ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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王の章・40

王の章・40(グロ注意)
* * * * * *

『アぁ……?』

訝しげな声に顔を上げてみれば、そこにはズィーベンが立っていた。
少女はそれに『わあ!』と歓声をもって出迎えた。こんにちは、と小さく頭を下げたところで、しかし違和感に気付く。

『どうしておきてるの?おひるだよ?』
『……ちットばカし野暮用デな』

はァ、とため息をつきながらズィーベンは少女の前にしゃがみ込む。じろじろと少女を凝視したかと思えば、気の抜けたような声でぽつりと呟いた。

『……お前ハ、いッタイ何をシテイやガるん ダ』
『?』

廊下に続く扉を開け放ち、部屋と廊下の境目のちょうど手前。少女はそこにクッションを敷いて一人大人しく座っていた。廊下は少しばかり肌寒かったが、幸い耐えられないほどではなかった。
だから朝起きてからずっと、日が高く上る今時分になってもなお、ずっとずっと待っていられた。
通りがかる魔物は皆ギョッとして足早に立ち去っていくばかりで、少女に構うのはこれで二体目のことだった。少女は理由をはきはきと語る。

『あのね、魔王さんまってるの。もうすぐなの』
『……あトナんダ、こノ茶ノ用意ト【食うな】っツー張り紙は』
『ヴァネッサおねーちゃん』
『あイツもまッタク……』

止メろヨ……、とズィーベンはあからさま肩を落としてしまう。
少女は彼を慰めようと手を伸ばして……思い止まった。
勝手に外に出てはいけないと、あのお方から言いつけられていたからだ。ズィーベンは外にいる。
あのお方の言葉に背くことは、決して、何があっても、絶対に、許されない。だから少女は手を引っ込めて、おずおずと彼に尋ねるだけにとどめておく。

『げんきないの?』
『オレが元気ナ方がオカしイだロウが』

コの見テクレでよォ、とズィーベンは自嘲気味にニッと笑う。
相変わらず死体のような風貌だが、ズィーベンは死体ではなく生きている。だから元気がないのは悪いことだ。
そんなことを拙い言葉で少女は必死に説くのだが、ズィーベンはつまらなさそうに相槌を打つだけだった。ともあれ不快ではないようで、宥めるようにして少女の頭を幾度か撫でた。
そのうちにも、魔物が何体も通り過ぎた。その中にはジンの姿もあった。彼は顕著に渋い顔をして少女のことを見つめていたが、すぐその場を立ち去った。ズィーベンはそれに気付きもしなかった。

『とコろデオデ前、最近魔王様ト随分取り入ッてルみテェじャねーカ』
『え?』

唐突に、ズィーベンがそんなことを言う。少女が首を傾げると、彼はぐっと顔を近付けた。
痣と傷まみれの顔の中、唯一無事な彼の左目の中に、少女は自分の姿を見た。
金の髪に青い瞳。よく出来た人形のような顔立ち。少女はそれにさしたる感想を抱かなかった。
少女にズィーベンは語る。

『前にモ増シテ従順ッツーか、賢明ッつーカ、まルデ』

声をひそめて。

『オレたチ、魔物みテーだ』
『……ううん』

少女はゆっくりと、首を横に振る。
少女は人間だった。
少女は魔物ではなかった。
だから首を横に振り続けた。
ゆるゆる、ゆるゆる、ゆるゆる、と。
俯いたままで、首を横に振り続けた。

『チッ……』

ズィーベンの舌打ちを合図に、少女はピタリと動きを止める。おずおずと顔を上げる前に、頭を押さえ付けられる。そのまま両手でガサガサと掻き回す彼の両手に少女はされるがままでいた。

『おィ餓鬼。こレダケは言ッテおクぞ』
『なぁに?』
『オ前の傷ヲ治しテヤっていルノはコのオレだ』
『うん』
『ダカら、オレは折角治シたオ前が、また傷ムのハ厭ダ。プライドが許サネぇ。また治サなキャなンネーのモ面倒クセぇ』
『うん』

少女は下を向いたまま、彼の顔を見ることもなく頷いた。事実、彼のおかげで少女の肌に刻まれていた大小様々な傷は日が経つにつれて薄くなり、目立たなくなっていた。少女は彼に大変な恩義を感じていた。
そんな少女の耳に彼はそっと唇を寄せて囁く。

