ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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王の章・38

王の章・38
なればこそ。
私たる魔王は今、何を思う。


「見つけた」
「ひっ……!」

覗き込んだ女神像の裏手には、年若い修道女。
それが力なく腰を抜かしていた。歯を打ち鳴らし恐怖に歪んだ表情。
最早魔力も打ち止めと見える。辺りに蔓延る聖なる気配が、先ほどとはうって変わって弱々しい。
つまるところ、この局面は王手である。
私はその修道女を一も二もなく斬り捨てた。
短い悲鳴と血飛沫を上げて倒れ伏せ、あとはピクリとも動かない。
これでもう、懸念すべき事案はなくなった。
残りの潜んでいた者たちも観念したのか自棄を起こしたのは知らないが、次々飛び出してきては私の剣をわずかに汚した。欠伸交じりの猛攻に人間たちは切り結ぶ猶予もなく床に倒れ、あとはピクリとも動かない。

「ふう」
「……」

すべてが片付くまで、そう時間はかからなかった。
漆黒の騎士はそれを隣に突っ立ち見ているだけだった。
私がそうしろと命じた。そこにいろ、と。見ていろ、と。
すべてを終え、最後の一人の首を意味もなく切り落としているその間も、騎士は微動だにしない。
ただじっと、鎧兜の奥から私のことを見つめている。
それは大変に熱のこもった視線であった。
私は冷笑と鼻歌を禁じ得ない。
そんな穏やかな後始末をしている時だった。

「おおーい魔王様ぁ……」

伺うようなファンゴの声が、礼拝堂の外から聞こえてきたのだ。
私の加勢にでもやって来たのだろうが、さすがにあの巨体では扉をくぐれまい。
外に向けて、今行くと叫んだ。
一拍遅れて応えるのは、おずおずとした了承の声。
私は切り落としたばかりの首を髪をつかんで持ち上げる。
ずしりと左腕にくる重み。わずかな、人体の主要な一部を担っていたにしてはわずかな重みだ。
切断面からはぼたぼたと血が垂れ落ち、私の爪先に降り注いだ。
とはいえそれは些細なことだ。最早私の手はどうしようもなく汚れている。今更だった。

「く……はは」

やはり脆い。
人とはこうも脆いのだ。
白目を剥いた男の首は、怨嗟も吐かず、歌いもせず、ペラペラと益体のないことを喋り出したりすることはない。
人間とはそういうものだ。すぐに動きを止めてしまう。取るに足らない生物。それが人間。
私は城を出て、そうした事実を改めて知ることができた。この手をもってして。

「知ってはいたが……あっけないものだな、人とは」

だがそのような小さき生き物が、あろうことか魔王の心に取り入り、こうした事態を招いているのだ。
ヴァネッサの言葉ではないが、世の中上手くいかないものである。
そう呟いてから肩越しに振り返り、立ち尽くす騎士に首を放る。
騎士の眼前を一つの首が通過し、ひゅんと風を切る音。落下するものが二つ。騎士は棒立ちのままだ。微動だにしていない。かに見える。

「ふむ」

潰れることなく半分ずつになった首。断面から零れた液体が礼拝堂の床を更に汚した。
赤と黒と、黄色い脂の混じった液体。そこにプディングのようなぶよぶよとした欠片が浮いているのを見て、そういえば今朝から何も食べていないなあと空腹を覚えた。
欠片を狙って足を踏み出した。何の抵抗もなく潰されるそれ。
もう一歩進めば頭蓋骨の砕けるぱきりと軽快な音がして、ぐしゃりと心地よい感触が足の裏から伝わった。
私はその場で足踏みする。特別な意味はない。
べちゃべたべちゃと不愉快な足音だけが礼拝堂に響き渡る。
神の御前とやらでなんと罰当たりなのだろうかと胸が躍るも、周囲に死体がいくつも転がっているので手遅れすぎた。
その間も、騎士は微動だにしなかった。
微動だにせず私のことを見つめている。
鎧越しに伝わる動揺と、憎悪と、そして魂の悲鳴らしきもの。
それらは途方もない質量を有していて、私の肌を刺し肉にギスギスと染み渡った。
そうして、それらはほんの少しだけ、私の溜飲を下げるのに役立った。

「ふ……ふ……ふふ」

笑みを堪える必要もない。
私はアーサーを背に、女神像を改めて見上げる。
祭壇の上におわす彫像。慈母の笑みで瞳を閉じ、赤子を抱いた女神。
愛だとか、加護だとか、祝福だとか。
そうした座りの悪い単語がこの彫像を肴にし、幾度も説かれてきたのだろう。
それらを全て見下ろして、彫像は何を思うのか。何を人間に与えたのか。
否。否である。どうでもいいことだった。全ては今更で、手遅れであった。
私は思うのだ。金の髪の、哀れだった少女のことを。女神の腕から滑り落ち、魔王に拾われた幸運の少女のことを。

