ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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王の章・39

王の章・39
ともあれアーサーなどに構っている暇はない。
用途がなければこんな玩具は放置に限る。

低い建物ばかりが密集しているためか、この教会からでも街の遠方の空は難なく見渡せた。
そろそろ陽も沈もうという頃合いだが、夕焼けの気配などまるでなく空は暗色を強めるだけである。
低い空に黒煙が幾筋も立ち上り、雲の厚みを増していく。
悠々と舞う飛竜や怪鳥の群。
しかしその内の一匹と目が合ったように錯覚した。
群を先導し旋回する一際巨大で銀色に煌めく竜。真紅の瞳。
それが細められたように思えて、思わず私は目を逸らす。

「……ところでズィーベン」
「何スか?」

無事な左目でぎょろりと私を睨めつけるズィーベン。
濁ったその目は抑えきれない喜色で満ちていた。私はそれに気付かぬふりをして、わざと横柄に訊ねる。

「戦況は如何なものか」
「ジンが領主の屋敷モ抑えマしタシ、今回のトコろはもうヤるコタぁアりマセんゼ」
「……あいつも励むなあ」
「当タり前デしョウ」

ようやく巡って来た舞台なんだから、とズィーベンは付け加えるようにしてぼやき、ぐっぐと喉の奥で笑ってみせる。
ファンゴがその一つ目を不快げに顰めるのを私は見逃さなかった。
そういえばこの場で二つ目は私だけか。何とはなしに疎外感を覚え、と同時に思い出すものが一つあった。

「そうだ、すまないがちょっと来てくれないか」
「ヘイへーい」
「はあ……」

ズィーベンを連れ立って、礼拝堂の中へと戻った。
扉をくぐることのできないファンゴは外から覗き込むだけである。
薄暗い建物の中は、相変わらずの死屍累々だ。
冷えた死者ばかりだというのに嫌な熱気が留まり続け、厭な臭気を一層強めている。
腐り始めた肉と淀んだ血だまり。
その苗床に蝿達がけたたましいほどの羽音を立てて群がっている。
そこかしこに散らばる死体を見て、ズィーベンとファンゴはそれぞれ感嘆らしき声を上げた。

「サッすガ魔王様だネぇ。ソウ思うダろお前ェも」
「……」

ズィーベンに水を向けられて、ファンゴは困ったように会釈を返すだけだった。
肯定とも否定ともつかないそれ。どちらであろうと構わなかった。
私は無言のまま、傍らに転がる一つを指差す。
傭兵の女である。私と一戦交えて気を失ったままだった。

「オ?何ダ、マぁだ息ガあルじゃネぇッすか」

物珍しげに言いながら、その女の頭を爪先で弱く蹴るズィーベン。
小さな呻き声が上がるも、目覚める気配はない。

「コの女ガドうかしタんスか?」
「お前が治癒した私の創傷」
「ハぁ」
「あれを付けたのがこの女だ」
「ハハぁ」

相槌を打ちながら、ズィーベンの視線はとある一箇所に釘付けとなっていた。
黒ずんだ血痕が飛び散る木製の床。
そこに私の髪が一つまみ散らばっている。
少ない光量の中でさえ、私のその色はやたらと映えて見えてしまう。

「ヨシ」

ズィーベンがおもむろに腰を下ろす。そうして女の頭上に手をかざし、ぽつりと。

「殺ソう」
「待て待て」

その首根っこを引っ張り、引き剥がした。
ズィーベンが不満げに眉を寄せ私を振り返る。
まあ言いたいことは分かるので、私はため息を禁じえなかった。

「ただ殺しても溜飲が下がらぬ。だから何かこう、上手い処分の仕方を考えろ」
「アー……ナルほド」
「はあ?」

ズィーベンは納得したように目を細めるも、ファンゴがおかしな声をもらす。
顔を顰めて私と女を交互に見つめ、結局この私に、侮蔑するような目を向ける。

「魔王を自称するくらいなら、独創的な拷問とか凄惨な使用方法とかぱぱっと出して下さいよ」
「グッぐっ……ウチの大将ハ、自分でモノを考エるッてこトを知ラねエカらなァ」