『ダから……お前ニ何カアッたラ、オレがドうニかシヨうジャねェカ』
『……?わかった』

彼の言葉に、少女は神妙に頷いた。言葉の意味を問うよりも、その時はそれが一番だと思えたからだ。
後々思い返してみてみれば、その言葉にさしたる意味はなかったのだろう。
ただ、彼はそれを守ってしまう。

『勘違イすルンジゃねーゾ。お前ハ魔王様ノお気に入リノ、たダの人間だ』
『うん』
『だカラこウ言ッてやッテんだ』
『うん』

ズィーベンは照れ隠しのつもりか早口に続ける。少女にとってそれらは当たり前のことだった。うんうんと頷いて聞くうちに、楽しくなってくるほどには。

『だカラ……約束ダ』
『約束なの?じゃあね』

少女はそっと自分の胸の前で左手の薬指を立ててみせる。ズィーベンはグッと息を詰まらせるようにしてせせら笑うと、同じように薬指を差し出した。
血の気の失せて黴(かび)枯れ木のようなその指に、少女は自分の小指を絡ませた。

『約束ね』
『約束ダ』

それはささやかな契約だった。



ズィーベンが立ち去ってしばらくしてから、あのお方が足早にやって来た。いつもの仏頂面に焦りの色を貼り付かせて、少女のことを覗き込む。

『あのな、エリシア。お前は魔王に攫われて、閉じ込められ、恐ろしい拷問を受けている真っ最中なんだぞ』
『う、うん』
『だったらもう少し魔王である私の事を、怖がってみせろ』

少女は名前を呼ばれて、顔が緩むのを止められなかった。
失礼なことだと思いながらも、自分の頬を撫でてくれる手にそっと触れて、甘い声を上げてしまった。
もう一方の手で頭をぐりぐりと撫で回されるのも、大変に、心の底から。

『こわいよ』
『は?』
『まおうさん、すっごくこわい』

恐ろしかった。
魂が凍える思いがした。
死を間近に感じることができた。

硬く冷え切った大きな手は、少女の頭蓋など容易く握り潰すことだろう。
長く黒い鋭利な爪は、少女の薄い皮膚を切り裂き、肉をすんなりと抉ることだろう。
真っ赤な口から覗く牙を少女に突き立てて、溢れ出る鮮血を啜り、骨も残さず食い尽くすことだろう。
冷たい目で見下ろして、最期の最後にきっと名前を読んでくれることだろう。

少女はそんな妄想を、妄念を、妄執を抱き、そして受け入れた。むしろ焦がれるようになっていた。
低く名前を呼ばれる度に、触れられる度に、その思いは強まるばかりだった。
それは信仰と言うべき確固たるものだった。
この服従は、肉も魂も差し出す覚悟を抱くほどのものだった。
胸を締め付ける甘い切なさは、幼い少女が知るはずのない恋にも似たものだった。

だから少女はそのお方に頭を撫でてもらって、微睡むように目を瞑るのが常だった。
いつでも、どうぞ、なんなりと。
貴方様のお好きなように遊んでください。
気の向いた時に是非、なるべく、楽しんでから壊してください。
それが私の望むことです。

そう、思うようになっていた。


* * * * * *


かくれんぼは得意なんだ。
そうズィーベンに言ってから、私は剣を携え建物の二階に向かった。
木製の階段は一段ごとにギシギシと耳障りな音を立て、私という招かれざる客へひっきりなしに抗議を行った。
それを聞き流しながら、ほどなくして二階にたどり着く。

狭い廊下を挟んだ両側の壁に左右それぞれ二枚ずつの扉、そして突き当たりにもまた一枚の扉。薄っぺらいそれらを前にして、私はふと手近な硝子窓へと目をやった。
時分は夕刻頃である。
茜色に染まるはずの空は分厚い雲が広がるばかりで、世界には夜闇が生まれ始めていた。ゴミゴミとした民家の向こうには、たなびく幾筋かの白煙が垣間見える。遥か遠くの方でかすかな地響きが聞こえてきた。相も変わらずの光景だ。
ただ、私が本当に見たかったのは窓の外の光景などではなく。

