ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

黒衣の章・22

黒衣の章・22
私はエリシアのことが気に入った。
己が命を握っている、悪しき者だと分かっているのかいないのか。
私を慕い、笑いかけてくるエリシアのことが好ましい。
見ていて愉快に思う。側に置いていると退屈しない。
金の髪、青い瞳、柔らかな声、よく笑う口元、小さな手の平、遅い足、軽い体。
全てがすべて、私を満たして余りあった。
私はエリシアのことが気に入った。
だから手放すことにした。



ある夜のことである。
自室で書き物をしていた私は、ふとペンを持つ手を止め、廊下に通じる扉を見やることとなった。
覚えのない気配を計三つ、我が城の中に感じたからである。
しばし迷い、私はつけていた日記を閉じ、ヴァネッサの名を口にする。

「お呼びでございますか、魔王様」

平時よりも幾分か冷えた声が傍らに。
彼女もどうやら事態に気付いたようだった。見ればヴァネッサは腰を折ることも、表情らしい表情を浮かべることをも忘れ、私の下す命をただただ待っていた。
エリシアを寝かしつけ、少しばかり経った頃合いだろうか。彼女からは微かにエリシアの匂いがした。
私はそれに気付かぬふりをして、彼女にペン先を向ける。

「人間が三匹。まあまあの手練の者だ」
「人間が三匹。まあまあ、といった程度の三下ですね」

にこりともせずにヴァネッサは反復する。そして感情を排除した口調で続けるのであった。
人間が三匹、巡回の魔物何名かと交戦した後に城に侵入。魔物達のいずれも命に別状なし。
人間などに不覚を取ったことに対して、ジンが魔物達に大層立腹している。ひとまず城の皆には手出し無用の命を出した。
概ねそんなところだった。

「人間たちの狙いは恐らく、姫様の救出でございましょう」

ヴァネッサの静かな言葉に、私は頷くばかりである。全て異論ない。

「だろうな」
「どうなさいますか?」
「暇を持て余していたところだ。私自ら始末に向かおう」

するとヴァネッサは軽く頭を振り、真紅の目をすっと細める。
それは鮮血滴る裂傷を思わせる、痛々しい目であった。
しかし私はそれから視線を外すことなく、挑発的に笑って返してやる。ヴァネッサは顔色一つ変えなかった。

「姫様が人間たちを始末する障害となった場合、もろとも始末なさいますか?魔王様ご自身の手で?」
「そうなるな」

何を分かり切ったことを、というていで、私は切り捨てる。
椅子の背もたれに体を預けると、微かにぎぃっと鳴いた。深く静かな闇夜の中でその音はよく響き、よく馴染んだ。
しかしいつまでも夜に耳を澄ませていてもいられない。私はペンを机に置き、ゆるゆると立ち上がった。
丁度まだ湯浴みも済ませてはおらず、いつもの魔王然とした黒の出で立ちのままである。
鼠の駆除に向かうには、まあ向いていることだろう。
冷たく見上げるヴァネッサに、私は意気揚々と宣言する。

「あれを失ったとしても、別の策を練ればいいだけの話だ。他に喧嘩を吹っかける国など腐る程あるからな」
「畏まりま」

恭しく頭を下げかけるヴァネッサ。
しかしそれは唐突に中断された。私も彼女もほぼ同時、とある方角に目を向けた。エリシアを閉じ込めているあの部屋だ。
私が口を開く前に、ヴァネッサが呆れたようにため息をこぼした。

「……ズィーベンですね」
「ああ。やられたようだな」

大人しく隠れていなさいと言いましたのに、とヴァネッサはまるで聞き分けの悪い子供を愚痴るかのように、頬に手をあて独りごつ。慌てる気配が微塵もないのは、ズィーベンが不死身であるからに他ならない。
エリシアの気配は三匹の鼠と共に在った。どうやら人間達はエリシアを回収する際、ズィーベンに出くわしてしまったようである。
死体の軍団を指揮し猛威を奮うとはいえ、ズィーベン自体は非戦闘員だ。多少心得ある人間ならば、やすやすと討ち取ることができるだろう。
エリシアには何の危害も加わってはいないよう。
つまるところ本当に単純に、救出に来た人間達なのだろう。
国から依頼を受けたのか、正義感が先走った馬鹿であるのかは知らないが、実にご苦労なことである。
私はヴァネッサの肩を宥めるように叩いてから扉に向かう。背を向けたままで私は言う。

「では出てくる。ついでにズィーベンの様子も確認してこよう」
「行ってらっしゃいませ魔王様。私は他に人間が潜んでいないか、外を見て参ります」
「ああ、頼む」

今度こそヴァネッサが頭を下げたのを感じながら、私は廊下に足を踏み出し、後ろ手に扉を閉めた。

廊下は左右にどこまでも続いている。
魔術の青白い灯りが等間隔に燃えており、足元に不自由はない。
しかしそれでも闇が完全に失せたわけでもない。あちらこちらに闇が揺らめき落ちている。
踏み込む者に死を予感させる直接的な闇。静寂とあいまって、とても好ましい空間だ。
しかし今宵はその空気を掻き回す不届き者がいるときた。
エリシアの部屋は目と鼻の先である。鼠は更にその向こうに遠ざかる。
どうやら城の正面、森の方角に脱出する腹積もりらしい。私はゆっくりと、そちらに足を向けた。


