ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・2

黒衣の章・2
「てめえは一応魔物の王だろう――がっ!?」

言葉の最後と、テーブルに剣が垂直に突き刺さる鈍い音とが、まさかの調和を見せた。
取り繕う努力を放棄したらしいジンは、剣を握ったそのままで私を睨みつけて威嚇する。
人の形を取った所で魔物の性は隠しきれないようである。
力の無い人間であれば、一にらみで心の臓を止めてしまいかねない程に先鋭な眼力だった。
とは言え私は魔王なので、慌てず騒がず、水の注がれたグラスに口をつけ。

「まあ、便宜上はな」
「こんな明白なもんに便宜もクソもあるか!!」
「おっと」

あっさり言ってのけると、別方向から煌めく何かが空を切った。
おもむろに片手を上げて止めてから、それが爪であると気付く。
これもまた、名立たる匠によって鍛えられた刃物とばかりに研ぎ澄まされており、確実に私の首へと軌道が設定されていた。
何度も言うが、私は魔王である。
それなりに人の形を取ってこそいるものの、身の丈は人間の一回も二周りも大きく、頭には巨大な角が一対、腕も獣のように太く、長く鋭利な黒い爪が生えている。
そしてジン同様、いや、自慢ではないのだがそれ以上に見てくれに劣らぬ実力を有している。
奴の猛攻を、食事のついでに戯れにあしらうことすら可能である程に。
そのことはジンも深く理解しているのだろう。何しろ私が即位する以前からの長い付き合いだ。
しばし一方的な睨み合いが続いたかと思えば、ジンは一つ舌打ちを零し、渋々といったていで両方の腕を降ろした。
敗者を尻眼に、依然持ったままでいたグラスを飲み干し、ゆっくりと息をつく私である。
それがさぞや気に障ったようで、ギロリとあからさまな殺気を宿す獣の目が三つ。

「ったく……てめえが即位して何年だ?」
「ふむ、十年程が経ったかな」
「ついにボケたかロートル魔王。百と六年だ。その間お前は何をしてきた? ニートに両足突っ込んで庭いじりしてただけだろうが。魔王が文官すらまともに務めねえでどうすんだ。いっそのこと寝首掻いて俺が魔王やんぞ、ああん?」
「…………」

矢継ぎ早に放たれる言葉を受け、思わず返答に窮する私であった。
私は魔王であるため、どのような存在にも力では屈しない自負がある。
ただ正論を用いた精神攻撃は苦手であった。何分私は繊細であるが故。

「ってーか、不満を感じてるのは俺だけじゃねえぞ。お前が全然魔王らしい仕事しねえもんだから、血気盛んな若い奴らとかはあんまし快く思ってないんだとよ。表立って『現魔王様は腰抜けだ』とまでは言わねえがな」
「ふむ……」

確かにジンが言うように、魔王たる私が世界を敵に回し歴史的大立ち回りを繰り広げたという記録は、今のところ皆無である。
私が即位した当時、散々に世界を引っ掻きまわした父上の統治に嫌気が差していた者が魔物の大半を占めており、侵略活動などはしばし休止とする私の姿勢は歓声を持って迎えられた。
ただその歓声は、近頃めっきり耳にしなくなっていた。

ジンには城の魔物の統率を一任している。
私に対する態度こそこのようなものだが、ジンは下の者には面倒見の良さを如何なく発揮し、大層な支持を集めているらしかった。
それこそ魔王なんぞより……とかねがね自らの求心力を鼻に掛け語っていたこいつが、敢えて私の立場を心から案じて(であって欲しい)言及するのだ。
これは案外面倒なことかも知れなかった。

私は自身の顎を撫で、中空に視線を留める。
何を見るでもなく、しいて言うなれば過去の景色を思い起こすのみであった。

あの争いの時代は、終わってしまった歴史でしかないのだろう。
百年という時は世界に蔓延る倦んだ空気を浄化し、陰惨な戦場を草原に変え、死者の個を失くし数字と成したということか。
戦いを知らない者がいるというのは幸せな事であるとは思うのだが、だからと言って求める方向に思考が流れるとはどうしたことか。
それが魔物の、全ての生き物の有する本能なのか。私にはとんと縁の薄い話である。

「少しずつとはいえ求心力が持たなくなってるっつーことは、やっぱまずいんじゃないっすかねーえ魔王様」
「そうだなあ……」
「つーわけで、いい加減まともな仕事をやってもらおうと思います。異論は認めません」

ジンが私に慣れぬ敬語を使うのは、決まって上から言い聞かせんとする時だ。
しかもそれは大概が無茶な注文で、今回もつまりは『魔王として恥ずかしくない日向での暗躍をしろ』という前代未聞のタブーであった。
苦々しい思いでじろりとジンの顔を睨み見ると、奴はもっともらしい笑みを浮かべて佇んでいた。
先程主を討とうとした者の顔とは思えない、清廉潔白な色である。
勿論、そのような色の思い通りに動くのは癪であった。
私は咳払いを一つ漏らし、神妙な面持ちを作る。

「しかし……私の父上、つまり先代の魔王は手広くやり過ぎたせいで人間に討たれたわけだ」

その反撃は、ジンに今日一番のしかめっ面を浮かべさせるには十分すぎるようであった。
ジンは何事かを口にしようとし、しかし結局何事も波風を立てることはなかった。
ただ黙して私の目をじっと見つめるだけだ。
私はそれを跳ね返さんばかりに力強く見つめ返す。

「だから私は、あの方と同じ轍は踏まぬ。静かに穏健にただ生きていくだけだ。魔王になったあの日に、そう決めた」
「ちっ……わーったよ。仕方ねえな」
「ああ、分かってくれたか」
「じゃあ下剋上の手始めにお前の園芸成果、燃やすから」
「待て待て待て」



こうして卑劣な罠にかかり、哀れ魔王は職務に励むこととなる。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

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