみれた、黒の目立つ絵だった。

「これでいいのか」
「うん。くろいのがいい!」

エリシアは興奮ぎみに手を広げ、言うのである。

「だって、まおうさんのいろ!」
「はあ」

私は生返事をする他なかった。しかしエリシアはにこにこと、上機嫌がとどまるところを知らないようだ。
全くおかしな奴である。私のことを魔王と呼ぶのはいいとして、その言葉の持つ意味が果たして理解できているのかどうか。
しかしまあ、私はそれが面白いと感じ始めていた。
口の端をゆがめて笑ってやると、エリシアはますます顔を明るくする。
初めて笑ってやったあの時に、怯え言葉を失くしていた子供は、もうどこにもいなかった。

「はっ……お前も大概に物好きだな」

やれやれ、と私は何の気なしに絵の埃を払う。すると露わとなった、黒の絵。

「まおうさん?」
「……あ、ああ。すまん。何でもない」

ふと、気付けば私はその絵を見つめ立ち尽くしていた。裾を引くエリシアがいなければ、我に返るにはもうしばし時間がかかっただろう。
私は中の絵を外し、額縁のみをエリシアに渡す。エリシアはそれを、まるで宝物であるかのように瞳を輝かせて受け取った。
私はそれに背を向けて、外した絵画をもう一度、覚悟を決めて拝見する。

それは、先の魔王の肖像画であった。
冷笑を浮かべた黒の化け物。
あらゆる命を弄び、世界に滅びを撒き続けた魔王の中の魔王。
そして、私の亡き父だ。

恐らくこの絵は父の統治時代に描かれ、そして忘れ去られていたものだろう。
今この城に、父の絵はどこにも飾られてはいない。残ってもいないはずだった。
私は自分が、ひどく苦々しい笑みを浮かべていることに気付いていた。
だが、どうすることもできなかった。まして今ならエリシアが見ていない。取り繕う意味もない。
私は目を伏せ、懐かしい父に思いを馳せる。
父はどこまでも邪悪に、傲慢に、魔王であった。
人間はもちろん、魔物ですら、そしてこの私もまた、あの方にとっては等しく同じ価値のないただの玩具にすぎなかった。
あの方が望めば命は吹き消され、疎めば何もかもが闇に沈んだ。
あの方は世界を、周囲を全て不幸に叩き落して死んでいった。
誰も彼もが逃れられない、直接的な死として最後まで在った。
そして、私にはその血が流れている。実に忌むべきことであった。


私は開け放たれた窓の外へと、絵画を掴んだ腕を伸ばす。
潮風に吹かれ、絵の中の父は多少居心地悪そうに見えた。いい気味だった。
たった一言、私は力ある言葉を口にする。すると絵は青白い炎に飲まれ、瞬く間に跡形もなく灰となって、海へと舞い降りていった。
私はそれを見送り、深く息を吐き出した。
荷物の無くなった右腕が、しかし先ほどとは比べ物にならない程に重いと感じられた。
私はあの父の子だ。魔王だ。だから誰も救わず、何も与えず、たった一人で生きると決めた。誰も愛さないと決めた。
シュライクの言葉ではないが、私は誰も幸せになどできないのだ。
父譲りの不気味な腕を見つめながら、私は物思いに沈んでいった。

がしゃん。

突然、大きな音にまぎれ、小さな悲鳴が上がった。
驚き部屋の中を振り返れば、エリシアが額縁を抱えたまま、ガラクタの山に倒れていた。
どうやら躓き山に突っ込んでしまったようである。慌てて駆け寄り抱き上げると、エリシアはゆるゆると顔を上げ。

「う、うぇ……うあぁぁああん……」

ぼろぼろと涙を流し、静かに泣き始めた。
しかし額縁はしかと掴んだままであった。果たして従順なのか、自由なだけか。
私はそれを柄にもなく、宥めあやさねばならなくなった。額縁を取り上げ、撫で、揺すり、声をかけた。うろうろするからだ、と叱りつける暇もなかった。
エリシアはしばらくの間泣き続けていたが、やがて嗚咽を漏らすだけに落ち着いた。
背中をさすってやりながら、そういえば泣くこいつを久しぶりに見たな、とぼんやり思った。
私はガラクタの山に目を落とす。何か宥める小道具でも転がっていないかと探していると、あった。ちょうどいいものが。

「ほら」
「……?」

拾い上げ頬に押し当ててやると、その冷たい感触にびくりと体を震わせるエリシア。
恐る恐るそれを掴み、ぽかんとした顔で見つめ、私の顔を見上げる。
それは金の髪飾りだった。細かい細工が施され、いくつもの宝石がちりばめられた贅をこらした逸品。その中心には。

「ふむ。やはり同じ色だな」
「はー……」

エリシアの瞳と同じ、青く輝く大きな宝石が座していた。
髪飾りに見入るエリシア。その頬を伝う涙をそっと拭ってやると、エリシアはぽつりと呟く。

「きれい」

そしてふわりと笑うのだ。この私の腕の中で。

「なら、それはくれてやる」
「へ」
「その代わり、もう泣くな。分かったか?」

私がそう言うと、エリシアは髪飾りをまじまじと見つめ、最後には私を見上げておずおずと頷いた。
私はエリシアを両手で高く高く持ち上げた。そうして窓の外に広がる空と、エリシアの瞳とを見比べた。
エリシアはもう泣くことを忘れ、ただただ不思議そうな顔を浮かべていた。
石よりも、空よりも、海よりも美しいと感じる、その青の瞳は私だけを映していた。

「お前は、明るい場所で生きた方がいい」

こんな暗い城よりも。
エリシアはわけもわからぬまま、私に笑う。私もエリシアに微笑んだ。私の、エリシアに。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

>ななしさん2
ハンズとかに売ってねえかなあ(´・ω・`)
ベルは面倒くさい可愛いを目指しております

  • 2011/11/04(金) 23:54:31 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

魔王可愛いよ魔王。
何処で売ってますか?(*´Д`)

  • 2011/11/04(金) 00:37:43 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

>ななしさん
魔王デレ、はじめました!
次から自覚あるので逆に面倒くさい感じになります。結局こいつ面倒くさい!

  • 2011/11/03(木) 00:32:05 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

ああもう、

大事なことだから2回言う。
「私の」って、魔王さんが。
「私の」って、魔王さんが。

  • 2011/11/01(火) 23:50:17 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

>B
可愛がりまくるターンすぐ終わって後篇入りそうですけどね!ww
幼女の活躍をお楽しみに!

>3
やーいあわてんぼー(*´∀`*)
エリシア欲しいなら魔王倒していってくださいませ。容赦ないぞ。

  • 2011/11/01(火) 23:29:00 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

重複してたらごめんなさい。

あーもう、いろいろ最高すぎましたwwww
(*´Д`*)エリシアちゃんくださいwwww

  • 2011/10/31(月) 13:51:18 |
  • URL |
  • 名無し3 #-
  • [ 編集 ]

あーもう
あーもう
あーもう
あーもう
いろいろ最高すぎるでしょうwww(*´Д`*)

  • 2011/10/31(月) 13:48:40 |
  • URL |
  • 名無し3 #-
  • [ 編集 ]

きたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

ついにデレた~~~~(*´Д`*)キャーマオウー

やっとここまで来たか、次回から思う存分魔王を罵れるわけですねw

次回も楽しみにしてますよ( ̄∀ ̄)

  • 2011/10/31(月) 08:54:19 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

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