私の心は逸(はや)っていた。
エリシアを手放す、まさにその機会をうかがっていた。
それがこの、好機である。
素直に国に返すと言えば、きっとジンがうるさく言う。後腐れなく手放すにはこれを利用しない手はなかった。
どさくさに紛れ、人間一匹をエリシアと共に城の外まで飛ばしてやろう。
残りの二匹は魔王の城への入場料として頂くことにする。
さして欲しくはないのだが、ジン辺りが煩く言うだろう。あいつの沸点は異常に低い。
エリシアを逃がし、他の適当な国に攻め入る。目星も、因縁を付ける綻びも見つけている。
これで私のエリシアは、魔王や魔物とすっぱり縁が切れあとは平和に生きることができるという仕組みである。

私は一人歩みを進めながら、自身の腕をさする。
こんな醜い私の手にも、エリシアは構わずじゃれ付いてきた。
だから早く。早くあの子を私から、遠ざけねばならないと思った。

私は魔王である。
魔物達のために生き、魔物達のために死ぬ王である。
特定の誰かを幸せにするために生きてはならない。許されない。
ましてや人間の子供なんぞに気を許し、それを手元に置くなどあり得ない。
人間は人間の場所で、魔物は魔物の場所で生きる。そうした不文律が分からぬ私ではない。
私の元にいては、エリシアは不幸になるだけだ。
人並みに生きることもできず、ただ虜囚として無惨に死んでいく。
憐憫か、愛情か。どちらが起因であるとしても、私はそのことがひどく気に食わない。
エリシアは影だ。きっと国に戻されても、最後まで利用され尽くして死んでいく。
だがそれでも人として、一国の姫として死ねる。結構なことではないか。化け物の腕の中で死ぬよりは。

物思いに浸りながら歩みを進めるそのうちに、空気にただならぬものが混ざりだす。
酸と鉄と、墨の混じったような嫌な臭いだった。
気付けばエリシアの部屋の前である。
開け放たれた扉の向こうから、廊下とは比べ物にならない光量が、暴力的なまでに漏れ出していた。
そのおかげで、臭いの元が無駄に照らし出されている。
無様にも扉の前に転がる、黒いローブの魔物。ただし、首から上がない。
鋭利な刃物で斬られたらしく、切り口は平坦。腐ったような肉と、土塊のような骨が覗いていた。
今もなお黒ずんだ血が一定のリズムに従い流れ出て、廊下に広がる血の海を徐々に増やしていっている。
私は足を止め、ぼんやりと尋ねてみる。

「……何をやっているんだお前は」
「見テ分かリマセんカ?死ンでルンでスヨ」

血だまりに転がる首が、飄々と答えた。
右を下にして転がっているものだから、喋るのにとても不自由そうだった。
私はその首、ズィーベンを拾い上げ、口元と目元にこびり付いた血を、袖で軽く拭ってやった。
そうしてひとまず、横たわる胴の上に安置する。
私に対する礼もそこそこに、ぺっ、と血の混じる唾を吐き、忌々しげに語り始める首。

「いキナリ背後カラこレデすヨ。モぉ堪ッたモンじゃナイ。こレダカら生キた人間ッてーノハ嫌なンだ」

自身の血に塗れながら、首だけになりながら、ズィーベンは相変わらずの饒舌である。
体が繋がってさえいれば、呑気に肩を竦めてみせたことだろう。
死んではいるが、無事で何よりだ。しかし私はもっと尋ねねばならないことがある。
私は腕組み、部屋の中を覗き込む。中は荒らされてはいなかった。ただ主のみがいない。
視線を首に戻すと、ズィーベンはあさっての方向に視線をやっていた。エリシアがいるはずの方角に。

「ところで、何故お前がこんなところにいる」
「……」

途端、決まり悪そうに無事な片目を閉じ、黙り込む首である。まあ、なんとはなしに予想はつく。
こうしていても決して自分の口から吐くことはないだろう、ということも。
私は質問を変えることにした。

「動けそうか?」
「ぐっグッ……暫クお待チくダさイ」
「なら、そのままで待っていろ。後でヴァネッサあたりに繋げてもらえ」
「餓鬼ヲ回収しニ行くンでスカ?」
「そのような所だ。それと、お前を殺した落とし前を付けさせる」
「……ゴ苦労なコトッすねェ」

目を閉じたまま、死んだ振りをしながらよく喋る首。じゃあな、と声をかけ私は先を急ぐことにした。

「魔王様ーァ、早イトこ餓鬼を連レ戻しテクだサイよ。不本意ナガら、謝ラナきャなンねーコトがデきタンで」
「知るか」

見送る首に吐き捨てて、私はエリシアがいるはずの場所を目指す。
どうやら人間の一匹とジンが暴れているようだ。それだけが気がかりだった。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

わくてかあざーっす!この辺から話がやや動きます。まったり書きます。

  • 2011/11/20(日) 22:10:28 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

どうなっちゃうんだハラハラwktkヽ(`Д´)ノ

  • 2011/11/20(日) 09:20:56 |
  • URL |
  • 名無し3 #-
  • [ 編集 ]

>H.S
独りよがりな愛ですが、全員割りとそんなもんというテーマです。ただベルが一番純粋ですww

>B
原案よりも描写や事件増やそうと思いまして!わくてか感謝!

  • 2011/11/20(日) 00:32:37 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

何これ、こんなの俺の知ってるベルじゃない( ゜Д゜)wktk

  • 2011/11/19(土) 20:53:28 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

待ってましたぁ!

愛ゆえにか・・・

  • 2011/11/19(土) 12:38:51 |
  • URL |
  • H.S #V19xxO8I
  • [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://maomesiuma.blog112.fc2.com/tb.php/24-1d1a3586
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。