ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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交差路の章・27

交差路の章・27
はた、はた、はた……。
軽く小さな足音が、果てしない廊下に響いていた。音は廊下の奥へ奥へと吸い込まれた。
足音の主は小さな少女だった。長い金の髪をおろし、青い目をした人間の少女。
少女の向かって右手には同じような扉、左手には窓がそれぞれ並んでいる。
規則的な、変化に乏しい道のりを、少女はただ急ぎ足で駆けていく。
顔には小さな焦燥と、そして大きな希望が溢れていた。
長い廊下の先にも後にも、少女以外何者の影も見ることはできない。
時刻は日が登り少しした頃合いで、窓から降り注ぐ光は暖かく柔らかだ。
しかし廊下は不気味なほどに静まり返っている。少女が立ち止まることはない。
ただひたすらまっすぐに、目指す場所まで駆けていく。それだけだった。

「姫様」

やおら、急ぐ少女の背後から声が生まれた。
少女は立ち止まり、突如として現れたその者に、しかし何の驚きも示さなかった。
振り返り、代わりに一つぺこりと頭を下げる。

「ヴァネッサおねーちゃん、おはよ」
「はい、おはようございます。お早いのですね」

ヴァネッサ、と呼ばれた女はそれにニコリと返してやるのであった。
女は異形の者である。耳は長く尖っており、目は白眼がなく全て血のような赤に染め上げられている。
それがメイドの出で立ちをして、人間であるはずの少女に笑いかけていた。
メイドは辺りを見回し、やや不可思議そうに小首をかしげてみせる。

「魔王様はご一緒ではないのですか?」
「うん……」

こくりと頷く少女。

「あのね、おきたらもういなかったの。おこしてくれなかったの」
「きっと姫様がよく眠っていらしたから、起こすに偲ばれなかったのでしょう。
 朝餐の前に花の様子でも見に行かれたのかと」
「うん。なかにわにいく、っておてがみがあったの。でも、おいてかれたの……」
「ああ、お可哀想な姫様」

俯く少女。メイドはその頭をよしよしと撫でて宥めてやる。
そうして少女の手を取って、その目指していた方向を指差し微笑み言う。

「では私めにご同行させてくださいませ。魔王様を叱って差し上げましょう」
「あ、う、し、しかっちゃ……だめ」
「分かりました。あまり叱りません。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ嫌味を飛ばすだけにしますわ」
「じゃあ、いっしょにいく!」
「よかった」

メイドはほう、とため息をついて目を細め、自身の口元をそっとなぞる。

「私も食後の気晴らしが必要でしたから」



そうしてメイドと少女は歩き出した。
少女は先ほどまでの駆け足をしばし忘れ、メイドと手繋ぎゆるやかに歩みを進めた。
少女とメイドは仲睦まじく語らいあい、時折少女は上機嫌な笑い声をもらした。
その頃から、廊下には少しずつ少女ら以外の者たちが現れるようになってきた。
蝙蝠のような羽の生えた一つ目の男、薄緑色に透き通った体をした何か、硬い鱗に覆われた龍人。実に様々な魔物たちであった。
しかし彼らの一部は薄汚れ、少し疲れたような顔をしてトボトボと廊下を歩いていた。
あるものはその鋭い爪先から鮮血を滴らせ、ある者は血と泥で汚れその眼を爛々と輝かせていた。
しかし少女が挨拶を投げかけると、彼らはそうした疲労を包み隠し、メイドと同様少女に対して微笑ましげに挨拶を返した。
少女はどんな姿の、どれほど汚れ血に染まった魔物にも分け隔てなく、臆することなく声をかけた。
メイドはそんな少女と魔物たちの姿を微笑ましげに眺め、汚れた魔物には一体一体後で掃除をするよう優しく申しつけていった。
メイドに声をかけられた魔物は、例外なく震え上がり言葉少なに頷くと、そそくさとその場を後にした。

