ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・24

黒衣の章・24
ここは魔王の治める、棲まう城である。
なので当然のように地下には牢屋が、拷問部屋が、屍骸を捨てる墓場がある。


しん、と耳に痛いほどの静寂。
岩壁は湿気で常にどこも濡れており、空気から、生き物から、あらゆる熱を奪って冷えている。
廊下にあるのと同じ、蒼く煌めく魔の光が等間隔で灯ってはいるものの、地表とは比べ物にならないほどにどこか暗く、また息の詰まる場所だった。
当初はここにエリシアを詰めておく手筈であった。
もし万が一そうしておけば……私はこうも黒ずんだ幸福を、持て余さなかったことであろう。
私はジンと並び、一つの牢を見つめていた。
鉄格子の向こうには人間が一匹、そして屍骸が二つ積まれている。
屍骸の内、一つは私が殺した女のものだ。
女の首は折れ曲がり額は割れ、目玉は潰れ真っ黒な眼窩でもってして虚空を見つめていた。
土気色の肌に、赤黒い血がよく映える。
しかし、それもまだ見れたものだった。

「おいお前、何か重大なストレスでも抱えているのか?」
「あ?まあそうだな、君主が真面目に生きてくんねーもんだから鬱憤溜まりまくりよ」
「ストレスはいかんぞ、ストレスは。どうだ、長期休暇なんぞ取って旅行に出てみては。今なら東方の島国であらゆる火山が異常噴火の真っ最中だとか」
「あー溶岩の温泉とかいいねー。どっかのアホを火口に突き落として、冷やして固めて海溝に沈めてやりたいわー」
「私はそうだな、どこぞの無能な下僕をシンプルにざっくりと屠りたいところだ。不敬罪辺りで」

ははは、と乾いた笑いの私とジン。
もう一つの屍骸。いや、屍骸と言っても良いものか。それは完全に、単なる肉の塊であった。
生き物としての尊厳など端から放棄した物体だった。
四肢らしきものは分かる。頭部であったであろう部位もまあ分かる。
しかしこれは何だと聞かれると、人間であったとは答えづらい。

皮膚は裂け骨が覗き、腹は裂かれ蛇のような臓物が顔を出していた。
裏も表も中身も外も滅茶苦茶で、勿論頭は完全に破壊され、下顎から上は存在しない。
だらしなく垂れ下がった舌が、自身の末路を嘲笑っているように見えた。
四肢は無論もがれている。男か、女であるかの識別すらも難しい。
まるで捌くのを途中で飽きて放棄された鶏である。
気付いたらこうなっていたと、平然とジンは言ってのけた。
どうせ相手取った人間を殺してしまうだろうと思い、私はなんとか最後のあの男を生かしておいたのだが……流石にここまでするかと呆れるばかりだ。
横目で睨みつけるものの、ジンは愛用の爪を取り外し、鼻歌交じりに磨いている。
機嫌がいいのは結構なことだが、これはこれで相手にしづらかった。

生かした男は積まれた仲間の屍骸から離れ、牢の隅で横になって呻いている。
失血死されても困るので先ほど軽く回復呪文を使ってやったのだが、男は呪文をかけた瞬間に絶叫を上げ気を失ってしまっていた。
見れば腕の千切れた断面に、何やら黒い水疱らしきものが浮かびは破裂し、浮かびは破裂しを繰り返している。
濁った脂の臭いがした。
試すのは初めてだったが、やはり魔物の呪文では、種族が根本から異なる人間を癒すことはできないらしい。
エリシアに怪我がなく、本当によかったと思う。
物思いに浸っていると、足音が二つこちらに近付いていることに気付いた。
しばらくして顔を見せたのはヴァネッサとズィーベンの二人だった。
恭しく頭を下げるヴァネッサ。片手を上げて、「ヨーッす」と笑うズィーベン。
その妙に清々しい笑顔のままで私の隣に並ぶ。見下ろすと、首は元通りの位置にあった。