やれやれ、と肩を竦めるズィーベンだった。
大きなお世話である。むしろ下僕なら役立って見せてこそだろう。
そう思うにせよ、口には出さない。
水掛け論になるのは必至である。面倒臭い。
私が口を噤んでいる間に、ズィーベンは顎を撫でて思案する。
しばし考えて、おもむろにぽんと手を打つ。そしてファンゴの巨体を見上げて指を差す。

「オイお前」
「へ、へい」
「今日カらオレの配下ナ」
「はあ!?」

素っ頓狂な悲鳴を上げるファンゴ。
ズィーベンは意にも介さず、続けて女を指差す。

「んで、コノ女の飼育係」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!俺は族長に集められたんであって族長の許可なしでは」
「族長ッてアイゼンだロ?ナら問題ねェナ。アイつナら気安ク貸し出シテくれっダろ。ナぁ魔王様」
「うむ。渋ったところで、ヴァネッサを通せば一も二もなく了承するだろうな」

昔からアイゼンはヴァネッサに弱い。
むしろ絶対の服従を誓っていると言ってもいい。魔王たる私を二の次にして。

「今んトこロハ特に用途を思いツかネぇから生カしトくシカねェだロ。ンでモさ、オレはアーサーノ調整トかデ忙シイかラよォ。マあヨロしク頼ムわナ、下僕」

ファンゴの腕を気安く叩き、ズィーベンはやたらと喜色満面である。
一度相手に気を許すとどこまでも馴れ馴れしい。こいつの悪癖の本領発揮である。
おかげでファンゴは毒虫を口いっぱいに詰め込まれたかのような渋い顔だ。
困り果ててか、私に助けを求める始末。

「あんたもどうにか言ってくれよ!!俺この方なんか苦手なんだよ……!!」
「なに、しばらく共にいれば慣れる。私も昔はそうだった」
「イヤー。力仕事任セるアテがアルっテいいナぁ。ヨっと」

ズィーベンは片膝を立てて跪くと、黒のローブを腕まくりする。
露わになる傷だらけの腕。所々が壊死のためか濃緑色に傷んでいた。
見る者に不快感しか与え得ないようなそれ。とは言え私には見慣れたものである。
また傷が増えているような気がして、多少頭が痛くはあるが。
私は懸念をあらわに鼻を鳴らすも、ズィーベンは気にも止めなかった。
迷わず自身の影に腕を肘まで沈めてしまう。
ぐちゃり、とおおよそ木の床が立てないような不快な音が一つ響いた。
そのまま影の中をまさぐる。粘度の高い水音がしばし響いた。

「コれカ」

そう言って引きずり出されたその手には、無骨な鎖が握られていた。
私の腕ほどの太さがあるものの、全体が赤錆で覆われていてひどく脆弱にも見える。
ただ何らかの魔力が込められているようである。
黒色の炎のようなものが湧き出ては、一定の塊となってぼたぼたと床に落ちて黒い染みを刻んでいく。
ズィーベンはその鎖をファンゴに押し付ける。
ファンゴは渋々受け取るもあからさまその顔は不快の極みである。
こちらに矛先が向いてはいけないので、私は無言を貫いた。
ズィーベンは気に留めることもなく、転がる女を顎で示す。

