ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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王の章・33

王の章・33
踏み出した先は空だ。闇色の。


私は先行く背を見やる。
その背はふらふらと幽鬼のような足取りで、しかし目的の場所を目指していた。
小さいような、大きいような。
背は手を延ばせば掴めそうだ。私はそっと手を上げかける。
するとそれを察してかすっ、と背は私の間合いを外れて先を行く。私はまた手を下ろす。
指先はかじかみ握ることさえも億劫だった。
身に刺さる凍えた空気があちこちに住み着いている。
冷気の塊を踏みしだき、少しばかりの優越に浸る。
薄暗く冷えた回廊に、小雪のちらつく庭に、私と先行くジンの足音だけが響いている。
足音は空間を裂き、地に刺さり、そして留まり私をじっと伺っている。
嘲笑が、嘲弄が、揶揄が、侮蔑が、憐憫が。寒さに紛れてあちらこちらに潜んでいる。
私は冷気とそれらを踏みしだき、踏み砕き、足裏にこびりつかせながら行く。
降り積もるそれらが増すにつれ、私の士気は燃え上がる。
歪めた口の端から覗く歯は、きっとぬらりと光っていた。
そうして行き止まり。
先行くジンが立ち止まる。振り返って私を見つめる。私はこくりと頷いた。
ジンは黙したまま顎で示す。そこには重量感のある、黒い鉄造りの扉が私を待ち構えていた。

「んじゃまあ、頼みますぜ魔王様」
「うむ」

私は軽く笑みを浮かべたまま正面を向く。
ジンが扉を慎重に開き、それにつれて外の冷気が急速に内の空気を侵食し始める。ジンがまたも目で私に合図する。
私は纏う黒衣と、腰に下げた剣とを正し、揚々と一歩踏み出した。その先は空だ。闇色の。
私が出たのは城の正門を見下ろすバルコニーだ。
既にその場で控えていたヴァネッサが私に静かに頭を下げる。私はそれに軽く片手を上げて応えてやる。
そうしてぐるりと周りを見回し。

「く……は、ははは……」

哄笑だったのか、苦笑だったのか。
ともかく私はこみ上げるものを抑えきれず、髪を掻き上げひとしきり笑い声を漏らすのだった。
すっかり日も暮れ落ち、月が高々と浮かんでいる。
そしてその、城を取り巻く大地も空も、犇めく魔物達で埋め尽くされている。
魔物達はしん、と静まり返り私にあらゆる目を向けていた。
畏敬の目。奇異の目。疑惑の目。憎悪の目。
私はない交ぜとなったそれらの目を全て。漏らすことなく全て掬い上げ受け入れそうして生かすと決めていた。

「よくぞ!」

頬に笑みを貼り付けたまま、私は手を広げ、叫ぶ。

「よくぞ集まった皆のもの! 私は諸君らを歓迎する! 歓待しよう!! 諸君らを呼びつけたのは他でもない! 憎き人間どもに我らが怒りを知らしめる時が来た!」

私の口から調子よく滑り出す台詞に反し、魔物達はざわりとも揺れない。

「諸君らも周知の通りだ。私はあの国を地図の上から綺麗さっぱりと消し去ってしまいたい。住まう人間を一匹残らず刈り取って、城を落とし、王の首を掻っ切り、そして」

私はそこで一度言葉を切る。魔物達が息を呑む気配が私の皮膚を叩いた。

「だがそれには私の二本の腕では足りない。もっと、もっと絶対的な破壊を撒くためには多くの者が必要だ。だから私は貴様たちを使い尽くそう。辛酸を舐めた者も、屈辱に耐えた者も、そして私を疎む、怨む者でさえ。精魂尽き果てるまで私は諸君らと共に歩むと誓う! 魔王として! 諸君らを導くものとして!」

仕上げだ。私は喉よ潰れよとばかりに叫ぶ。

「我らが誇りを取り戻そうぞ!」

しん、と返って来るのは沈黙だった。
言いたいことは叫び尽くした。これでいい。これでいい。
にやにやとこみ上げる笑いをその場に残し、私は踵を返してジンの隣を擦り抜ける。
後は任せた。黙したままでそう託すとすれ違いざま、肩を一つばかり叩かれた。





