ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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冒涜的な短編

触手な短編。
見た目は満点。
ただし用途が皆無であった。

うぞうぞと蠢くもの。それは何十本もの肉である。
人の腕ほどもある太さの、赤黒くて長い触手。
表面は粘液で覆われ、先端からは白濁した液体を吐き出し続けている。
天井から吊るされたランプの光を浴びてぬらぬらと輝き、緩慢に動き回り、ぬちゃぬちゃと嫌な音を立てている。
蛇のようではあるが、どれが頭でどれが尾であるかも分からない。
つながっているのか、一本一本が異なる個体であるのかも判別つかない。
そうしたものが部屋を埋め尽くさんばかりに満ちていた。
上になり下になり、押しのけ押しのけられ、触手たちは蠢き続けるだけである。
そこに知性の片鱗など見受けられず、渾沌としている。
そんな部屋の中央に、死体があった。
死体のようなボロボロの体を黒のローブで包んだ魔物。
彼、ズィーベンは胡座をかいてぼやくのだ。

「ドうしヨウ……」

彼がぽつりと呟いても、触手たちは何の意にも介さない。
ただ変わらず蠢くだけである。創造主の命令を、今か今かと待っている。
日が沈み、目覚めた。暇だった。
これらの魔物を生み出したのは、ただそれだけの理由だった。
それだけの理由で実験所に篭り、ご大層な魔方陣を描き上げて、貴重な魔法具を用意して、大仰で長い詠唱を謳い上げた。
それだけである。

「ドウしよウ……カナあ……」

生み出したことである程度暇は潰れたし、自分の腕に満足もした。
だから消し去ってしまってもいいのだが。
それはそれで勿体無いような気がした。
だからズィーベンは悩むのだ。
適当な村を襲わせてみるか。外出の許可を取らねばならず面倒くさい。
人間を攫ってきて壊させてみるか。人間を攫うところから面倒だ。
食うか。いやいや。
様々な用途が浮かんではツッコミを入れ、浮かんでは却下した。

「あいツに見セテ遊ブ…………ネーな」

一番浮かんではいけない用途が思いつき、首を振って追い出した。
いくらなんでもこんな物を見せて、驚く、程度で済むはずがない。
先日自分が死んだ時のように、わんわん大泣きされるのは御免である。
結局名案は出なかった。頭をかきながら、蠢く触手たちを眺める。
そろそろ何の命令もなしに放置されているそれらの動きが、所在なさげに見えてきた。
はーあ、とズィーベンはやや乱暴にため息をつく。

「仕方ネえナ……トリあえず、シバらクはここで飼っテ」
「あーそーぼー!」
「ウわアアあああああ!?」

ばぁん、と冗談のように背後の扉が開かれる。
そして嘘のように気楽な声で叫ばれた。予期しない声。
彼がそちらを振り返る前に、触手たちが一瞬だけ静止する。そして一斉に、そちらに向けて槍のように飛んだ。

「待ッっ……!?」

しかし遅かった。
彼が振り向いた時には、既にすべては終わっていた。

「…………」

扉のところに、異形の、黒の魔物が立っていた。
長い爪や瞳、角、あらゆるものが闇を凝縮したような漆黒で、見上げんばかりの巨体。
それが眦(まなじり)を極限まで釣り上げて、自身の爪と床とを睨んでいる。
その足元で、何本かの触手が肉片と化して散らばっていた。
幾度か痙攣し、肉の塊はそれ以上ピクリとも動かなくなる。
飛びつこうとした他の触手たちは近付こうとはせず、じりじりと下がっていった。

「おー」

それらを、黒の魔物の後ろで見守る者がいる。
先の声の主である。金の髪をした小さな子供。
魔物が蔓延るこの魔王城で、唯一の人間だ。名をエリシアという。
自分が襲われかけたなど夢にも思っていないようで、怯える素振りは欠片もない。
ズィーベンはほっと胸を撫で下ろす。エリシアに怪我でもあったら土下座で済まない。
そんなズィーベンの安堵をよそに、黒の魔物はずかずかと彼の元まで足を向ける。
そうして胸倉を摘み上げて言うのである。

「遺言は?」
「ネエっす、魔王様」

彼は無抵抗かつ真顔であった。
ちっ、とぞんざいに舌打ちし黒の魔物、ベルはズィーベンから手を放す。
どさっ、と軽い音を立てて尻餅をつく彼。いてて、と腰をさすると、隣から小さな手でつつかれた。
エリシアだ。