「…………ふん」

漆黒に染まりゆく硝子に写り込んだ、私自身の顔。
私は、私の顔が嫌いだった。
憎んでいると言っても過言ではない。
髪も、瞳も、顔立ちも、肌の色も、もっと言えば頭の先からつま先まで、魂の形色さえも、私が私の中で好いている部分など微塵たりとも存在しないのである。

醜く。
おぞましく。
下卑たる造形。

だから私は私の顔を嘲笑う。
心の底から、憎悪をもって微笑みかける。
人間どもの血で汚れた手で硝子窓に触れる。酸化し黒ずみ、粘り気の強くなった塊がべったりと貼り付いて、私の姿をほんの少しだけ不明瞭なものにしてくれた。

私は向かって右、二枚目の扉をそっと開いた。
扉の向こうはひどく狭い部屋だった。
右手には傷みの激しい二段ベッドが、左手には小さな机とクローゼットが置かれている。実にシンプルな内装である。家具はどれもこれもサイズが小さめで、子供が描いたとおぼしき落書きがあちらこちらに見受けられた。
獲物の姿は、どこにもない。
そこで、ほ、っと息を吐く。屋内だというのに吐息は白く曇り、底冷えのする空気が私の肌を刺した。
私は部屋に足を踏み入れる。ゆっくりと、それでも確かな足音を立て、剣にこびりついた血と脂を拭いながら。
ほんの数歩で私は壁にたどり着く。そこには一枚の硝子窓がはめ込まれていて、覗くと所在なさげに建物を見上げていたファンゴと目が合った。朗らかに手を振ってみせてやれば、ファンゴはあからさま顔をしかめた。

「さてと」

私は本来の目的を遂行することにした。
古びた木製の小さなクローゼット。
私はその前に立って、小さく二度ノックをする。こん、こん、と。
息を飲む小さな音が戸の隙間を縫って漏れ出した。恐怖の気配が膨れ上がり、ふいに弾けてしまいそうなほどに張り詰める。

「ああ」

私は自然と浮かぶ微笑みを、抑えることができなかった。
この場面。まるであの時。あの遭遇。絵としてほんの少しの差異こそあれど、私の脳裏には懐かしい光景がよぎる。
私は意を決して戸を開く。するとそこにはシーツの山に埋れて──

「うわあああああああああ!?」

ヒュッ!
私の眼前に細い光が迫った。鈍く輝く錆びた銀。
私はそれをほんの少し身を引くことでかわしてやる。
悲鳴を上げてクローゼットの中から転がり出てきたのは小さな人間だった。焦げ茶色の髪を短く切り揃え、質素な衣服に身を包んだ雄の子供。美しくも醜くもない、弱いだけの生き物だった。
子供は十分な刃渡りの刃物を震える両手で握りしめ、犬のように短い呼吸を漏らしていた。
そして私を凝視する。
どうして、何故、こんなことがあるのか。
おおよそそんな果てしない疑問をその瞳から読み取って、私はひどく気分を害されたのである。
鼻を鳴らしてやると、子供は私に刃物を向けたまま吠える。

「お前……!さっき教会から、出てきたやつだろ!俺はずっと見てたんだ!」
「それがどうした」
「シスターやお姉ちゃんたちをどうした!」
「殺した」

この私がな、と微笑み告げてやると、子供はぐっと息を詰まらせる。その目が非難めいた怒りを物語る。

「目障りだ」

だから私は剣をわざと緩慢な動作で振り上げる。まるで隙だらけの構えで、避けようと思えば子供にだって避けられるだろう。
案の定、子供は耳障りな悲鳴を上げて、私の側を駆け抜けようとするので。

ごっ。

振り下ろした剣……の柄でその頬を殴り飛ばす。
柔らかいばかりの肉の手応え。血飛沫が舞い上がり、子供は壁に叩きつけられる。そうしてうつ伏せで床に転がったまま、声にならない言葉で苦悶に喘いだ。
冷えきった部屋に、ほのかな鉄の臭いが立ち込めた。
私は剣を腰に差し、代わりに子供が取り落とした刃物を拾い上げる。
よくよく見ればそれは使い古された包丁で、所々刃も欠けており十分な武器となりうるとは到底思えなかった。切れ味も悪そうだが、破傷風くらいは起こせるだろうか。