「如何デシた?」

自室に戻った私を出迎えたのは、我が物顔で執務椅子に掛けるズィーベンだった。
机に積み上げられた書物の隙間から、ニヤニヤと厭な嗤いを覗かせている。
しっし、と払う仕草をすると、ズィーベンは「はイハい」とそこを退く。
そうしてどうぞ、と隣に立って指し示すのだ。
私はそれを無視して椅子にかけて足を組み、机に肘をついて目を瞑る。あからさまな拒絶である。
しかしそんな機微を察する神経など、この生ける屍には一片たりとおも残されてはいないらしい。
ズィーベンは何故かやたらと上機嫌であるらしく、私の肩に腕を回し耳元で喚くのだ。

「ダーかーラー、如何でシたッテ聞いテんだ。無視スんじャねエッすよ、モグリ魔王」
「ええい冷たい。寄るな」

狼藉にも程があるその腕をするりと外してはね除ける。
舌打ちし横目で睨む私に反し、ズィーベンは変わらぬ粘度の高い笑みを浮かべている。
鬱陶しい事この上ないが、長い付き合いで、多かれ少なかれの恩義もある。相手をしてやらねばなるまい。
私は再び目を瞑り、ぶっきらぼうに言ってのけるのだ。

「まあ、あんなものではないのか」
「ソウさネ。オレも別ンとコで見てマシたが、マ、アンなモんでゴざイマしョウよ」

ぐっぐ、と嗤う手下を横目に、私は大きく息を吐く。
決起を誓ったのが今から約ひと月前。
それから世界中に散らばった魔物達に召集をかけ、集まるのを今か今かと待っていた。
そうして集まった数、大小ひっくるめておおよそ二万。人と魔の戦いに際し、これほど頼もしい数もないだろう。
しかし奴らの反応は先の通りだ。私に対する敬意を持ち合わせている者など数えるほどもいないだろう。
予想通りの光景で、私は笑わずにはいられなかったというわけだ。しかし気落ちしていないわけでもなかった。

ある意味昨夜のように、私一人で砦や街を落としていった方が遥かに効率も良く、また妥当なのではないかと思われた。
ただしこんなことを言えばきっとジン他、極少数の私を王と認める者たちが口煩く諭しにかかるに違いない。
ぐっとそうした本心を包み隠し、私は机に積み上げられた一冊の書冊を手に取ってみる。
濃緑色をした表紙のそれは歳月の重みを指し示すように日に焼け、天の部分も少し黄ばんでいる。
表紙にタイトルらしきものは何もない。
書冊を弄びながら、私はため息交じりにぼやくのだ。

「仕方ないだろう……こんな馬鹿げた呼び出しであれだけの数が集まったのは、ジンやヴァネッサの尽力あってこそだ。私の顔馴染みなど、城に残る魔物たちのみ。そいつらなんぞ全体の極々一部だからな」
「だガそノ極々一部は、例外ナくアんタノ駒デアるこトを望ンでいルんデスぜ?」

オレがそうであるように、とズィーベンはニヤリと言ってのけるのだ。
「私もです」とさらりと言う声。振り返ればいつの間にかヴァネッサがそこに控えている。
全くどいつもこいつも。私はそれらに苦笑を向けるだけだった。