「あ!」
「あら」

そうして声をかけるそのうちに、少女は挨拶とはまた別の歓喜の声を上げた。
少女の前方から、黒いローブを目深に被った人影がふらふらと歩いてくるのが見えたのだった。
その人影のローブから覗く手足は青ざめ傷だらけであり、打ち捨てられた死体のような有様である。
少女は顔を輝かせて、そのローブに大きく手を振り叫ぶのだった。

「おはよ!ズィーベーン!おはよー!」

しかしローブの影は少女の声に何の反応も示すことなく、手近な角にふらりと消えてしまった。
少女が不満のこもった声を上げ、微笑ましげに見ていたメイドも微かに眉を顰めてしまう。
そうして少女はあからさま肩を落とすのだった。

「ズィーベンいっちゃった……」
「ああ姫様、気に病まないでくださいませ」

メイドは慌ててしゃがみこみ、少女の目を見つめる。

「ズィーベンはですね、昨夜どうしても片付けなければならない大事なお仕事があって、疲れているのです。
 その上もう朝ですからとっても眠たいはずなんです。
 だから決して、決して姫様のことを無視したとか、嫌いになったとか、そういうことではありませんよ」
「でも……」

不服そうに唇を尖らせる少女。
メイドはそんな少女のことをじっと見つめていたが、悪戯っぽくうっすら微笑み立ち上がり。

「分かりました。これから連れ戻して参りますので、土下座でもなんでもさせましょうとも」
「あ、あー!いいの!おねーちゃん!だめ!ズィーベンいじめちゃだめー!!」
「あらまあ、どうしましょうかねー」

踵を返してローブを追おうとする彼女の足に、少女は必死になって縋りつくのであった。
通りすがる魔物達が、やけに楽しそうなメイドと懸命な少女とを怪訝な目で見つめていたが、敢えて踏みこむ物好きは皆無に等しかった。
たった一体を除いて。

「何やってんだお前ら」

呆れ返ったような声がして、メイドと少女は揃って振り返る。
そこでは一体の魔物が少女らに白い目を向けていた。
銅色の髪と屈強な体を持った、人に近い容姿の魔物である。
球体の形に膨らんだ革袋を肩に担いでいる。
廊下を行く魔物達程ではないものの、彼もまた少々の疲れを顔に張り付かせ、髪の一房や服の袖などはべたりと血で汚れていた。
額にはもう一つの目が開いており、三つの剣呑な眼でもってして、ぎょろりと少女とメイドを睨んでいた。
しかしメイドはともかくとして、少女も男に僅かな怯えを見せることがない。
むしろメイドからぱっと飛び退いて、男に抱きつく始末である。
男は一瞬だけ僅かに顔を顰めてみせるのだが、しかしそこに不快の色は微塵もない。

「ジンだ!おはよ!」
「おはよーさん……ま、俺は徹夜なんだどな」

男は少女に親しみの苦笑を向けて、いささか乱暴にその頭を撫でてやるのであった。
少女を抱き上げて、男は微笑むメイドを睨み付ける。

「しっかしお前元気だねー。昨夜のあれで、よくこいつと遊んでいられるわ」
「まあ、私は気ままにちょっとしたつまみ食いを楽しんだ程度のことですから」

ふふふ、と意味ありげに笑うメイドのことを、男はやや胡乱な眼で見つめていた。
そうしたやり取りに、少女がきょとんと小首をかしげる。

「おねーちゃん、なにかたべたの?エリシアもたべたいな」

ぎょっと眼を剥く男と、頬に手を当てはにかむメイド。

「まあ姫様ったら。ですがそれほど美味しいものではございませんし、姫様には少々早いものと存じ上げますわ」
「あんなもんに早いも遅いもねえんだよ、この悪食が」
「エリシアもたべるー」
「お前にゃ後でなんか別のもんやるからなー、パウンドケーキかクリーム・ブリュレか……あー苺のクラフティとかどうだー」
「たべる!」
「じゃ大人しくしとけ」
「まったく、ジン様は物で釣るのがお上手なんですから」