「貴様に取りこぼされていて、僥倖であったぞ」

私の言葉にも女神は同じ笑みを返すだけだった。



漆黒の騎士を引き連れ外に出た。
結界の気配が消えた敷地内は、土埃と煙(けぶ)る臭いで満ちている。冷え冷えとした空気が漂っていた。
ファンゴは居心地悪そうに周囲を見回していた。
しかし扉をくぐる私の姿を認めると、安堵らしき表情を浮かべるのだった。
しかしそれもすぐに取り払われる。

「……えらい格好ですね」
「そうか?」

血まみれで首を傾げる私を気味悪げに見つめていたファンゴだが、ふと私の背後に目を留める。
そして顔をしかめて警戒をあらわにするのだ。

「……何すか、この鎧」
「おお、よく気付いたな」
「そりゃまあ……」

言葉を濁すファンゴ。

「ズィーベンが操る人間だ。我が駒の一つで腕は」
「っ……ズィーベン様!?」

私の言葉を遮って、ファンゴが息を呑み叫ぶ。
台詞を邪魔されたところで私たる魔王は寛大だ。
気分を害されることはない。
目線で先を促すと、ファンゴはおののきながらも口を開く。

「あ、あんたあの屍爵を従えてるんすか……!?」
「ジンやヴァネッサ……アイゼン共々、従順なる下僕の一匹だが」

それがどうした、と言ってのけるとファンゴはヒィっと短い悲鳴を上げる。
どうやら私の挙げた名は、どれもこれも畏怖の対象のようなものであったらしい。
図体のわりに案外と小心者である。

「私は魔王だぞ?あいつらは従って当然だろう」
「族長のあの様子はマジだったが……ああ、いや、そうか」

ファンゴは手を打ってぽつりと一言。

「そういう傀儡か」
「目の前にそれがいて、よく口にできるものだな」

先ほどとはまた違った意味で頭が痛んだ。
城の下僕からの忠誠がかねがね足りないと思ってはいたが……やはり外でもこうなのか。
ジンのやつめ。上手くやるような口ぶりで担ぎ出しておきながらこれだ。末端まできっちり教育してもらわねば困るだろうに。
王という立場に欲はないが、これはどうもいかん。
そうだ、中の惨状でも覗かせてみよう。
さぞや私が本気であることを示せることだろう。
そう思い立ち、礼拝堂の中を指し示そうとした、その時だった。
冷えた気配がぞわりと生まれた。

「……オい」

ひどく陰気臭い声が私たちの足元から届いた。
その声にファンゴは射止められたかのように身を竦ませる。
ファンゴの足元。その巨大な影から、座礁した船のように一本の腕が生えている。
シュールがすぎる光景だ。怖気の走る絵面だった。
しかし私はなため息をつくだけだ。

「何だその登場の仕方は。見ろ。ファンゴが引いているだろう」
「アあ?」

影の水面からひょいっと頭が現れて、ファンゴを見上げるのだ。息すら忘れて凍りつく巨人。中々見れたものではない。
しかし頭、ズィーベンは何も意に介することなく、ケタケタと薄ら寒い笑い声を上げるのだった。

「巨人族ノ一匹かァ。大将のオ守リタあ、若造ニシちャ大任ダッたロう」
「は……恐縮、です」

背筋を伸ばし、震える声で答えるファンゴ。
魔王たる私に対する態度とは天と地も差があるような。
何だろう。釈然としない。
むう、と唸っていると頭がくるりと私の方を向き。

「マあ、何ハトもアれお疲レ様……」
「何問題はない。少々手間取ったがな」

ふん、と鼻を鳴らしてやると、ズィーベンは口を開いてぽかんと私の顔を凝視する。
ようやく私に正当な畏敬が回ってきたようだ。
得意になって胸を張ると同時、ズィーベンが素っ頓狂な声を上げる。

「チょッ……何ダそノ傷!?」
「あ?」

叫ぶや否や、ずるりと影から這い出てくるズィーベン。
何の事かと首を捻る私だ。しかしすぐに思い至る。
そっと頬に触れてみると、横一文字に浅い切り傷が刻まれていた。
すでに血は止まっている。些細すぎて痛みなど今の今まで気付かなかった。
むしろこいつ。様々な人間の返り血を浴びているというのに、よくもまあ私の、この程度の傷に気付けたものだ。

「ああこれか。先程少しヘマをして」
「馬鹿なコトホざクんじャねえ!!何デ放っタラかシてンダッて聞いテんだ!!まズ治せッテ言エよ世話ガ焼けル!!」
「すまんすまん」

かすり傷一つで大袈裟なやつである。
しかし眦(まなじり)を上げて激怒するズィーベンに、まともな反論など浮かぶはずもない。
馬鹿馬鹿しい以外の何物でもない。
適当に相槌を打っている間に、ズィーベンは回復の魔法を練り上げる。
それをファンゴはじっと見つめているのだ。
言葉なく立ち尽くしているのだった。
その目に塗り込められた奇怪な色。主たる源は如何なる感情であることか。
私はそれをぼんやりと計ろうとするのだが。

