ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・23

黒衣の章・23
「っっ!?」

曲がり角からぬらり、と姿を現した私を前にして、人間どもは息を飲み、急いていたはずの足を無理やりに止めた。
途端そちらからぽろりと落ちる恐怖の種。
それは瞬間に芽吹き、床を這い、壁を介し、空気を震わせ、花を結ぶかのようにして私を歓喜せしめるのであった。
三匹のうち一匹がジンと交戦、私はその残った二匹を先回りして出迎えた。
城の主たる私である。探ろうと思えば、城の内部で私の意識が届かぬ場所はない。
私は甘みを噛み締めながらゆっくりと、人間たちへと目を向ける。
剣を携えた男。その背に守られるようにして女。
どれも見るからに薄汚れ、取るに足らない生き物だ。
そしてその傍らには。

「――――」

エリシアがいた。女に手を取られ、引き立てられるようにしてそこにいた。
暗がりでもその金の髪はよく栄え、私の目を少しばかり休ませてくれた。
だが、黒い血のりで髪も寝間着もべたりと汚れ、息を切らせて目は虚ろ。
ぼんやりと心定まらぬ様子で、それでも何とか前を向き私を見つめていた。
酸い臭いからして、全てズィーベンの血だろう。
男の剣からも、それが滴り落ちていた。エリシアが怪我を負っている様子はない。
私は安堵し、しかしそれを奥歯で噛み潰し、擦り潰した。
私はここでエリシアを手放さなければならない。情け心は無意味である。
しかしそれを理解できていたというのに、私はエリシアから目を離せずにいた。
エリシアも何を言うでもなく、ただただ私に虚無の瞳を向けるばかりであった。
そこから私は何一つ読み取ることが叶わなかった。恐怖か、怒りか、それとも敬慕の念か。
例えそのどれであったとしても、どれでなくとも、私はエリシアを手放さなければならない。
それでも見つめ合わずにはいられなかった。人間二匹、という壁がもどかしかった。
私が黙ったまま動こうとしないためか、人間二匹は焦りと恐怖を顔に張りつかせ、じりじりと後ずさる。
男は勇敢にも私を睨みつけ、女は果敢にエリシアの手を握ったままでいた。大人しく屈するつもりは微塵もない様子。
しかしどうやって、何に抗えるというのだろう。
私は嘲りを多大に練り込み、軽く冷笑をこぼしてみる。たったそれだけで、人間たちは足を縫い付けられてしまうというのに。
そこでふと気付く。私の手も、血に塗れ汚れていた。
拭う暇も、その意識すら捨て、私はここに立っていた。あの父にすら遜色ない、魔王としての、私であった。
私は血まみれの右手をゆるゆると持ち上げ、手のひらを空に翳す。そうすることに然したる意味はない。
ぽたり、ぽたり。粘度の高い、私のものではない血が床に垂れ、緩慢に時を刻んでいった。
張り詰める。私のためだけに、空気が、場が、世界が凍る。

「薄汚い、鼠どもよ」

私はそこで、ようやく口を開くのである。

「このような夜更けに、我が城まで来臨頂き、真に痛み入る。礼を言おう」

人間どもは動かない。動けないと言うべきか。
私の演説にじっと耳を傾けるばかりであった。元より反応など望んではいない。私は続ける。

「丁度、私はお前たちのような鼠を待っていた。待ち望んでいた。感謝する。歓呼して迎えざるをえない。だから、お前たちはここで」

「死んでいけ」。そう続けようとした私の視界から、男の姿が一瞬ぶれ――
そう思った時には剣が、私の腹を真一文字に薙いでいた。
それは速く、疾く、そしてあまりに稚拙な、だからこそ避けがたい一斬であった。
打ち込まれる刃。腹に響く衝撃。どこかで絞られた悲鳴が上がった。
しかし眼下にある男の顔は、驚愕に染まっている。
それを見下ろしにやりと笑ってやると、男は躊躇うそぶりも見せず地を蹴り後方に飛び退いた。
これでまた元の振り出しだ。男の剣は私の腹どころか、布すら断ててはいなかった。
見れば女が悲痛な目でぶつぶつと呪文らしきものを呟き続けており、そういえば男も闇の中で薄ら青い光に包まれている。
ふむ、と私は唸り嗤う。

