ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・4

黒衣の章・4
「良い案が出たぞジン!」

嬉々としてそう宣告し、ノックも疎かに奴の部屋に踏み込んだ。

「……は?」

すると出迎えてくれる、剣呑な眼をした手下が一人である。
既に起きていると踏んでの行動ではあったのだが目は完全に据わっており、寝起きであることを包み隠す気などさらさら無いようで、寝台から腰を浮かす素振りすら見せない。
身支度は終えたものの、行動に出る気力が沸かずぼんやり朝を持て余していたといったところだろう。
朝が苦手なのは、昔からちっとも変っていないようだった。
時は朝日が昇り、ほんの少しが経過した頃合いだ。
少し霧が出ているためか窓からは十分な光は降り注がず、部屋の中は少し薄暗い。
あちらこちらに落ちた陰影は、謀り事の添え物としてはまずまずのものであると思われた。
何より私は昨夜から一睡もしていないので、陽の光は少々遠慮したいもの。
このまま早々用件を終わらせて、ぐっすり安眠を貪り堕ちたいのはやまやまではあるのだが。

「あー……えーっと、"案"……?」

しばし何かを逡巡した後、ジンは真顔でぼそりと呟く。

「昨日の今朝で何が出るっつーんだ」
「何だその面は。夜を徹し策を練った私に、労いの言葉は無いのか」
「そりゃお前……その案とやらを聞かないことには何ともなあ。一応聞いてやらん事はねえが、手短に頼むわ」

盛大に欠伸をし、はーあと気だるげに息を吐き出すジン。
まるで期待の念が見えないどころか、立場の上下がひっくり返ったかのような言い分だった。
平時の私であれば、苛立ち紛れに何か嫌味でも飛ばしていたかもしれない。
しかし、今日の私は一味も二味も違うのだ。魔王として一仕事終えた充足感で、私はどのような無礼も笑い飛ばせる気すらしていた。

「まあ聞け。どのような視点から見たところで、何の落ち度もない魔王らしい策だ」
「……空回らせるために脅したわけじゃねえんだけどなあ……まあいい。とっとと言えっての」
「ふっ……聞いて驚くな?」
「へいへい」

そう適当な相槌を打つと、ジンはとうとう寝台にごろりと横たわってしまう。
出来た魔王たる私でも流石に少々苛つき眉間が引きつる舐められようだが、こうしていられるのも今の内だと大目に見てやることにした。
何故なら私は魔王である。獲物を手の平の内で泳がせることくらい、造作もない。
第一こいつは、私の持ち出した策に恐れ慄き飛び上がることが最早確定してしまっているのだから。
私は口の端を笑みの形に歪めたまま、極めて尊大な態度を崩すことなく口弁を振るうこととする。

「案というのは他でもない。さる国の王族を根絶やしにするというものだ」
「へえ」

寝ころんだそのままで、ジンは僅かな揺らぎを瞳に宿し、こちらを一瞥する。

「それは一体どうしてだ?」
「その王族はな、今となってはほとんど知られていないようだが……代々、我ら魔物にとって少々厄介な能力を有しておるのだ」
「ほー。じゃあ是非とも現地に行って、せいぜい派手に暴れてもらいましょうか魔王様」

獰猛に笑うジンである。私は一旦、言葉に詰まる振りをする。
案の定、手早く実力を示し求心力を得るためには、私を前線に放り込むことが一番であるとでも思っているらしい。
それはそれで正論だが、引籠り歴の長い私が外での長期戦に我慢出来るとは到底思えない。
第一この城を離れれば誰があの庭の手入れをすると言うのだか。
つまりジンの思惑通りに動くのはご免であって、ここまでは私の予想通り。
次の展開に出るべく、にやりと笑うことで場を抑える。

「いや……それは最後の手段だ」
「あ? お前根絶やしにするつっただろうが」
「ゆくゆくは、そのつもりだがな」

私の言葉に、ジンはまるで意味が分からないといった顔で、不機嫌を顕わに唸るだけだ。
余計な口を挟もうとしない所を見ると、どうやらまともに興味を引かれたようだ。
そこに気を良くした私は人差し指をぴんと立て、悪巧みの本題に入るのだった。

「聞くところによると、その国王にはまだ幼い娘がいるらしい」
「で?」
「まずはそれを攫って来い」
「却下に決まってんだろボケが!!」

しかし本題はあっさりと、ジンの怒鳴り声によって圧殺されることとなった。
それよりも絶叫と共に、いつの間にやらジンは私の目の前で臨戦の構えを取ってさえいる。
焦りの滲む瞳は不自然なまでに鈍く光り始め、殺戮衝動が抑えきれないためにか戦慄く獣はあからさまな敵意を持って私に対峙していた。
意味が分からない。私はただ、真っ当な魔王として謀略を語っただけだと言うのに。
とりあえず私は両手を上げ、こちらに戦意はないのだと示してからたった一言。

