ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・3

黒衣の章・3
夜の帳は深と落ち、夜闇に蔓延るは魔の気配。

「はあ……」

そのような時間の中、魔の王たる私は今宵何度目とも分からぬ重い溜息を吐き出した。
部屋は私自身が生み出した鬱気で満たされており、その内に息を詰まらせてしまいそうな程である。
しかし私は溜息を止める術を未だ見つけ出すことが叶わずに、暗澹たる心中を吐き出すままになっていた。

「何と……面倒な……」

紙を繰る手は休めずに、字を追う目線も同じ速さ。ただし内容の把握は二の次だ。
あの後私なりに近しいメイド達や古参の魔物に総当たり、それとなく近頃の世論を聞き出してみた。
するとどうしたことだろうか。皆一様に目を逸らし、私の評判に関しては言葉を濁し引きつった微笑を浮かべたままで足早に立ち去ったのだ。
打ち合わせでもしていたのかお前達はと憤る前に、流石の私でも少々の危機感を覚える他ありえなかった。


確かに私は、真っ当な魔王としては失格だろう。それは認める。
むしろ失格であるように生きてきたのだから仕方がない。
しかし、それが他の物たちに怠惰と取られていたとは心外だ。
真っ当な魔王たる父上が一体何をして、世界をどのような事態に陥れたのか……それを知らぬ者達でもあるまいに。
何なのだろう。私は把握していないのだが、魔物が混沌を望まなければならないとする不文律でも存在するのだろうか。
何故私のような者が、模範的魔王としての在り様を望まれなければならないのか。
苛立ちは募り、されどそれをぶつける手段も方向も見当たらない。
とはいえぐだぐだと腐っていた所で、何かを為さねば地位が危うい。
魔王という肩書にそれほど未練があるわけでもないのだが、この魔王城は生きるのには格好の環境である。
三食昼寝付きで広い庭もある。今更易々手放せるものでもない。
つまり適度に魔王の仕事をこなしているように見え、その実ほぼ今まで通りの生活を保つ術を、私は探さなければならないのだ。
自分で自分を殺めてしまいたくなるくらいには、無茶な試練が課されてしまっている。
そういうわけなので、夜を徹して策を模索するべく自室に籠り始めてかれこれ数時間。

「ああ、糞。止めだ。止め」

結局ぽい、と手にした書を放り投げる私であった。
机の上はあらゆる書籍がぞんざいに積み上げられるままになっており、何に目を通し何に手を付けていないのだか、私自身にも把握不可能な惨状と化していた。
どの道、最早私に気力はないので二度と手を触れはしないだろう。
椅子の背もたれに体を預けると、ぎぃと軋んだ音が静寂に飲まれた。
耳に痛いはずの静けさも、慣れ親しんだ私にとっては心地良い調べである。
ずしりと重くなった瞼を閉じ、闇に親しみ私はぼやく。

「…………『魔王』……か」

私はこの暮らしを保ちたい。
何の変化も無く、ただ残った生を無為に摩耗するだけの生涯を終わりの日まで続けたい。
かといって、死にたいわけでもないのだ。
私はただ生きて生きて、生きるだけでいて、何の変化も迎えることなく……。
たったそれだけの願いすら、魔王となった私には分不相応なエゴとなってしまうのだろうか。
私の命など最早無用の長物でしかないというのに、誰もかれもが何を期待しているのやら。


私が吐き出した息もまた、すぐに静寂へと消えてしまう。
こうして端から徐々に徐々に、私という存在も闇に呑まれて尽きてしまうのだろう。
それは何とも愉快げで、待ち遠しい事態のようにも思われて私は一人にやりと笑う。
捨て鉢になっているのではない。私は元々世に倦んでいて、何も期待していないだけだ。
しかし目を開けばそこは変わりばえのしない自室であり、特別終わりの匂いは鼻をつかない。
当然のことではあるのだが、現実とは得てして無慈悲なものであった。

「はあ……しかし何か無いものか……」

頭を抱える私である。
どこかの国に攻め行ってみるか。しかし派手に先陣を切れと言われるだろう。大々的に表に立つのは私の性に合わない。
ならば地道に大国の中枢を腐らせ崩壊に導いてみるか。いや……長期戦も面倒だ。何よりこれはどのように動くべきなのか全く見当もつかない。『具体的に』と言われれば終いである。
全く、魔王とはどのように務め上げるものなのだろうか。己の欲望に忠実に行くべきなのだろうが、そうすると私の場合ただの穀潰しになるのでこれは通用しない。
手本とするべき父上は既に他界しているし、その他に魔王で知る顔といえばごく稀に現れる異界の魔王である。
しかし、あの全体的に灰色をした世にもおぞましい生き物に助言を請うくらいなら私は潔く命を断つ所存だ。
頼ったが最後、見返りに何を要求されるものだか考えるだに恐ろしい。

「……む」

八方塞となりかけた私だが、ふと机の隅――詰まれた本の中でもひときわ日に焼けた背表紙に目が止まった。
濃緑の分厚い本に、私は何の気はなしに手を伸ばす。書名は記されておらず、紙の具合から見てもかなりの年季が入った物である。
かといって丁重に扱われたようでもなく、単に古いだけで何の毒にも薬にもなり得ぬような装丁をしている。
書斎から書物を持ち運んだのは紛れもないこの私だが、内容もろくに見定めず目についたものを片っ端から選んだためかまるで心当たりがない。
まじまじと見つめたところで埒が明かず、私はふと表紙を捲り。

「……!?」

即座に閉じてしまった。神経質なまでに並ぶ文字に、嫌という程に心当たりがあったために。
何故このようなものがここに、という疑問には『書斎がろくに整理されぬ空間であるから』という事実で方が付く。
だが、何故よりにもよってこれを選んでしまったのだという疑念には、私自身も答える術がない。
私は額を抑え、見なかった事にしようと本を再び机に戻そうとし――

「……いや」

意を決し、再度ページをめくることにした。
ここにこれがあるという事実が、私に何か運命じみたものを感じさせたが故に。

「これは……使えるかもしれぬな」

ほくそ笑む私の独白に、闇が微笑んだ。気がした。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

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