「どうだ具合は」
「見てノ通リッすよ」

一応とばかりに尋ねてみると、ズィーベンは首を指し示した。
そこにはよく見なければ分からないほどに細かい縫合が施されており、まあ何とか不自由ない様子。
やっぱりヴァネッサは器用だなぁ、とズィーベンはにやにや語る。
先ほどまで死んでいたとは思えぬ、あからさまな上機嫌であった。

「ウッ……わ、何ダこリャ……」

しかし牢の中に気付いたのだろう。
ズィーベンはそんな情けない声を上げ、よろよろと鉄格子を掴み、その挙句がくりと項垂れた。

「せッカく新鮮な死体ガ手に入ルト思っテたノに……ぐッちョグちゃジャねーカ……」
「あーわりぃわりぃ。んでもベルが殺った方はどうよ、まだ使えんじゃね?」

そんなズィーベンの肩を気楽に叩き、ジンは軽く言ってのける。
気乗りしない様子でズィーベンは女の屍骸に目を向けるのだが。

「まアいケナイこトも……あーでモ女かー……女は顔残ッてル方ガ色々使イヤすいンダガなぁ……」
「お前はこれくらい復元できるだろう」
「オレ、直スのハ例外除イテ基本やンねーンデす。面倒ダカら」
「無傷の死体作れって注文もかなり面倒なんだけど。分かってんのかてめえ」
「ばッ、バカかオ前!頭叩くンジゃねーヨ!まだグッ付イテねーンダかラ落ちルダろ!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐジンとズィーベン。何と言うか、うむ。いつになく調子が際限なく軽い。
ヴァネッサはそんな二人を見ながら、端でくすくすと笑っていた。
彼女は彼女で、こんな時でもいつもの調子を崩さない。これはこれで恐ろしい女である。

「ヴァネッサ。城の周りを見てくると言っていたが、どうだった」
「はい。恐らく仲間であろうという人間が二匹潜んでおりました。ですが……」
「何かあったのか?」

ヴァネッサは悩ましげにほぅ、と溜息をこぼし。

「あまり美味しいものではございませんでした」
「いや、私が聞きたいのはそういうことではなくてだな……」

悪食め……。
私が言葉に詰まっていると、ヴァネッサはぺこりと一つ頭を下げる。

「ひとまずこれで片付いたかと存じ上げます。ご苦労様でございました、魔王様」
「……うむ」
「全クどイツもコイつも……」

グッグッ、とズィーベンが楽しげに笑った。

「まあいい……ところでズィーベンよ、この男か?お前を殺したのは」
「ンー?あア、多分ソうダと思イマす」
「まったくもう、自分を殺めた顔くらい覚えておきなさいな」
「……無茶言ウなヨ、いキナリ背後かラバっさリダゼ。不死身ツッてモ、即死ハやッぱり堪えル」

ハーア、と今度は酷く肩を落としてぼやくズィーベン。
死に慣れ親しんでいるはずのこいつが、こんな風に落ち込むとは。
私はその背に特別かけるべき声を見失っていた。

「ま、揃ったようだし始めるか」

ジンは気楽なものである。そう言って誰の同意も待たぬ間に、鍵を外し飄々と牢の中に踏み入った。
びしゃ、とわざわざ水溜りを踏み鳴らしながら、軽快な足取りで横たわる男の元まで歩み寄るジン。
それを、私達は複雑な思いで見つめていた。『いいんですか任せて……』『知るか』といった、無言の応酬である。

「おいこら起きやがれ」
「うっ……」

ジンが爪先で腹を蹴ると、すぐに男は目を覚ました。
しかし意識が朦朧としているようで、残った腕で牢の床を掻くばかり。
ジンはその頭を掴み、無理矢理に起こす。床に座り込んだ男の顔を覗き込み、ジンは言う。

「よーよーお目覚めいかが? いやあ悪いねー俺含め手加減ってものをあんま知らなくてよお。お前しか残せなんだわー」

背を向けてはいるが、どうせいつも通りに軽くにやにや笑っているのだろうと予想のつく語り口。
男はそれには何も答えず、ただ仲間の屍骸をジンの肩越しに見やる。
罵倒も泣き言も、その口から放たれることはなかった。ただ歯の削れる音だけが漏れた。
額には脂汗が滲み、依然傷口はこの世のものと思えぬ有様。
しかし煮えたぎる炎をその目に宿し、ジンを燻らんと震えていた。人間にしては中々見上げた根性である。

