ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

王の章・35

王の章・35
私はこれ見よがしにため息をついてみせる。
しかし傍らの腹心はびくりともしない。張り付いたような笑みを浮かべながら、私のことを見つめている。

「はあ……」

分かっているとも、と私は投げやりに言ってのけ、船尾楼まで歩く。続くヴァネッサ。
横付けにされた船からは、港も海もよく見渡せた。
まだ日中だというのに雲は厚く、一筋の光も差さない。
海と空の境すら曖昧な灰色だ。
耳に届く街からの喧騒を押しのけて、潮騒がざあざあとわめいている。
深く、深く、息を吸う。
潮臭い、むせ返るような熱した空気が臓腑を満たす。
不快だった。不愉快だった。
だからこそ私は不敵に嗤うのだ。

「ヴァネッサ。お前はひとっ飛び、海に逃げた船を殲滅して来るがいい」

配下を背中で感じながら、私は王らしく指示を下す。
しかしヴァネッサは「はあ」と気のない返答だ。

「魔王様はいかがなされるおつもりですか?」
「私は街の方を見てくるつもりだ」
「でしたら私が共に」
「その必要はない」
「まあ」

呆れたような、微笑ましいような。そんな相槌。
血と潮の入り混じった厭な臭気が鼻を突く。
しかし流れる空気はどこまでも安穏だった。背中に突き刺さるのは子守の視線。
格好がつかなくなって、私は船を降りるべく歩き出す。
べた、と不快な音。
足を向けた先に広がっていた血溜まりに、波が立つ。
幾度目かもわからないため息をまた一つ。

私が魔王として戦争の火蓋を落としてから、早くも十日が経とうとしていた。
これまで様々な村を焼いた。
街に攻め入った。
砦を落とした。
魔王城から王都に至るまでの進路において、あらゆる災禍を撒いてきた。
ただし私以外。私を除く魔物たちの所業である。
ジンは確かに言っていた。
『お前は後ろでふんぞり返っているだけでいい』と。
だが本当にそれを実行に移すとは思いもしなかった。
私は城での留守を言い付けられた。
ジンやその他の魔物たちを送り出し、帰りを待ち、そして戦況報告を聞く毎日。
王は確かにそうあるべきだろう。
だが私は魔王だ。
人と魔、その両者の前で強大な力を振るい、見せ付けなければ立場が危うい。
それがどうして留守番だ。
毎日メイドを相手に茶を飲み、生ける屍を相手にして鬱憤を募らせる魔王とは一体。
大体何でお前たちは毎日出陣して律儀に帰ってくる。
もっとこう、落とした砦に陣を張るとか大々的に進軍するとかあるだろうと意見を述べてみたものの、ジンに一笑で付されてしまった。
一つ、魔物たちが集え、尚且つ敵からの不意討ちを防げるような開けた土地がまだ手に入っていない。
一つ、魔物たちの中で私という魔王は大変に目立つ。万が一人間どもに狙い撃ちされては面倒だ。
一つ、名誉引きこもりを外に出して碌なことになるはずがない。
そうしたことを懇切丁寧に嫌味ったらしく説かれたあげく。

『慎重に行かなきゃなんねーのは、お前も分かるだろ』

そう締めくくられてしまえば、私は何も言えなくなる。
何も言わずに目を瞑り、言われるがままに城で待つ穀潰しに成り下がるしかなくなるのだ。
なので今回、その現状を打破すべく命を下した。



羽織る外套を引き寄せて、私は落ちたばかりの港を眺め見る。
深く湾入した海岸沿いに造られたこの港。
背面をなだらかな陸地に囲まれており、立地条件はまずまず。
港は国の物流の要となり、各国から幾隻もの商船と、それを護衛する軍船が集い、宿場町としても栄えていた。
ここを押えさえすれば、ジンの語る問題その一はクリアされる。
更には造船所までついていて、落とされるべくして存在しているポイントであるとも言えた。

一昨々日地図を広げて思索を練っていたところ、ぱっと目に入った文字。
私はそれを、いつかのどこかで見た覚えがあった。聞いた試しがあった。
ただそれはとても曖昧なものだった。
触れようとしても掴めない、冷えた朝霧のようなものだった。
どれだけ記憶を手繰っても、結局具体的な形として掘り起こすことがかなわなかった。
小さな違和感。しかし私はその場所が、まさに我らにうってつけの場所であると気付くことができた。違和感は気付かぬふりをした。
城から目指す王都までの進軍に、少々の回り道を要求した。
その結果が今日である。
実に半日とかからない、鮮やかで暴虐無慈悲な侵攻であった。
人間たちも程々に善戦したらしいが、我が軍勢にさしたる被害は出ていないと聞く。
ぐるりと船着場を見回して、動く影がないことを確認する。
私が任されたのはこの近辺のみである。
街の鎮圧も完了している頃だろうが、応援に行かない手はない。
海に背を向けて、街に踏み出そうとしたその時だ。
背後に控えるヴァネッサが、図ったように声をかけた。