「増強呪文だろうか? 面白い小細工を使う」
「く、くそっ……! 確かに今手応えはあったのに……!!」
「はっ、私がそのような鈍ら(なまくら)で倒れるものか」

その無念を鼻で笑ってやると、あからさま顔を歪める男。
しかし当然のことである。
私の着衣は竜の髭や双頭狗の毛皮を元に織られており、鋼鉄の鎧などを遥かに凌ぐ強度を誇る。
つまり私自身の手柄というわけでもないのだが……まあわざわざ教えてやる義理はない。

「私の、私が飼っているその人間を」

私は女に囚われたままのエリシアを指差した。エリシアはびくりと身を竦める。
今にも泣き出しそうなくらいに、精一杯に顔を歪め、溢れ出る悲鳴を抑えていた。
それは私と初めて顔を合わせた時に見せた、あの、絶望の色だった。
それで良かった。それ以外の色を、今の私は決して見たくはなかった。
だから私はエリシアからさっと目を逸らし、高揚感を隠そうともせず、睨む男に言ってのける。

「貴様らがそれを無断で持ち出そうと言うのであれば。私は見過ごすわけにはいかんのだ。何しろ、今はまだどのように使うべきか模索している段階でな。食うにも、胎(はら)を使うにも、どうもそれは卑小が過ぎる」
「この、下衆が……!!」
「何とでも言うがいい。ああ、貴様はいらんぞ。その程度の腕、どうにも使い途に困りそうだ」

男は殺意を瞬かせた目で剣を構え、最早無言で私に飛びかかった。
魔王を前にして、なんとも頭の悪い男である。大人しく命乞いでもしていれば、まだましに死ねたものを。
私は男の剣を避けるでもなく、羽虫のように払い除けた。
剣と私の爪がぶつかり合い、ガィンっ、と耳を聾する金属音が爆ぜる。
しかし男は諦めない。角度を変え、突きを繰り出し私の首を狙い続ける。私はそれを払う。避ける。受け止める。
幾度目かの攻防の後、男が飛び退き、女の方から火球が飛んだ。私はそれを片手で握り潰す。
じっ、と舞い散る火花。煙るそのすぐ向こうから、刃が真っ直ぐ私に繰り出された。
私はそれを身を少し引き、難なく避ける。
息つく間もない、殺気に満ちた、欠伸の禁じ得ない、実に実につまらない遊戯であった。
私は苛立ちまぎれに、ぶん、と軽く腕を振るう。
生まれた突風によって弾き飛ばされ、男は無様な悲鳴を上げて床を舐めた。
すぐによろよろと起き上がり剣を構えて私を睨むも、その顔には焦燥が色濃く滲んでいた。
私はそれを、鼻で笑う。追撃もまるで必要性を見いだせない。
女の力量で防ぎきれる程度に加減したため、エリシアは女の張った防御壁で無事のようだった。
男の荒い息遣いばかりが耳につく。
さあしかしこの男。そろそろ相手をしてやることにも飽きてきた。
片付けてズィーベンの仇を取り、全て終わらせてやろうと思う。名残惜しいが覚悟を決めた。

私はエリシアから視線を外したまま、ここしばらくの日々を振り返る。
掛け値なく、衒い(てらい)なく、嘘偽りなく私は思う。
エリシアは私が久しく忘れていた、小さな喜びとでも言うべきものを与えてくれた。
だから私はその礼を尽くすだけだった。
もうすぐ、エリシア。私はお前を救ってやれる。私の身勝手で奪った光を、お前に全て返してやれる。

その女と共に外へと送ってやろう。後は好きに生きるといい。

私は低く、低く呪文を唱え始める。男と女が、ぎょっと怯える気配を漏らした。
何のことはない、単なる移送魔法である。
しかし形式も作法も全て魔物独自の術であるため、人間である二匹にはさぞかし恐ろしげに見えることだろう。
呼応し私の足元には闇色の魔法陣が顕現する。沸いた異物に空気がギシギシと軋みを上げた。
男がまた床を蹴る。狙うはまた私の首だろう。
どうせ防がずとも傷一つ負えそうもない太刀である。放って私は呪文を唱え続け――