尖った眼のまま少女をあやす男に、メイドはやれやれと肩を竦めてみせるのだった。

「あ、それよりお前らベルの奴知らねえか。あいつ部屋にいねえんだけど」
「なかにわだよ。むかえにいくの!」
「私はそのお供をしておりました」
「へぇ。じゃあ丁度いい。俺も同行しようかね」

言って、男は少女を抱いたまま歩き出す。メイドは黙ってその後を追った。
生臭く、焦げ臭い男の首に抱きつきながら少女はふと、男の担いだ荷物に気付く。

「ねえジン、これなあに?」
「ああこら触んじゃねえ」

革袋に手をかけようとする少女の手をぴしゃりと叩き、男は事も無げに言う。

「ちょっとした手土産ってやつだよ」




そうして三体は廊下を抜け、回廊を行き、城の中庭に足を踏み入れた。
朝の日差しが柔らかに降り注ぎ、木々や花々がゆるやかな風に揺れている。
小鳥の囀る声が辺りにいくつか響いていた。
男とメイド、そして少女はその庭の中ほど。つる薔薇の茂る生垣を目指した。
生垣はぐるりと何かを取り囲むように置かれていて、大きな広葉樹の葉がその上を覆っていた。
彼らはその生垣のアーチをくぐる。
そこにはささやかな、黒の魔物の玉座があった。

「何だ……お前たちか」
「まおうさん!」

少女の声に、その座の主は片手を掲げて応えてみせた。
生垣の空間に、青銅色の小さな椅子と机がある。
木漏れ日を受けながらそこに掛けているのは、一体きりの黒の魔物であった。
青黒い肌をした巨躯に、黒く大きな角。皮肉げに寄せられた眉に反し、表情らしい表情が読めない真っ黒な目。
召し物は全て黒でまとめられ、過剰ともいえる装飾がちりばめられている。
黒の魔物は老木のような太く黒ずんだ腕で肘を付き、近付いてくる男たちをぼんやり眺めて待っていた。
待ちきれない、とばかりに少女は男の腕からするりと飛び降りて、黒の魔物の元に駆け寄った。
少女の背丈は、腰掛けた魔物の膝にも届かない。
しかし少女は精一杯に背伸びをし、黒の魔物を見上げて言う。

「まおうさん、おはよ」
「……おはようエリシア」

黒の魔物はそこで初めて、表情らしい表情を浮かべるのであった。
かすかに微笑み少女をつまみ上げ、その膝に乗せて少女の髪を梳く。
黒の魔物の爪はこれもまた漆黒で、無闇に長く鋭利である。
人の肌などたやすく切り裂き貫いてしまいそうなそうした爪を、少女はまるで恐れず上機嫌な笑みを浮かべて黒の魔物の膝に収まっていた。
男とメイドは、黒の魔物と少女の触れ合いをただ隣で口を噤んで見つめていた。
しかし黒の魔物がちらりと男に眼をやった。
男はそれに黙って頷き、黒の魔物は深々とため息をつくのであった。
黒の魔物は少女を膝から下ろし、その頭を幾度か軽く撫で、生垣の向こうを指さし言う。

「エリシア、向こうの鉢に水をやってきてくれないか」

すると少女はぱぁっと顔を輝かせる。

「おせわしていいの!?」
「ああ。ヴァネッサ、頼む」
「承知いたしました。さあ姫様行きましょうか」
「うん!」

そしてメイドに手を取られ、少女は生垣を出て行った。
残されたのは黒の魔物と、その隣に並んだままの男である。
黒の魔物は再び机に肘をつき、男から眼を逸らし、生垣に咲く薔薇の一つをぼんやりと眺め始める。
そんな黒の魔物に、男は嗜虐的な笑みを浮かべて語りかける。