「ですが、よくジン様が魔王様のご同行を認めてくださいましたね」
「うむ」

認める認めないの話ではないと思うのだが。
私は魔王なのだから。

「拳による会談の場を設けたかいがあったというものだ。丸一日かかったが、上々な収穫だろう」
「魔王様はもう少しスマートな交渉というものを学ぶべきですわね」

ころころと笑うヴァネッサだ。
お前を見ていて、真っ当な交渉という発想に至るわけがないだろうという言葉をぐっと飲み込む。
代わりに私は、しっしと手を振り促すだけだ。

「ほら、どうした。先の命令を聞いていなかったのか。早く行け」
「沖合は他の魔物たちが担当しております」
「最後の仕上げだ。撃ち漏らしがないように、見回って来い」
「……それは魔王としてのご命令ですか?」
「他に何がある」

沈黙は数秒。
波の音だけが響く中、ヴァネッサが私の名前を呼ぶ。
私はそれに「何だ」と返す。
ヴァネッサはくすり、と微笑み。

「くれぐれもお気を付け下さいませね」
「無論」

羽音と突風を残し、私を残して飛び立って行った。




街は悲惨なものだった。
半壊、全壊した建物があちこちに見られ、立ち上る砂埃や炎で息苦しい。
隅に転がる死骸はそのどれもが絶望の色を顔に貼り付けたままであった。
昨日までここは人間たちの生が満ちていた。
その栄華が見る影もない。実に小気味よいものである。
割れた石畳の街道を、一人歩く。
海から吹く風はどこか生ぬるく、静まり返った街に私の足音だけが空々しく響いた。
共のない道行きは気楽であり、空虚であった。
ぽつ、ぽつ。
頬を掠める水滴。ただ傘をさす従者がいない。
私はしかしそれでいいと思った。
石畳に刻まれ始める斑点模様を眺めながら、私は耳をそばだてる。
どこかに喧騒が落ちていないだろうか。私の舞台はないだろうか。

「魔王様ぁ!?」

しかし角を曲がった先で私を出迎えたのは、驚愕の声だった。
見れば何ということはない。魔物の集団だ。
肌の色や目の数、大きさなどに差はるがどれもが同じ巨人族。
メイスや鉄球といった思い思いの武器を血に染めて、私のことを目を丸くして見つめていた。
その中でもひときわ巨大な一体が、私の元に駆けてくる。
見知った顔だ。漆黒の肌に一つ目の。

「アイゼンか。何をしている」

私の言葉にアイゼンは相好を崩して頬をかいた。
そうして私の倍はあろうという背を屈め、私の顔をのぞく。

「そりゃこっちの台詞だっつーの……いや、魔王様の方こそ何を……あー、なされて、いらっしゃい……ます、のですか?」
「無理に敬語にならんでもよい」

苦笑してやると、アイゼンもまた笑った。
父上の代から城に仕える魔物である。
それほど位は高くないものの、ヴァネッサの舎弟という名の配下であるため私とは長らくの顔馴染みだ。

「どうだ調子は」
「すこぶる問題無いな。人間どもなんざ俺たちの敵じゃ」

アイゼンはそこで唐突に口を噤んだ。
何かに気付いたような苦い顔。
おや、と思う間もなくアイゼンは背後の同胞たちを振り返り叫ぶ。

「おいお前ら!!魔王様に挨拶はどうした!?」

顔を見合わせる魔物たち。
数拍遅れ、まばらな声が小さく上がった。
顔をしかめメイスを握る手に力を込めるアイゼンだが、それを私は手で制す。

「見ない者たちだな」
「ああ、俺の同族でな。世界各地から呼びつけてやったんだ」
「かたじけない」
「おっと、そんな殊勝なこと言えたんだな!ま、俺らは『魔王様のお役に立てて光栄です』ってところだ。気にすんな!」

がはは、と豪快に笑うアイゼン。
ざわざわと揺れる背後の魔物たち。
それぞれの反応に、私は憮然とした顔を崩しようがない。
とはいえ、仕方がないと言える。
私の顔など見たこともない魔物がほとんどで、来歴も来歴だ。
突然魔王として立ったとしても私自身に従う魔物はごくわずか。
ジンやヴァネッサ、それと城の魔物たちの尽力なしで、私は王座に触れることすらかなわない。
まあ、別に構うものか。私の目的は王ではない。