「まズハそノ女、こレで縛っテ見張ッてオけ。オレは別ニやルコとがアるかラ」
「は、はあ……」

腑に落ちない様子だが、ファンゴは渋々頷いた。

「でも……この期に及んで何をするっつーんですか。もうここは制圧したんじゃ」
「ソりゃあ決マってンダロ」

そこでズィーベンは私に歪んだ笑みを向けるのだ。

「生キ残りを狩ルんダよ。ナぁ、魔王様」
「うむ」

私は一つ首肯した。


その後、私とズィーベンは別の建物の前に立っていた。
礼拝堂の裏手に位置する三階建ての建物だ。
こじんまりとしているが、煉瓦造りのそれは見る者に堅固な印象を与える。
窓という窓にはカーテンが引かれ、中の様子を窺い知ることはできない。
外は既に夜が満ちていた。
湿気った潮風に冷気が混ざり、雑草達の間を這うようにして蠕動(ぜんどう)している。
私は纏う外套を引き寄せ、傍らに立つズィーベンを見やる。
顔など無意味に晴れ晴れとしていて、起き上がったばかりの死体のような溌剌さが感じられた。
つまるところはやる気である。何故だ。

「しかし気付いていたんだな。まだ取りこぼしがあることを」
「魔王様ガ、コチらノ方角を妙ニ気にナサッてオリまシた故」
「そうか」

恭しく頭を下げるズィーベン。昔からそうだが、こいつの観察眼には恐れ入る。
私は建物の二階部分を見上げる。他と変わらず引かれた白いカーテン。
それが僅かに揺らめいているのを見てとって、私は口の端を持ち上げる。

「何匹いるかは分からんが、人間の子供だろう。先ほど少し見えた」
「へぇ!」

私の言葉に、ズィーベンは感極まったような声を上げる。

「イいネェ、餓鬼か。女ト餓鬼の死体は使イ道が色々あッて便利なンダよナぁ」

心底楽しげにニタニタと笑みをこぼす。
そこに血生臭いものを感じ取り、私は辟易するのである。様々な意味で。

「職務に対して熱心なのは何よりだがな」

私はため息混じりに首をすくめてみせる。

「抵抗を覚えたりはしないのか」
「何ガだ?」
「あれだけ人間の子供を愛玩していたお前だろうに」
「ハァ?」

ズィーベンが私の言葉にぎょっと目を剥く。
その目がありありと『お前が言うなよ』と物語るが、動じる私ではない。
素知らぬふりをして白い目で見てやれば、ズィーベンは呆(ほう)けたような間抜け面で見つめ返し、そして。

「……馬鹿ナコと抜カすんジャねェッスよ」

随分と気力の失せた様子で肩を落とすのだった。
あーあ、と投げやりに呻くズィーベン。
苛立ちを紛らわすかのように頭を掻きながら、私の鼻先に人差し指を突きつける。

「イいカ。オレにトッてノ特別は、エリ」

そこでハッと何かに気付いたように口を噤むズィーベン。
しばし気まずそうに虚空に視線を彷徨わせて、あーうーと羞恥らしきものを噛み殺していた。
結局私からわずかに目をそらし、それでも突き付けた指は下ろさなかった。

「と、トニかクだ。餓鬼ナんざドウだッて構ワなイ。くダラねェこトヲ聞かネぇでクレませンカね」
「分かった分かった」

面倒な奴だということが。

「ッてカ、抵抗云々ツーなラ魔王様ハどうなンダよ」
「私か?決まっているだろう」

ふん、と鼻を一つ鳴らしてみせ、私は。

「早く駆除を終わらせて飯にしたい。それだけだ」
「ソウかいソうカい。んジャまア、早ク終わラせマスか」
「ああ」

剣を携え踏み込んだ。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

ふえぇ……コメント返信遅くなってごめんなさいなの……><
いや失礼しました。こっそりひっそりやっております!
人間臭くやっていきますよ!滞りまくりですが!すみません!!!

  • 2013/11/04(月) 16:18:57 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

来てた~( ゜Д゜)

最近こっそり更新するんだからww( ´∀`)σ)Д`)

そして今回の魔王様やけに人間くさいな、何でだろう?(棒)

  • 2013/08/04(日) 20:36:08 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

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