「だめえ!!」

胸を割くような悲鳴が上がった。
男の足が淀む。その足に、エリシアが飛びついた。
エリシアは泣き喚く。喉を絞り、言葉にならない悲鳴を上げ続ける。
その場の誰しもがその光景を目の当たりにし、息も、思考も忘れて留まった。
男は足を止めぎょっと目を剝き、自身の足元に縋るエリシアを見る。
女も恐怖に近くも遠いわだかまりを持ってして、ぽかんとエリシアを見つめている。
私も同様だった。喚くエリシアを、私はただただじっと睨んでいた。
エリシアが何故泣くのか、何故男の進路を阻むのか。まるで理解ができずにいた。
呪文が途絶え、闇の魔法陣は空に消えた。
エリシアの悲痛な泣き声はあらゆる思考を塗り潰し、私の脳を支配する。
耳につく、魂の凍える調べだった。

「な、何をする!!」

はっ、と我に返った男が、乱暴にエリシアを引き剥がした。
受け身を取ることもできず、床に倒れるエリシア。そこに慌てて女が駆け寄るのだが。

「姫様一体何を……」
「ひ」

身を起こしたエリシアは女の顔を見るなり、短い悲鳴を上げるのだった。
涙に塗れた顔を更に歪ませて、エリシアはゆるゆると首を振る。

「こ、や、あ……」

途切れとぎれに紡ぐ声。私の耳には、それがどんな意味をなす端々なのかが届かない。
しかしたった一言。最後に絞り出した、そのたった一言だけは明確だった。
立ち尽くす私に届かぬ短い手を伸ばし、しかと私を見据えてエリシアは啼く。

「た、たすけて……!」

気付けば私は跳んでいた。
男の横をすり抜け、エリシアに寄り添う女の首目掛けて腕を伸ばす。
恐怖に見開かれた女の瞳はエリシアと同じ青だった。
しかし到底及びもつかないような、濁った、傷んだ青だった。
私の気分を損なうにはそれですべてが十分であった。
私は女の首を掬い上げるようにして摘み持ち上げ、力の限り壁へと投げつけた。
打ち水のような音。
女は壁に醜い深紅の絵を描き、ずるりと床に落ちた。首はどこか遠くを見るように曲がっていた。

「あ、ぐ……貴様あああああああ!!!!」

男が何やら奇声を上げて私に飛びかかる。
私は呪文を唱えかけ。

「いや」

わざわざ中断し、男を出迎える。
軽く身をかわすだけで男の剣は空を切る。私はその隙を逃さない。
男の剣を持つその腕を掴み、捻り上げ、そして少しばかりの力を込める。
ブヅッ、と皮膚と肉の千切れる、骨の砕ける心地よい音。この世のものとは思えぬ悲鳴が轟いた。
わざわざエリシアの目の前で。
剣を掴んだままの男の腕を遠方まで放り投げ、呻く男の身は蹴り飛ばす。
一息ついた時には、そこには地獄が広がっていた。
死体が一つに、死体のなりぞこないが一つ。
辺りは血の臭いで満ちており、私の腕も、最初とは比べ物にならない程血に塗れていた。
だが私はエリシアをそっと抱き上げる。
するとエリシアは大人しく私の胸に顔を埋め、小刻みに震えるのだった。その頭を撫でてやりながら、私はぼやく。

「お前を助けるのは、この人間たちのはずだったろうに……」

答えにならない嗚咽を上げ、エリシアはぶるぶると首を振る。
後はごめんなさい、ごめんなさいとばかり泣くだけだった。

「そうか。そうかエリシア。そうなんだな、お前は」

溜息も最早品切れであった。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

>3
たまにはカッコいいんだぜ!というとこを書いてみたかったのです…!楽しかった!

>B
ヴァネッサはベル他全員が止めると思いますね色んな意味で!

  • 2011/12/23(金) 00:01:59 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

やっべ、ベルかっけえw
思わず惚れちゃいそうになっ…エリシアに怒られそうだから止めとこう…('・ω・`)

かわりにヴァネッサは貰っていくぜ、ヒャッハー

新作キテターwww
そしてシリアスの中に甘い香り・・・
魔王さまかっこいいよ魔王さま

  • 2011/12/20(火) 12:04:43 |
  • URL |
  • ななし3 #-
  • [ 編集 ]

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