「ねーねー」
「お、オう……何ダ?」
「あれなあに?」
「…………」

キラキラと輝く笑顔で聞くエリシアだった。
ズィーベンは少しばかり迷い、口を開く。

「えーット……オレの作っタ魔物で……」
「ズィーベンがつくったの!?すごいねえ!」
「…………」

部屋の隅で固まり、縮こまり、ぐちょぐちょと怯えらしき動きをする肉の塊を、エリシアは興味津々とばかりに見つめている。
新しい玩具を見るかのような反応である。
予想外の展開に、ズィーベンは顔をしかめる。

「……何でオ前平気ナンだヨ」
「え?」

きょとん、と首を傾げるエリシア。そこに恐怖の感情は微塵もない。
ベルが呆れたように首を振る。

「魔物など私達で見慣れているからだろう」
「アー……ま、ソウっすね」

四六時中魔王の側にいて、ズィーベンのような死体もどきと親しむ少女に、触手などレベルが低すぎたというわけか。
それはそれでどうかとズィーベンは思うが、口には出さなかった。
エリシアは興奮したように触手を指差す。

「みみずみたい!」
「そうだな」

それを見下ろし、相槌を打つベル。平時通りのしかめっ面だが、幾分か眉根の皺が少ない。

「あのね、みみずはね、つちをたがやしてくれるんだよ」
「ほう、よく知っているな」
「そうだ!」
「む」
「あのね、おにわのバラのところで、かえば」
「それだけはやめてくれ」

窘めると、エリシアは「えー」と不満のような声を上げる。
どうやら自分としては素晴らしい思いつきであったよう。
ベルが大きなため息をつく。

「しかしズィーベン。お前は何をやっているんだ」
「イヤ……暇ツぶしデ出シてミタだケっす。マサか魔王様とエリシアが来ルとハ思っテまセンでしタ」
「こいつがお前と遊ぶと聞かなかったんだ。ところで……この触手ども、肉食ではないだろうな」
「バッチリ雑食でスが何カ。ほラ」

指差す先で、先ほどベルが引き裂いた触手の欠片を、その他の触手がこそこそと平らげていた。
まるで蕾が開くように先端部分が割れ、びっしりと並んだ小さい歯で肉を齧り取っていく。
見ていてあまり楽しい光景ではなかった。
ベルは思う様顔をしかめるが、しかしエリシアは歓喜の声を上げるのだ。

「すごーい!ぶわって!ぐわって!すごーい!」
「お前は肝が据わりすぎだ」
「ま、ソいツと魔王様を襲わナいヨウ命令シときマスね……」

ブツブツ、と呪文を紡ぐズィーベン。
するとすべての触手はぴくりと静止し、あとはまた勝手気ままに動き始めるのだった。
それにもまた歓声を上げるエリシアだ。保護者であるベルのことを目を輝かせて見上げる。

「みてきていい?いい?いい?」
「……触るなよ」
「はーい!」

元気良く返事をして、手近な触手のもとに走るエリシア。
やれやれ、と肩を竦めるベルだ。今だ座り込んだままのズィーベンに目を落とし、ため息混じりに言う。

「で、どうするつもりだ。こんな物を置いていても仕方がないぞ」
「サア……何カ使イ道ありマすカネ?」
「ジンにけしかけてみてはどうだ」
「えー。イヤっすヨ、一瞬デ粉々じゃナいッすカ」
「どうせ使い道がないなら構わんだろうに」

あれこれと使い道、というよりも処分の仕方について意見を交わす。
結局灰にするか、と結論が付きかけたその時、ひときわ高い歓声が二人の背後で上がる。

「わーいみてみてー!」
「何だエリ…………うわあああああああああ!?」
「ウ……わア…………」

この方が悲鳴を上げるなんて珍しいこともあるものだ、とズィーベンはぼんやりと思った。
振り返った先で、エリシアが絡みつかれていた。触手に。
四肢と腰とを触手に支えられ、ゆらゆらと緩い速度で上下運動を繰り返している。
髪も頬も服も、べったり粘液で汚れているが、そんなことには無頓着らしく満面の笑みできゃっきゃとはしゃいで遊ばれている。
ズィーベンがぼんやり見守っていると、また胸倉を掴んで持ち上げられた。
目の前には主君の必死の形相。そのままグラグラと揺さぶられる。