「私を拘束すらしていないのは、どういうつもりだ……」
「生憎、半端な死体縛る趣味はねーんだよ」

静かな口調で男が問い、それにジンが笑って返す。

「で、お前らはあの国から送られたってことでいいか?」

男は何も答えない。ただジンを、牢の外から見守る私達を睨むだけだった。

「提示された報酬はいかほどー? 金か? 女か? 名誉か? しっかしどんだけ目先の欲だか義侠心にトチ狂ったとしても、まともな神経持ってりゃこんな場所に足踏み入れようなんざ思わねーよな普通。結果がこれだし? わざわざ死体の山を作りに来ただけだもんな」
「……」
「おーい、もしもーし。聞こえてやがるかー? 下等生物にだって耳くらいついてんだろうがよー? 飾りかーこいつは」

男の悲鳴が上がる。
ジンは汚らしいものでも扱うように軽く一瞥をくれてから、男の片耳を牢の隅へと放り投げた。
そこからの変わりぶりは早かった。頭をがしがしと掻き毟り、男の頭を掴んで揺らす。

「ってーかよぉ……俺はこんな夜中にクソの片付けに駆り出されてマジ気が立ってんだ……時間外手当なんざ出ねーんだぞうちは。早く終わらせて一眠り、といきたいところだが、てめーは『魔王様に刃を向けた者』っつー貴重な案件だ。他みたくそこのトカゲの餌にしたり、一発で殺っちまう、なーんて簡単な処分じゃ下に示しがつかねえんだよ。大人しく従順にしてくんねーと今すぐ殺しちまうぜ? そしたらどうしてくれんだ、俺が仕事できねーみたいじゃねーか。魔王の側近失格みたいじゃねーか。ああ? 何とか言えよこら。残った手足もトカゲに喰わすぞああ!?」
「もうジン様ったら。私はもうお腹がいっぱいなんですよ?」
「ヴァネッサ、突っ込ムとコは多分ソこジャねえ……」
「もういいからお前は戻って寝ろ……」

あまりに雑な尋問に、私は頭を抱えざるを得なくなる。
朝に弱ければ夜中に叩き起こされることも死ぬほど嫌うジン。先ほどの上機嫌も一時のものだったようである。
やれやれ、と肩を竦めて部外者ぶっていると、しかし睥睨の気配を感じて視線をやる。
そこにはやはりと言うか何と言うか、深い懐疑の、気味の悪いものでも見るかのようにして、男が私を睨んでいた。

「何か私宛に遺言でもあるのか」
「あのエリザベス様は……一体何なんだ」

男が絞り出すように口にしたその名前。
その時、確かにざわりと空気が揺らいだ。ヴァネッサが、ズィーベンが、そしてジンまでもが。
私同様あの子のことを思い浮かべ、それぞれ思うところを苦く噛み潰したようだった。
そんな空気を感じ取り、ただ男だけが怪訝な表情を浮かべるのだった。

「エリザベス様のお姿と、人間の気配で……魔物なのかあれは」
「……いいや、そこの馬鹿が攫ってきた、紛れもない人間だ」
「ならば貴様達は! エリザベス様に何をした……!」
「……さあな」

それは私の方が聞きたいことだ。
私は一体何をした。人間を浚えと命じた。それを飼った。ただそれだけだ。
他には何も覚えがない。助けを求める相手を絶望的に誤るほどの何か。私はそれを知らぬ間に与えてしまったのか。エリシアに。
私は頭を振ることしかできなかった。