「この前忍び込んだ人間ども。覚えてるよな?」
「……ああ」
「この城に来るまでは大体野宿で、最後に立ち寄ったのが、まあちっせえ町だった。
 鼠どもはそこで一晩宿を取って、食糧買い込んでこの城に向かったそうだ。目的地を漏らさずにな。
 人間が大体二百人ほど住み着いてて、農業やって、牛を飼ったりしてる山間によくある平和な田舎町だった。昨日まではな」

言って、男は肩に下げていた革袋を黒の魔物に突きつける。
嫌々、というようにちらりと眼だけを向ける黒の魔物。

「んで、これがそこの町長の娘」
「何故、娘だ」
「爺より若い女の方がいいだろ?何事もな」

男は革袋に手を入れ、そしてずるりと取り出した。

「どうよこれ」

それを見て、黒の魔物は忌々しげに、それでも愉悦に充ち満ちた笑みを浮かべて鼻を鳴らす。

「悪趣味極まりないな」

それは人間の女だった。口が縫い合わされた、土気色をした首である。
首から下に体はないが、代わりに一本の赤い管と、肺らしき肉の袋がぶら下がっている。
袋は微弱ながらに膨らみ、萎み、縫われた口の隙間から、ひゅぅひゅうと空気の漏れる音がした。
首の断面には血の塊がこびり付き、もはや血液は一滴たりともしたたらない。
破れんばかりに見開かれた両の目はせわしなく四方八方に動き狂い、壊れた時計の針を思わせた。
男はその首を、黒の魔物が肘つく机にぞんざいに放り投げる。
首が悲鳴のような音を漏らしたが、男はまるで意に介す素振りがない。かえってその笑みを深めるだけだった。

「そういう文句は作ったズィーベンに言ってくれ。あいつ、この前首落とされたの根に持ってやんの」
「はあ……」

せせら笑う男に目もくれず、黒の魔物は女の頬をそっとその爪でつついてみる。
破れた皮膚からはどろりと黄色い脂が零れ、見開かれたその女の目に滲み始めるのは、涙の代わりに黒ずんだ血であった。
黒の魔物は感心したような、呆れたような吐息を漏らす。

「しかし何故こんな姿なんだ? 首だけでは駄目なのか?」
「持ち運び重視なんだが、喋らすためにゃ肺と気管がいるとかで。
 こいつに伝言任せてあっちの城に投げ込んでやろうと思ってよー。本気の開戦宣言にゃ効果的じゃね?
 何か言いたいことあるか? あ、でもあんまり長いと刻み込めねーみたいだから手短にな」
「そうだな……ふむ」

黒の魔物は自身の顎を撫で、眼を瞑り、思案する。
そうして片目を開き、ぽつりと呟くことには。

「『人よ、少し魔王が遊んでやろう』。どうだ?」
「カッコつけるねー。ま、それでいくか」

男と黒の魔物は顔を見合わせ、にやりと嗤った。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

>3さん
とうとう後半に入りますー!長かった!!

>Bさん
ロリコンほいほいだなーと思いつつ書きました!しかしもう幼女は…(*´ω`*)

>壁からの方
その辺のツッコミ所も意識して書きました!『お前wwwww』みたいな感じで笑って下さると嬉しいです!

  • 2012/03/18(日) 22:08:03 |
  • URL |
  • おつかい #nAPy1gFE
  • [ 編集 ]

最後、珍しく魔王様がカッコいい!
でも、元と同じ流れだと、遊んでやろうとか言いつつ、人間にアレされる訳ですよね?
魔王様…。

  • 2012/03/17(土) 14:09:49 |
  • URL |
  • 壁に隠れた名無し #-
  • [ 編集 ]

早っ!
投稿が早すぎて逆に不安になるw


しかしエリシア可愛いなもう(*´Д`*)
もうロリコンでいいやw

  • 2012/03/17(土) 08:50:03 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

ふおお、連続で読めるとは!
いよいよ戦ですか!

  • 2012/03/17(土) 07:35:26 |
  • URL |
  • ななし3 #-
  • [ 編集 ]

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