「どっ、どうにかしろ貴様!!」
「イやー、サッきかラ降ろセって命令しテるンでスガね、触手ドモがアいつヲ気に入ッたミタいデ放サねえンでスよ。魔王様直々に助ケてやっタラどうッすカ?」
「馬鹿を言え!私では怪我をさせてしまうかもしれんだろう!!エリシア!降りて来い!エリシア!!第一触るなと言っただろう!?」
「さきにさわってきたのは、このこたちだもん。もーちょっとあそぶー」
「エリシアああああ!?」

保護者の絶叫をにべもなくあしらい、きゃっきゃとはしゃぎ続けるエリシアだった。
しばし戦慄(わなな)いていたベル。どう手出ししようか迷いに迷い、やがて思い余ったように悲鳴を上げる。

「ヴァネッサ!ヴァネッサはいるか!?」
「諦メるノ早いっスネ」
「はいはいお呼びで……何の儀式ですか?」

ふらり、と現れたメイドは目の前の光景にあらあらと苦笑するだけだった。
他力本願極まる君主に白い目を向けるズィーベン。しかしベルはベルで縋り付くようにヴァネッサに懇願する。

「あいつを!どうにかしてくれ!!」
「はあ、それくらいどう、え、っきゃああああっ!?」
「ヴァネッサあああああああああ!?」

忍び寄っていた触手に気付かず、片足首を取られて引きずられるヴァネッサだった。
やすやすと天井近くまで逆さ吊りにされて、あられもないポーズになる。
なんとか両手でスカートを押さえて真っ赤な顔をしていて、日頃の勇ましく頼りになる彼女からは到底かけ離れた姿だった。
おかげで、そういえば女性だったと思い出す二名である。
ズィーベンが思い出したようにぽつりと呟く。

「アー……今来たばッカのアイつハ、襲うナッて言っテないカラなあ」
「の、呑気なことを言ってる場合か!?ヴァネッサ!?大丈夫かヴァネッサ!?」
「ちょ、ま、まっ……!?」
「ヴァネッサおねーちゃんもあそぶー?」

三者一様に混乱の渦に叩きこまれるも、エリシアは我関せずとほのぼのとヴァネッサに尋ねる。
拉致があかない。そう思い、ズィーベンはとりあえず下ろすよう命令を出そうとするのだが。

「…………いい加減になさい」

ぴし、とその時空気が凍った。触手たちが彫刻のように固まった。
冷えた声だった。空虚を煮詰めた音だった。
これまで長きに渡り生きてきて、散々な修羅場を経験し、幾度となく死に続けた中でも、最も死を意識した瞬間だったと、のちにズィーベンはそう証言する。
ヴァネッサを吊り上げていた触手が、そろそろと彼女を下ろす。
そうしてスカートを直し、髪を整え、エリシアを触手からそっと受け取る彼女。
ヴァネッサはベルにエリシアを託すと、にこりと微笑んで言う。

「少しの間廊下でお待ちいただけますか?」
「もうあそべないの?エリシアもっとあそんーー!」
「エリシア。今は何も言うな」

そして部屋の外で待つこと数分。
ヴァネッサが扉を開いて顔を出す。口元を白いハンカチで拭いながら、再度にこりと。

「お二人は勿論、わかっておりますよね?」
「おう……」
「ハーイ…………」
「あそぶの?」


無邪気なエリシアの問いかけに、誰も答える気力はなかったという。




「そんであいつらは掃除させられてると」
「うん」

わしゃわしゃ。
大浴場である。エリシアの髪を洗ってやりながら、ジンは言う。

「で、お前は何でべったべたのままで俺のとこに来たわけ?」
「ジンはあそんでくれるから!」
「遊ばねーよ。寝るんだよこれから」
「じゃあいっしょにねるー」
「へいへい。ご勝手にどうぞ姫様っと」
「ふぶっ」
「ほーれまだまだ流すぞー」

湯をかけられておかしな悲鳴を上げるエリシア。
それに追い打ちをかけながら、ジンはぼやく。

「しっかしあいつは何でも食うな」
「なにゅうむううー」
「何でもねえよ」

コメント

>Bさん
トカゲの旦那多いです地味に!何でも美味しくいただく健康体。

>マスタートンベリさん
力関係で言うと頂点に君臨している気がします!

  • 2013/08/02(金) 00:30:39 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

悪食?好き嫌いがなくていいね
流石俺の嫁w

  • 2013/06/11(火) 18:35:20 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

ヴァネッサ最強説浮上?(゜д゜)

  • 2013/06/05(水) 23:44:43 |
  • URL |
  • マスタートンベリ #-
  • [ 編集 ]

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