「ぐっ、う……うぅ……」

しみじみと包丁を眺めていると、子供の声に嗚咽が混じり始める。
子供は体を丸めて頭を抱え、ガタガタと震えながら無様な命乞いを始めるのだった。

「い、いやだ!ご、ぉざ、ないで!」

私はその頭を掴み無理やりに体を起こさせる。尻餅をついたような格好で、子供は恐怖に顔を歪めてみせる。鼻と口からだらだらと血を流し、歯は欠け、口の端には薄紅色の泡が溜まってひどく見苦しい形相だった。
私はその首に、包丁の先端を突きつける。太い血管はわざと外しておく。
案の定皮膚がへこむばかりでそれだけでは傷一つつけられそうもない。ふむ、と少し考えてから少し力を込めて手前に引く。軽い手応えとともに皮膚が開き、ぷつぷつと血が滲み、滴となって垂れ落ちていった。
その間子供は自由な両手足で床を掻くばかりで抵抗することもない。「あ、ああ、あ、あ、ああ、あ」と意味をなさない声をあげて目を見開くばかりだった。その挙句、無様に股間を濡らしてしまう。じわじわと広がる水溜まりが、私の足元を汚した。

「汚いなあ……」

これだから子供は厭なんだ。私は包丁を左手に持ち替えて子供の……とりあえず手近なところでいいか。

「ぃぎゃああああああ!?」

右手の平に思いきり振り下ろした。どくどくと鮮血が溢れ出て、私はその血で、汚れた自分の足を拭うようにしてさらに汚した。尿よりはまだマシだと思えたからだ。
子供がやたらめったらに暴れたので、その顔面に拳を叩きつけた。べちゃりと湿った音と引きつったような悲鳴をあげてから、子供はげえげえと嘔吐した。それがまた癪に障ったのでまた何度か軽ぅく殴打して、ようやく子供は静かになった。

呼吸と痙攣で小さく動く子供の体は、庭の植物に集る芋虫のように見えた。
そういった虫の駆除も、私に与えられた仕事の一つだった。

突き刺さったままの包丁に再び手をかける。
骨に阻まれて床に縫い付けるほど深くは潜り込むことはなかったが、ぐりぐりと力を込めてやれば肉の千切れる感触とくぐもった悲鳴と共に、ほんの少しだけ刃は沈んだ。鮮血に濡れた肉の隙間から骨が見える。
抜いて刃渡りを確かめてみれば、赤黒い血と黄色く浮いた脂でぬめり、また刃こぼれも一層酷くなっていた。
もう本来の切るという用途では使えそうもない。だから私はその血と脂に塗れた包丁を、子供の鼻先に突きつける。
子供はうすぼんやりとした瞳で刃先を、そしてその向こうの私を見つめている。その目に疑問は最早僅かにも浮かぶことはなく、ただただ死を確信した薄暗い色があった。
私は笑みを浮かべる。
私は子供の右手に空いた風穴に、そっと指を差し入れてみる。
焼けるように熱を持った肉を、骨を、神経を、まさぐるようにしてかき混ぜる。
音を立てて中身を蹂躙した。
湧き上がる血が勢いを少し増し、子供はそれに伴って壊れた楽器のような悲鳴を上げていた。しかしふいに糸が切れたように白目を剥いてがっくりと首を垂れてしまった。

私は胸が高鳴るのを感じていた。
何の罪もない弱者を、弄ぶ。
楽しかった。
愉しかった。
誇らしかった。
私はやはり、こうあるべき者だった。
指に付着した血と脂を舐める。嘔吐(えず)くような生臭さが鼻を抜けた。

子供の頬を手加減して張り飛ばす。すると子供は弱々しく呻き声を上げ、眠たげに瞼を開いた。
意識の混濁が激しいようで、わざわざ気を回してもう一度傷口を弄ってやると、子供はぎゃあと小さな声で啼き、その目に微かな光が灯された。

