ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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短編【魔王と綴る】

ブラック/クロスロードのお試し短編として無料配布したものです。
初出:関西コミティア41
魔王、と言われて何を思い浮かべることだろう。
魔物の王、破滅を撒く者、殺戮を血飛沫を悲鳴を好み、あらゆる愉悦を追い求める存在。
もっと言えば単純に、恐ろしげな化け物。そうしたものを想像するのが当然だ。
例えばこんなものはどうだろう。
山羊を思わせる巨大な対の角。黒く塗り潰された瞳。青黒い肌。
枯れた巨木を思わせる腕。名立たる匠が叩き上げたような黒い爪。
人間の男が見上げるほどの巨体を屈め、それが口から鋭い牙をぬらりと覗かせ笑う。
どうだろう、恐ろしくはないだろうか。
魔王らしくはないだろうか。
生きとし生けるものは人も魔物も隔たりなく、一目見ただけで魂が摩耗されるほどに縮み上がるのはまず間違いない。
これぞ魔王の中の魔王。と言っても過言ではないと私は思う。
こんなものに好き好んで近付こうとする者など、世界広しといえどいるはずがない。
いていいはずもないのである。
だというのに。



「ねえねぇ!」

私の耳を、そんな声が貫いた。舌足らずな幼い声だ。
がくりと肩を落としかける私だが、堪えてちらりと声の方向に目をやった。
しかし何の姿も見当たらない。目線を床近くまで下げて、ようやく声の主を捉えることができた。
私の腰掛ける椅子の隣につっ立っているのは、人間の雌である。
それも長い金の髪を一つくくりにした、青い瞳を持つ小さな子供だ。
物思いに沈む私に、子供はひたすらに声をかけ続けていた。
これで幾度目になるだろうか。
数えることなどとうに放棄している。
私が一向に反応を見せないことに憤り、諦めるという賢い選択肢に思いも寄らないほどに子供は愚かであるらしい。
溜息を溢すのも癪だった。
私は由来不明の鬱憤を持て余し、子供から視線を外す。
そうして手元の書冊に再び意識を戻すのだった。

「なにしてるの?」

子供はなおも私に首を傾げる。
無視だ。無視。ここが肝心。正念場だ。

「なぁに?」

私は貴重な午後のひと時のため、ここで折れるわけにはいかなかった。無視を続ける私。

「まおーさん」

そんな私の膝に子供の顎が乗せられる。
誇らしげなはにかみと、精一杯の甘え。
窓の外に広がる曇天。
それに隠された太陽の代わりだ、とばかりに傲慢に、子供の笑みはやたらと煌き瞬くものだった。
こめかみに青筋が浮かぶのを感じる。
そう。子供が呼ぶ通り、私は魔王だ。
先述の通りに恐ろしげな外見をした、紛れもない化け物だ。
試しに子供の目の前に指をちらつかせてみる。
人間の肉など抵抗なく切り裂くことのできる鋭い爪。
しかしそれを見て、子供はぱぁっと顔を輝かせる。
そうして背伸びをして私の指に自身の頭を擦り付けうっとりと目を閉じる。
傍目から見れば、私が子供を撫でているように見えることだろう。
鬱陶しいことこの上なかった。

「いい加減にしろ……」
「きゃ」

子供の襟首を摘み上げ、膝の上に乗せる。
すると子供は言葉にならない鳴き声らしきものを漏らし、私の胸にしがみ付くのだった。
やれやれ。こうしていればまだ大人しい。
顔を埋めて甘えるくらいの狼藉は見逃してやろうと思う。私は心の広い魔王である。
開いたままでいた書冊に再び目を落とす。
読み進めるその間、申し訳程度に子供の背を軽く叩き、あやす真似事をしてみる。
このまま眠ってくれると御の字だった。
しかし子供は万事が万事私の期待を清涼に切り捨てるのだ。
もぞもぞと蠢いたかと思えば、私の顔を下方からじっと見つめてくる。
何かを切望する明るい青。
その視線に気付かぬふりをしてやるべきことを遂行する。
しかし私の目は滑りに滑り、同じ行を繰り返し辿り続けるだけだった。
子供の背を撫でる。撫でるその手もそぞろでぎこちない自覚があった。
しばしの痛い沈黙。
それを打ち破るのは、子供の小さな問いかけだった。