「それよりアイゼンよ。この辺りはもう片付いたのか?」
「あー……いや、大体は……な」
「何かあるのか?」

気まずそうに目を閉じ唸るアイゼン。
こいつは一言でいえば怪力馬鹿だ。大抵のことは笑い飛ばして叩き潰す。
そんなアイゼンが言い淀む問題とは一体何か。
気を揉んでいると、アイゼンの後ろから声がかかる。

「この先に人間どもが隠れてる建物があるんだ」
「なっ、お前たち!」
「族長よ、いいじゃねえですか。この方ぁ」

魔王様なんでしょう、と私を睨めつけニヤリと下卑た笑みをむけた。赤黒い肌をした巨人の一体だった。
いつの間にやら私アイゼンの背後にはその同胞たちが集っていて、どれもこれもが似通った笑みを浮かべている。
嫌悪、疑念、揶揄。そういったほの暗い色。
私には過ぎたものだ。
にっ、と笑い返してやると巨人は鼻白む。
私はそれを放って、アイゼンを睨む。

「お前族長だったのか。一族のまとめ役が城に篭りきりでどうするんだ」
「代理を立ててるんで構いやしねえし、魔王様にだけは言われたくねえよ。俺はトップに居座るより、姐御の下でせこせこ働く方が性に合うもんでね」
「お前も難儀な性格だな……で、お前たち」

アイゼン含めた魔物たちを、ぐるりと見回す。

「何故その人間どもを見逃している。一匹残らず殺せ」

ざわり、とアイゼンを除く魔物たちが揺れた。
アイゼンは複雑そうな顔をして、頭をかくだけだった。

「ジンの命令を聞いていなかったのか。何をやっているんだ何を」
「こ、殺して構わねえんですか?本当に?」

先の一体が私に怪訝な顔を向けている。
その目が語っていた。『だって魔王様は……』。
くだらない、と私はそれを吐き捨てる。

「当然だろう」
「ま……そういうこったな」

アイゼンが私の頭をぽんぽん、と叩く。
顔馴染みかつ身長差があるとはいえ、主にこの非礼はどういうことかと諌める前に、アイゼンは先ほど以上に大きな笑い声をあげる。
空気がびりびりと揺れ、半壊の建物が一棟倒壊した。

「魔王に存在を認められた人間は一匹だけで、その一匹以外は等しく無価値。そうだろう、俺らの魔王様」
「ま、それを人間というくくりにまとめてもらいたくはないのだがな」

私のぼやきに、アイゼンは控えめに苦笑する。
周囲の魔物たちは顔を見合わせるだけだった。

「で、どこだ。お前たちの職務怠慢の現場とやらは」
「一応言い訳しとくが、怠けてた結果じゃねえからな」
「?  どういうことだ」
「結界っすよ」

アイゼン、ではなく赤黒い巨人が声を絞り出すようにして言う。
目線で先を促すと、そいつは一つばかり神妙に頷き、立ち並ぶ建物の裏手を指差す。

「この裏路地を進んだところに教会っつー建物があるんだが、魔物除けの結界が張ってあって俺らは敷地に入れねえんすよ。なんかこう、ビリビリッときて力が抜けるっつーか……」
「なるほどなあ」
「一応ジン様に連絡をよこしたんで、その返答待ちなんだ」

アイゼンの補足に、私はうーんと唸る。
魔物除けを使う術師か。たしかに力押しを得意とする巨人族には少々厄介だろう。だが、こいつらは運がいい。

「おいそこの赤いお前。名は何という」
「……ファンゴだ」

赤黒い巨人、ファンゴは重々しく口を開く。
私は鷹揚に頷き、笑いかける。ファンゴは表情を硬くしたままだ。

「よし、ファンゴとやら案内しろ。アイゼンは同胞たちをまとめて待機だ」
「おいおい魔王様よ、勝手なことしていいのか?またジン様にどやされるぞ」
「なあに、もう慣れたことだ」

アイゼンのぼやきを背に、私はファンゴを伴って足を進める。
どうしてだか気分がいい。鼻歌混じりに歩く私に、ファンゴがぼそりと声をかける。

「お手並み拝見、といきましょうか。贋物様よ」
「おう、任せておくがいい」

下僕よ、と笑いかけるもファンゴは揶揄の笑みすら浮かべなかった。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

Re: ようやく

メールアドレスの方に返信させていただきました。ありがとうございました!頑張ります!

  • 2013/02/17(日) 14:45:48 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2013/02/10(日) 21:23:07 |
  • |
  • #
  • [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://maomesiuma.blog112.fc2.com/tb.php/39-567b74ce
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。