「なあ子供。私は何者だと思う?」

壊れかけの子供に、私は戯れに尋ねてみる。

「……の」
「うん?」

耳を傾けて私はじ、っと子供の顔を見つめる。
恐怖に満ちた歪(いびつ)な顔で、子供は小さくつぶやいた。

「ば、ばけ……も……の」
「そうか」

それを聞き、私は心が満ちるのを感じた。
魔王には程遠い称号だが、私にとっては過ぎたる讃美の言葉であった。
だから私は子供に、私が考える最高の死を用意してやることにした。

突きつけていた包丁を遠くに放り投げて、かわりとばかりに横たわった子供の頭にそっと手を乗せる。びくり、と子供が身を竦ませる。しかし私は気にすることもなく、その頭を撫でてやる。じっくりと、慈しむように、その汚らしい髪に手の平の血を擦り付けた。
子供は固まったまま、ひゅう、ひゅうと短い吐息を漏らす。
しばし私と子供の間に平和な時間がゆるやかに流れ──。
階下から劈(つんざ)くような悲鳴が届いた。
そしてバタバタと騒がしい物音が幾つも響きわたり、すぐにまた元の静寂が訪れる。

「ふむ、下は片付いたようだな」
「あ……あぁぁ……」

子供が静かに咽び泣きを始めた。
階下に何匹潜んでいたかは知らないが、それらの始末はズィーベンに一任しておいた。子供の綺麗な骸が欲しいと言っていたので、さぞや丁重に片付けてくれたことだろう。
手下の仕事ぶりには感心するばかりである。

「それではこちらも終わらせようか」
「ひっ、ぐあ、あっ、!」

子供の頭に乗せた手に、私は少しの力を込める。私の手の平の中で、頭蓋骨がきしきしと軋んでいく。

「ぐっ、あっ、ぐっ、うっ、」
「この程度の力では軋むだけか。じゃあ、こう」
「い、いっっ、いぃぃぃぃぃ!」

指は子供の頭部にほんの少しずつだが沈んでいった。悲鳴に混じりぱきぱきと小さな亀裂音が私の耳朶をくすぐった。子供がわずかな力を振り絞り、床を掻き、床を蹴った。そのせいでうまく力が入らず、また子供の喚き声も耳障りで、辺りの悪臭が鼻を突き、私は苛立ちを覚え。

「たすたすけ」
「喚くな」
「へ」

我慢がならなくて、子供のうなじに剣を突き立てた。
一瞬だけ体を硬直させ、手足を痙攣させて、ごぼりと血を吐き、それっきり子供はうんともすんとも言わなくなる。
ああ、壊してしまった。
私はそこで力なく嘆息するだけだった。

「……私はただ、生きながらにして子供の頭を砕いてみたかっただけだというのに」

私はあの懐かしい思い出を、再現してみたいだけだというのに。
魔王の手に触れられて、壊れず残った者がいることを、私はもっと実感として掴みたかっただけだというのに。
そのために死ねる、栄誉を授けてやろうと思ったのに。
無為に殺してしまった。
己の短慮を反省する。
息耐えた死体を嬲る趣味はない。悲鳴を上げない肉など私は興味がない。
まあ、次またどこかで子供を壊す機会くらいあるだろう。そう、希望を持っていると。

「何ヤっテんスカ……」

振り向けば廊下に続く扉が開かれて、ズィーベンが呆れ顔で立っていた。私はそれを笑顔で出迎えた。

「なんとなく遊んでしまった」
「ナンとナく……デ使エナい死体増やスノ、やメてクレまスかネェ」

チッ、と舌打ちして、ズィーベンは私に手を差し伸べる。血の気の失せて黴(かび)のような痣の浮いたその手を、私は力一杯に握り返した。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

更新ご苦労様です!m(__)m

  • 2014/02/08(土) 13:17:41 |
  • URL |
  • マスタートンベリ #epd/jwlk
  • [ 編集 ]

me to( ゜Д゜)

そして相変わらずのツンデレズィーベンwww

  • 2014/01/29(水) 22:38:50 |
  • URL |
  • 名無しB #-
  • [ 編集 ]

た、たまたま開いたら…更新だと…!?
ありがとうございますw

  • 2014/01/28(火) 20:48:09 |
  • URL |
  • 通りすがり #R63KSl6.
  • [ 編集 ]

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