「ああ……それと」

一つ軽く指を鳴らす。
途端男の腕断面から、黒い炎が湧き上がった。男は一瞬ギョッと炎を見るが、すぐにそんな余裕もなくなったのだろう。

「び、っ、ぐ、あ、がぁぁあああああああああああああああ!?」
「私の前で、二度とその名を口にするな。不愉快だ」

もうここに用はない。私は苦しむ男に背を向けて、上に続く階段を目指す。
ズィーベンが物言いたげな目で私を見ていたような気もするが、きっとそれは錯視である

「殺さず、狂わさず、名前や出自、ここまでに立ち寄った町。全て吐かせろ。その後の処遇は考えておく」
「あ?おいこらベル、どこ行くんだよ」
「寝る」

それから散々な罵倒が聞こえた気もするが、それは男の断末魔に掻き消され、私は何の気兼ねもなくエリシアの部屋まで急ぐのだった。



もう夜明けも近い時刻だが、エリシアはまだ寝ずに待っていた。
ソファに座りうつらうつらしていたようだったが、私が部屋に入るや否や、すぐに目を覚まし駆け寄ってきた。

「……何だ」
「おかえりなさい」

嬉しげに足に縋り付くエリシアを私は渋々抱き上げ、寝台に腰掛ける。
ヴァネッサかその他メイドが風呂に入れ、着替えさせたらしく、珍事などまるでなかったかのように小綺麗だ。
それからエリシアは、眠っていて、ドアを叩く物音がして出てみれば……という、予想通りの顛末をぽつりぽつりと話してくれた。
そのため、『謝らねばならない』というズィーベンの言葉も理解できた。
エリシアは語る。語った。血の臭いがこびり付いた私の腕の中で。
ヴァネッサが持ってきた手拭で軽く血を拭った以外、私は身を整えてはいなかった。
衣類には血が染み込んだままであり、爪にはまだ肉がこびり付いていた。
そうだと言うのに、エリシアは私の胸に顔を埋めた。私の腕にじゃれ付いた。私が頭を撫でると喜んだ。
私はそれで理解した。この決意は、この狂気は本物であると。

「エリシア」

静かに名前を呼ぶと、エリシアは私を見上げる。その目には何一つ、希望以外のものは見出せそうにもなかった。

「エリシア、お前はここで死ぬしかなくなった」
「うん」
「楽に死ねるとはゆめゆめ思うな」
「うん」
「お前の全ては最期まで、私のものだ。誰にも渡さない。奪わせない」
「うん!」

エリシアはにこにこと聞き分けよく返事をした。それを、私は抱きしめてやることしかできなかった。






あの日あの時あの場所で、確かに私の物語は始まった。
命に意味が与えられた。
歓びを得た。
見出した。
だから私は生きた。
生きて、そして。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

>ねぎさん

すみません章は27から変わりますこっち直すの忘れてました…!!
ズィーベンは案外まともな魔物です。他が駄目すぎて割りを食う感じ!短編でそんな話書きたい(*´ω`*)

  • 2012/03/16(金) 00:11:12 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

やはりズィーベンが一番常識人www ヴァネッサに喰われた人達はある意味ラッキーだったという。新章も変わらず期待しまする(`・ω・´)

  • 2012/03/15(木) 22:12:18 |
  • URL |
  • ねぎ #-
  • [ 編集 ]

わーいありがとうございます!
サイトの方と合わせてのんびりやっているので亀ですが、今後とも頑張ります!まったく幼児(と人外)は最高だぜ!!

  • 2012/01/07(土) 22:58:40 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

まとめから来てやっと追いつきました
丁寧な描写で世界観に引き込まれました

新章期待してます!

  • 2012/01/07(土) 05:19:32 |
  • URL |
  • #-
  • [ 編集 ]

>B
ダローマジワカンネーダロー(棒)
ゆっくり書いてくお!

>3
新章は多分年明けになりますがww頑張ります!

  • 2011/12/25(日) 00:25:10 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

最後の部分の会話がイイ!!!!!

新章も楽しみ!!!

  • 2011/12/24(土) 19:49:30 |
  • URL |
  • ななし3 #-
  • [ 編集 ]

早っ( ゜Д゜)

ヴァネッサがそうだったとは…だがそれがいい!( ゜Д゜)カッ

さて、いよいよ新章か…どうなっちゃうんだろう、ソウゾウモツカナイナー

  • 2011/12/24(土) 08:52:19 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

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