「なにしてるの?」
「……はあ」

私は諦めることにした。
書冊を閉じ、少し迷った末子供に手渡す。
子供はそれを丁重に受け取ると静かにぱらりとめくり始める。
汚すなよ、と一応ながらに声をかけ、私は子供をじろりと見下ろす。

「……その日記を、見返していた」
「にっき? なに?」
「その日あった出来事を書き記すものだ。毎夜つけている」
「へえー」

子供は私の言葉に、真面目くさった顔をしてこくりと頷いた。
日記をつけるのは魔王に即位するより前からの習慣だ。
一日一頁、その日その日を書き留めている。今子供の手に渡っているのは最も新しい書冊だった。
しばし子供はそれを調べていた。
そして満足したようだ。私の顔を見上げて書冊を差し出し、にこりと言う。

「よんで」
「何でだ」
「なんで?」

首を傾げる子供。
しかしすぐにはっと顔色を暗くして、俯いてしまうのだ。

「まだ……あんまり、もじはよめないから……」
「知っている。だがそうじゃない。そういうことじゃない」

子供の顎を摘み、無理やりに顔を上げさせる。
暗い色を宿した瞳を覗き込む。そうして傷つけないように注意して、指先で金の髪を梳く。
蜘蛛の糸のように細く柔らかな髪は私の指に絡みつき、ヴァネッサ辺りのメイドによって整えられた頭が次第に無残なものと化し始める。
それにつれ、子供の目には生力が戻り、最後には笑みが浮かぶようになる。
甘ったるいばかりでどろりと重い、蜂蜜にも似た笑みだった。
まったく単純なやつである。溜息をこぼしつつ、子供を抱き上げ目を合わせる。

「お前は名目上、私に攫われ虐げられている、非業の姫君というやつだろう」

所詮は贋物であるとはいえ。
首を傾げる子供。しかし私は地の底から響く声で。

「そんなものが私に指図をするな」
「さしず?」
「ともかく読んでやる気はない」

とどめとばかりにふん、と鼻で嗤ってやるのである。
子供はしばし目を瞬かせ、口をぽかんと開いたままで静止していた。
理解ができないのか、理解した上での沈黙なのか。
泣くなら泣け。好きなだけ喚くといい。
私がお前なんぞに心を動かされる理由などあるはずがない。
煩わしいと思えば、好きな時に屠殺することができる。
小さな頭はころころと潰れやすそうで、細い手足は簡単に捥げてしまいそうだ。肉も柔らかで骨も脆い。
おかげでその扱いに最新の注意を払わねばならない私の身にもなってみろ、と鬱憤を持て余していたところに声がかかる。

「じゃあね」
「……何だ」

明るい声に拍子抜けしていると、子供は熱意を込めて。

「エリシアがにっきしてあげる」
「は……あ?」

そんな言葉を吐くのだった。
どういう意味だ、と問う前に、子供がすらすらと語り出す。

「きのうはね、まおうさんとおにわであそんだの。それでね、ごはんはおさかなでね、おやつはいちごのケーキでね」
「……はあ」

子供が語るのは昨日という日々のあらましだ。
思い出した端から語るため、時系列もごちゃ混ぜで脈絡も何もあったものではない。
しかし耳を傾けている内、仔細に至るまできちんと記憶していることに気付き私はひっそりと感心しておく。