「……何故だ」
「うるせえ黙れ! てめえ引籠りが長すぎて性癖歪みでもしたのか?! いくら魔王たって、んなことやりゃ他の魔物どころか俺だってドン引くわ気色悪ぃ!!」
「何をどのように勘違いしているかは、敢えて聞かないでいてやろう」

思わず生じた冤罪の頭痛が、私の思考をやや鈍らせることとなった。
脳裏に見知った顔が浮かびそうになり、唇を噛み締め何かに耐える私である。
しかし口を開かないままでいると、冤罪は持続しこの場で討たれる危険すらあった。
それは何としてでも避けたいので、私は死力を尽くして言葉を紡ぐ。

「まあ聞け……一人娘が攫われたとなればどうする。国王はどのような手を使っても取り戻そうとするだろう」
「ああ? まあ、そうなるだろうが」
「娘を人質に軍をおびき出し、それを潰す。繰り返せば繰り返すだけ、魔王の悪名は轟くことになるだろう」

ほう、と目を見張るジン。殺意の色がやや薄らいだ隙をつき、私は駄目押しとばかりに略案を繋げた。

「そうして疲弊した国を、折を見て叩けば終いだ。混乱に乗じて近隣の国を落としてみるのも良いだろう」
「……つまり何か。じわじわと混乱を育てていくって案か?」
「まあ、そういうことになるな」
「ふうん」

半ばどうでも良さそうな相槌を機に、ジンは私に背を向ける。
ぶつぶつと何事かを呟きながら、机に積まれた書類の束を確かな目的を持って漁り、新たな紙にごちゃごちゃとを書き記す。
どうやら私の案がどこまで実行可能であるのか、早速試算しているらしかった。
私はそれに無意味な茶々を入れることなく、大人しくその終わりを待つだけだ。
何しろ私が魔王の座に収まり続ける事が出来たのも、単に私が正当な魔王後継者であるという理由に加え、ジンの尽力による所が決して小さくはなかった。
こいつは口が悪い上に横柄な性格をしているものの、魔物としての実力は言うまでもなく、全体を見通し把握する能力に長けている。
在りし日は数多の魔物をその手腕を持ってして巧みに操り、実に鮮やかな勝利を収め続けていたのだとか。
私がこいつと知り合ったのは、命知らずな事に父上に盾突き遠い田舎の地に左遷された後であったため、ついぞその実力を戦場において目の当たりにした試しが無かったのだが、何しろ長い付き合いだ。
自身の雑務を片付けたその上で、私が積みに積んだ書類の山をあっさり片付けるジンを幾度となく目撃しており、そのお陰で私は気兼ねなく怠惰な日常を謳歌出来ていた。散々に罵られることをも含めた日常である。
指揮官としては申し分のない私の配下は、いつになく真剣に、しかし動乱の予感をせせら笑う。

「はっ。お前にしちゃ上出来じゃねえか」
「私を誰だと思っている。あの父上の後釜だぞ」
「……それもそうか。分かった、乗ってやるよ」
「助かる」

そして最後は意味ありげに、掛け値なくにやりと締めるジンであった。
それに対して私も同様の笑みを浮かべて返すのだった。

「んじゃー俺は早速準備に取り掛かるから、ちょっとばかし待っててくれねえか」

眠気も一片残らず飛んだらしいジンは、大きく伸びをしてそう言ってのける。
そして提案した私が面食らうのだった。策は思わぬやる気を引き出したようで少々嫌な予感はしたのだが、止めるのもおかしい話である。私は鷹揚に頷く。

「良い知らせを期待している」
「へいへい。そう焦りなさんな」

言い残し、ジンは私を残し足早に部屋から出ていった。
それを見送り、一人安堵の息を吐く私である。
亡き父上の日記からほぼ丸々拝借した案であり、私が単に出不精を拗らせただけの姑息な策ではあるものの、どうやら上手くいきそうだ。

姫を攫うことが失敗すればそれで終い。
成功したとしても、整えた軍がこの城に辿り着くまでには、少なく見積もって数ヶ月はかかるだろう。
その上あの国がどれほどの軍事力を備えていたとしても、姫にのみ国力を割いてなどいられないはず。
被害を被らない近隣諸国は見て見ぬ振りを決め込むに違いない。つまり一度に来る人間共などたかが知れた数だろう。
たまにやって来る少人数を適当にあしらうだけで私の名は広まり、平時は気ままな生活を続けることができる。
少しの労力で威権を示し、好きなように生きる。魔王とはかくあるべきなのかもしれない。
くっくと低い笑いも漏れるというものだ。私は上機嫌のまま、窓の外に広がる世界を仰ぎ見る。
すると霧はいつしか晴れてしまっていたようで、予期せぬ陽光が直接に視界を打った。
さっと手で覆いはしたものの、目眩みしばし私は立ちすくむ。


爽やかなはずのその光は、何故か私に嫌な予感を抱かせた。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

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