「ホラよッ!!」

そんな声と共に背中を叩かれてたたらを踏む。
気付けば頬に宿っていた疼痛(?)が消えている。渋々礼を言う前に。

「ソいヤァコいつハドうダッた?」

ずいっと顔を近付け、そんなことを聞いてくる。
浮かんでいるのは潰れた醜悪な笑みだ。子供のような無邪気さ。
そんなズィーベンが指し示すのは立ち尽くす黒の騎士である。

「問題はない」
「グッグッグ……」

そうかい、そうかい、とズィーベンは満足げに頷く。
私はそれに特別な思いを持つことがない。何しろ当然のことである。
しかしたまには賞辞を与えておくべきだろう。
口を開きかけるも、ズィーベンは私から顔をそらしファンゴにそのままの笑みを向ける。
短い悲鳴。しかしそんなものに構うような奴ではない。

「面白ェだロう、こイツが魔王様ニ刃向カっタ者ノ末路さ」
「は、はあ……」
「少シ前に城ニ忍び込ミやガッた人間デナぁ。腕ガ立ツカら殺サずコうシテ使ってヤッテるンダ。オレがチョいト本気出しャコんなモんヨ。無様ダろ?」
「そう……っすね」

ファンゴの生返事をよそに、べらべらと語り続けるズィーベン。
曰く、操る魔力の加減が難しいだの、何度も手足を千切れさせるものだから修繕が大変だの、構造を知るためわざわざ解体してから作り直しただの。
概ねほぼ毎日のように聞かされていた、苦労話に見せかけた玩具の自慢話である。
しかも微笑ましいほどに趣味が悪い。
そのせいで言葉を紡ぐにつれて空気に空々しい陰鬱さが蓄積されていく。
ファンゴが私にその一つ目を向け、言葉なく助けを求める。
私はそれを流すだけである。これみよがしに外套で顔の血を拭い、そ知らぬふりをする。

「ダがナァ、ソこノ大バカ……いヤ」

しかし突然そんな私に水が向く。
ズィーベンはちらりと私を睥睨する。そうしてやれやれと大仰に肩を竦めるのだ。

「大バカ大将タッてノご希望通リ、正気モ生命も綺麗さッパり保っタまンマナもノだカラ」

そこで言葉を切って、ズィーベンは無事な左目を閉じる。
陰鬱なもの。
魔の気配。
黒の騎士が纏う、黒の騎士を縛り付けるもの。
それらがじわり、と薄らぎ弱まり——

『ッッ……』

くぐもった逡巡の呻き。
しかしそれまで。それまでである。
黒の騎士は己を支配するズィーベン……ではなく、あらぬ方向に向けてたった一歩を踏み出した。
剣を抜くよりも、逃げ去るよりも。
そのたった一歩だけを選び、黒の騎士は再びその動きを止めるのだ。
小馬鹿にしたような笑い声が響く。ズィーベンである。
魔力による支配を戻し、開いた左目にえも言われぬ愉悦をたたえていた。

「コんナ感ジデ、ドれダケ支配を強めテも、ちョットでモ気を抜イたラこレダ。イヤー面倒臭イ面倒臭い」
「その割には楽しそうっすね……」

ファンゴのぼやきに、ニタァっと微笑むズィーベンだ。
心の臓の弱い者ならばそれだけで息絶えてしまいそうなほどに醜悪な笑み。
だが私はそれが嫌いではなかった。
相応しいとさえ思えてしまうのだ。
この辺が私の麻痺した部分であるなあ、としみじみ感じ入る間にズィーベンは更に熱っぽく弁を飛ばす。
ファンゴは最早辟易とした色を隠そうともしなかった。
すまんなファンゴ。そいつは面倒極まりないと思うのだが、しばしの相手を頼むぞ。
助け舟を放棄して、私は黒の騎士を見つめる。

「ふむ」

アーサー・ブラーヴ。
魔王に攫われしエリザベス姫を救うべく立ち上がった、勇気ある騎士である。
公式な記録では魔王城に赴き、そこで討ち死にしたとされているらしい。
ところが実際にはこうだ。我ら魔物の操り人形。無様で滑稽な駒。
肉体を苛まれ、同胞を斬り捨てる役を負い、たった一つ許された精神の自由にお前は何を思うのか。

「憐れよのう、勇者よ」

そう呼ばれるはずだった者。
お前は誤ってしまった。しかしそれ以上に誤った者がいる。
それはお前より先に逝った同士でも、国の仲間でもない。
お前はそれを理解している。理解させた。させ尽くした。そのはずだ。

「だが……それでもなお、諦めることを知らぬと見える」

私に向けたその一歩。
それはエリザベスに続かない。続かせる道理がない。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

受賞しました!あと更新しました!だとややこしいかと思いまして!よく気付かれましたね!このカシオミニを進呈しましょう!

  • 2013/04/14(日) 16:19:06 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

壁】ω・)。οО(またこっそり更新が…)

  • 2013/04/03(水) 14:20:49 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

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