「きのうのきのうはね」
「一昨日」
「おととい? おとといはねー、まおうさんとおべんきょうして、あそんでズィーベンと」
「ああ。そうか」
「きゃあ」

子供の『日記』を遮って、抱きかかえたままで立ち上がる。
急用ができた。というよりも、そう。思い出した。

「庭の草花に水を遣る時間だ。行くぞ」
「まおうさんもにっきして?」
「……」

顔を見るまでもない。
子供は私を期待のこもった瞳で射抜いている。射止めている。
私はどうもその、空よりも深い青の瞳が苦手だった。
心の臓を飛び越えて、魂すらも見通すようなその色。今日は一段とそれが澄んでいるように見えた。
お前はそう言うが、日記と言っても私とて、お前が先ほど語ったようなことしか書いていないのだ。
お前と何をした、どんな言葉を交わしたか。
何しろこいつが城に連れ攫われてから今日に至るまで、ほぼ四六時中側についているのだ。
お前の他に、私が日記に書くことなどあるものか。
だからというわけでは決して──魔王としての矜恃を賭けてもいい。決して、そんなわけではないのだが。

「また今度……読んでやる」
「うん!」

言葉の上で約束し、庭を目指して腰を上げる。
エリシアは私の首に腕を回し、歓声を上げて抱きつく始末だった。
私は溜息を禁じ得ない。約束をいつ果たそう。
私はこうして今日の頁に刻むことを、また一つ見つけることができた。
 
 
 
 
 
 
私は古びた日記帳をぱたりと閉じた。
白い吐息がこぼれ出る。

私のこの頼りなき身を包むのは黒衣と凍える寒さだった。
薄く日に灼けた、深緑色の日記帳。歳月を感じさせるそれ。
私は日記を懐にしまいこんで剣を携え、眼前に広がる大地をしかと見据える。
そこは最早人と魔の戦場だ。
一方的な殺戮の舞台だった。
数多の人間が粗末な装備に身を包み、魔物に斬られ、貫かれ、喰われ怨嗟の叫びを上げている。
怒声に悲鳴。そこに耳触りのよい断末魔が混ざり合う。血と肉と灰の匂いが鼻腔を舐める。
遥か遠方では側近たるジンが哄笑を上げながら幾多もの屍を築き上げていた。
あいつはまた本分を忘れ、随分と楽しんでいるようである。呆れ返るほどに。
見上げれば燃えるように焼けた空が私の髪を血の色に染め上げる。
しかし暮れ行く東の裾野は既に鮮やかな濃紺色だった。
闇がこの世を覆う夜までに、この戦場を終わらせよう。それが私の礼節だった。

私はその喧騒に胸を熱くし、そっと目を閉じる。
あの日の温もりが側にない。
それが私の理由だった。
取り戻す。再びあの手を取ってみせる。
誰も私を止められない。止める者は全て斬る。
踏み潰す。鏖殺する。全て灰だ。塵だ。憎いのは全て。

「人だ……!」

私の中で燻り続けた火種がようやく爆ぜる時が来た。

「さあ人間共よ! この私! 魔王が貴様らと遊んでやろう!!」

黒の外套を翻し、魔王たる私がここに立つ。
あの日の約束を反故にはさせない。させるものか。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

>Bさん
更新通知するほどでもないかなーとこっそり更新ですw
はいいらっしゃいましたー!あんだけ長くやっちゃうと気付く人多いだろうなあと思います。次はもっとばれんようにやるよ!!
頑張りますのでどっちも楽しんで頂けると嬉しいです(*´∀`*)

>3さん
がんばる魔王(意味深)みたいな短編でした!
こういう短編書いてて楽しいのでまた書きたい(/∀\*)

  • 2013/01/14(月) 20:44:39 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

これは良い短編。がんばれまおーさま

  • 2013/01/13(日) 17:10:01 |
  • URL |
  • ななし3 #-
  • [ 編集 ]

見つけた~( ゜Д゜)

いつの間にか更新来てるし

ちなみに人喰いにコメントしたBも俺でしたw

あっちのラスト何となく見えたけど、もちろん黙ってますよ('-~-)
多分過去作見てなかったらわからなかったけどw

どっちも頑張ってくだされ

  • 2013/01/11(金) 15:54:09 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

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