「そうだな、お前達さえいれば何とかなるだろうよ」
「勿論ですわ」

ヴァネッサは私の椅子の傍らに跪く。そうして私の手を取り甲に口付ける。
じっと私を見つめる二つの紅玉は、痛々しいほどに澄み切り、瞬いていた。

「私の命に代えてでも、貴方様がお望みの未来を築き上げましょう」
「そういう重い決意はいらん……だが、礼を言う」
「そんな。家臣として当然のことでございます」

ヴァネッサはにこりと邪気なく笑みを浮かべる。
彼女のこの、屈託のない強さに私はどれだけ救われてきたか。
気まずい思いを打ち消さんと、私はヴァネッサ達に背を向け椅子を立つ。書冊を胸に抱いたまま。
大きく切り取られた窓の大部分は黒で塗り潰されているのだが、窓枠には室内の光を受けて輝く雪が徐々に積り始めていた。
窓硝子に映る私は、ひどく嘲るような目で私自身を見つめている。
今宵受けたどんな魔物のものよりも、私の瞳はずっと暗く淀んでいて救われようがない。
だがその分、私の背後に控える二匹は敬愛の念をその目にそれぞれ浮かべていた。全く物好きな奴らである。
私は苦笑をこぼし、それをそっと胸の内に包み隠す。
出来うる限りの威厳を作り上げて振り返り、そうして一つばかり指を鳴らす。
机に埋もれていた一枚の巨大な羊皮紙が、羽を広げるようにして私たちの前に浮かび上がった。
人間が用いる、この世界の地図である。
描かれた大陸にはうねるような曲線が何本も引かれ、線に囲まれたそれぞれの領域には国の名が刻まれている。
ただし北に広がる魔王の大地は不可侵を示す白色で塗り潰されており、愛想のかけらもありはしない。
そこから視線を南の方角にずらす。山脈を越え砂漠を越え、ようやく目的の国の名前が目についた。
地図を見上げたそのままで、私は手下どもに指令を下す。

「さて、あんな大隊を無闇に持て余しておく理由もあるまい。早速明日にでも起つぞ」
「魔王様のお心のままに」
「御意っス」

私は静かにひとつ頷いた。
そうして地図に向き直る。
魔王城のあるはずの場所を指さして、私はその指を一直線に標的へと下ろすのだった。

「ここから真っ直ぐに王都を目指す。進路にぶつかる障害は何であれ見逃さない。見かけた人間は全て殺せ。ただし街や港、森などはあまり破壊しないようにな、後で我らがどのようにでも使うのだから」
「あ、ソうヤッて注文ツけんナラ死体は食イ散らカサネーよウにお達シ頼ミマす。じャネーとオレの出ル幕がなクなッチまウ」

「どコカのトカゲのセいデな」と、ヴァネッサを横目でにらむズィーベン。
昨夜私が砦を落とした際、ものの見事に死体が一つも残らなかったことを根に持っているらしい。
死霊術師としては綺麗さっぱり食らい尽くす竜の存在など目に余るものでしかないだろう。
しかしズィーベンも相手が悪い。ヴァネッサはその恨みがましい目にも動じることなく、くすりと笑ってかわす始末である。

「どのみちこれから貴方の手に余るほどの死体が積み上げられますよ。それに仕事ならあるじゃありませんか。魔王様の護衛、魔王様のお目付け役、それと魔王様の玩具の管理」
「あー……あレネ」

ヴァネッサの含みある笑みに、ズィーベンは一瞬だけ毒気を抜かれたようにして潰れていない方の目を丸くする。
そうして遠慮がちに、私にその目を向けるのだ。

「マジでヤるンスか?」
「勿論だ。何のためにお前に保管させていたと思っているんだ。さぞや面白い見世物になるだろう。期待しているぞ」
「ハア、オレも大概ダが、あンタもよッポど趣味ガ悪イネぇ」

最後ににまりと悪戯っぽく嗤うと、ズィーベンは大仰に肩を竦めてみせるのだった。
お前にだけは言われたくはない、とは思うのだが言葉に出すのも今さらだ。
私は無言のままで椅子に掛ける。
そうして抱えたままでいた書冊の背を撫でながら、私はぼんやりと父を想う。
父は名実ともに魔王の中の魔王であった。
恐怖を司り、偉大であり、そして私が越えるべき背。その果てしなさに私は溜息を禁じ得なかった。
これは父の日記である。
在りし日の父の思いが、父の文字で刻まれているのだ。
幾度となく紐解き読みこんだその内容を私は既に暗誦できるほどになっていた。
しかしそれが何だと言うのだろう。私は父とはまるで違う。

「我が敬愛する父上は、あの頃もっと回りくどい方法を取っていた。周りからじわじわと侵攻を進め、威圧をかけて疲弊を誘う」

私の言葉に、目を見合わせて複雑そうに頷く手下二匹。
それに私は不敵な笑みで返してやるのだ。

「そうした方策は私の性分ではない」
「ま、時間かけねーのは良策だと思うぜ?」

言葉と同時に、妙な重みがずしりと乗る。
ちらりと見上げればジンが我が物顔で、私の肩を肘付きとして使っていた。
私に忠誠を誓う奴らはどうしてこうも馴れ馴れしい。これまたしっしと追い払うのみだった。

「貴様の職務を忘れたか。早く魔物達を取りまとめて来い」
「ああ?  あいつらなら、こっから少し行った所に平原があるだろ。そこに留まっとくよう言っておいた。流石にこの城にゃ詰め込みきれねー数だからな。んでも早く起たなきゃ不満が出るんで、明日早速どうかと思うんだが」

ジンは高揚したかのようによく喋った。私の胡乱な目など微風にも感じていないのだろう。
私は溜息まじりに頭を振る。

「今……まさにその話をしていたところだ」
「ああそう? なんだ、お前もようやくその椅子に座る自覚が出てきたようだな、安心したわー」

そうして私の首に腕を回して締め上げつつ、背をバシバシと叩くのだ。手加減なしのじゃれつきに息が詰まった。
文句の一つでも上げようかとその顔を睨んだ時、ジンの細められた視線とぶつかった。
そこに滲む色は殉ずる覚悟が滲んでいると感じられた。
そのせいで、私は浮かんだ言葉を飲み込まざるを得なかった。
しかしすぐにその色はなりを潜めることになる。ジンはいつもの通りに嗜虐の笑みを浮かべて私を見るのだ。

「いいか。さっきの話だが、お前の親父さんはそういう方法が好きだったわけじゃねえよ。単なる鬱憤晴らしというか、八つ当たりっつーか。まあ言っちまえば馬鹿だったんだよ、うん」
「お口が悪いですよ」
「言ウ通リダとハ思うガナあ」
「……」

手下どもは我が父に対する毒に容赦ない。
まあそれもいた仕方ないことかと無理に納得し、私は古びた書冊の背を撫でる。
父の遺したこの日記には、あの頃の日々が刻まれている。そうして父の思いの全ても。
だから私は同じ轍を踏まない。
父を弔う、という意味合いはこの戦いに一部たりとも含まれていないからだ。
私は私のやり方で、未来を掴む。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

お久しぶりだよ!!!

>Bさん
ふははこちらこそ放置していたので痛み分けといったところだろうか!!!
そっちの話も完全放置ですみません。脳内にはあるんだ……脳内にはな……そのうちに形にしたい。゚(゚´Д`゚)゚。

>林田さん
絶好調ターン書くために戦争ものの勉強しようと躍起になっております!魔王書くの楽しい(*´∀`*)

>3さん
更新頻度をじわじわ戻して行きたいです!そんでもっと楽しんでもらえますように!

  • 2012/12/19(水) 23:56:49 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

読み直して来たら、短編と話がごっちゃになってた( ゜Д゜)
忘れる程間があk(ry

  • 2012/11/10(土) 17:20:15 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

コメントすんの忘れてたw( ゜Д゜)

いよいよ佳境ですね

こっちも気になるけど、別世界の某魔王の息子が召喚された後の話も気になるな('-ω・)チラチラ

  • 2012/10/27(土) 20:06:33 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

何度拝見させて頂いても

この魔王様に愛を捧てしまいます。
何方にとは申し上げません。魔王様。

  • 2012/10/20(土) 20:12:48 |
  • URL |
  • 林田じぇす太 #-
  • [ 編集 ]

更新みのがしてたー!
そして今章もwktk!!!

  • 2012/10/18(木) 10:23:27 |
  • URL |
  • ななし3 #-
  • [ 編集 ]

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