ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・5

黒衣の章・5
そして予感は的中し、その日の夕刻には事態が思わぬ着地を見せることとなる。

「ガキ攫って来たぞー」
「……は?」

昼寝が長引き、遅い夕餉にありつこうとしていた正にその時。
嬉々と何かをやり遂げた、実に爽快な顔をした闖入者が上記の宣言と共に現れた。
思わずナイフを落とす私であった。側付きのメイドが平然と替えのナイフを用意するのだが、対する私は目線での礼すら儘ならない。
まして侵入者の纏ういくつもの死が鼻をつき、食欲なんぞ瞬時に失せてしまっていた。
血の臭いを肴に食事を嗜むような倒錯的悪行は、魔王と言えどもご免被る。
目を見開き固まる私に注意を払うこともなく、ジンは今日一日の成果を淀みなく語ってのけるのだった。

「いやあ、何か話聞いたら面白くなっちまって。とっとと攫って来たんだわ!」

何がそんなに愉快なのかという疑問すらも撥ね退けて、ジンは上機嫌顔でその顛末を朗読する。
あれから一人城まで赴き、極力派手に暴れまわった。幸いなことに城では何かの祭典が行われており、広間には身綺麗な大勢の人間がいた。
そして王族は寄り固まり特に手厚く警護されていたため、どれが目的の姫だかはすぐに分かった。
向かってくる命知らずの兵士たちを引き裂いては踏み倒し、目に付く場所を大抵赤黒く染め上げてから、仕上げとばかりに姫を攫って帰って来た。
概ねそのような内容だった。

「ガキにゃ傷一つねえぜ。空いた部屋にぶち込んである」

そして変わらぬ調子で最後に言ってのけるのは、仕上げの報告である。
悪意に歪んだ壮絶な笑みは、いっそもう清々しさすら感じられた。
無論黙り込む私である。恐らく建前上は仕事の早い手下に少々の労いを与えるべきであるのだろうが、そこまで道化を演じる事など出来ず、ただただ出来た手下を睨み付けるだけであった。
魔王の眼光をもろに浴びながらも、ジンは臆することもない。むしろ優位に立ち過ぎていて、私の姿が豆粒ほどに見えていそうな気迫を醸し出していた。
ジンはそのまま卓上のアイスバケットから冷えたボトルを引っ掴むと、直接中の朱を煽る。
百年物の上等な液体も、はーっと満足げな吐息を零すジンにとっては安酒となんら変わりないものであるようだ。
今日一日流した血に思いを馳せるようでもなく、気軽な調子で更に一口二口と中身を消費し続けた。
品位のカケラも見られないその行為に、メイドは眉を顰め……るかと思いきや、あらまあといった柔らかな苦笑を浮かべるだけであった。
彼女も流石は私付きと言うべきか、何もかもの例外に慣れきっているようだ。実に嘆かわしいことである。
割増しで剣呑な目線を送る私に気付いてか、ジンはますます相好を崩す。
僅かに赤みの差した顔色は、酒のせいだか仕事に対する興奮のせいだか判別はつかない。
しかしとにもかくにも、私の危機感を増長させるには至るのだった。
思わず私は目を逸らす。しかしそのような抵抗でどうにかなる敵でもない。
ジンは構うことなく私のすぐ隣に立ち、そうかと思えば恭しく跪いた。そして誠心誠意の敬意を込めて。

「これでまあ、とっとと魔王様に仕事して頂けると思うんですよねえ」

にたり、と片頬に意地の悪さを滲ませながら言うのだった。
つまり何もかも私の企みはお見通しというわけか。
無意味に時間を稼がせる気も、怠けさせる気もさらさら無いという。

「は……はは。出来た部下だな。死ね」
「いっやー光栄ですねえ魔王様!」

頭を抱えた魔王の呪詛も、最早酔いどれとなったこいつには無効である。
不格好な忠臣の振りもすぐに飽きたらしく、はははと壊れた笑い声を上げながら二本目のボトルを開けている。
空いた方はメイドに押し付け、実に良い身分である。と言うか、酔いたいのは私の方だと言うのに先程から一滴たりとも口に出来てはいない。
注いでくれるはずのメイドはジンにグラスを勧める仕事に勤しんでおり、本業は二の次どころか念頭にすらないようだ。
仕方なく、私は残った最後の一本を開ける。
ソムリエ・ナイフなどといったまどろっこしい物は使っていられないので、直にボトルの口付近を千切る。
恐らく規格外に下品な作法だろうが、苦言を呈する者などこの場にいるはずもないので知らぬ振りだ。
そのまま口を付けると酸味と苦みと、そして僅かな甘さが喉を潤した。
今ならこの一口で酔い潰れることすら出来そうなほどには私は現実から逃げ出したい。

(いやいや……しかしすぐにどうにかなる案件でもないだろう)

ジンがどれ程事を上手く運んだ所で、人間の足でこの魔王城に辿り着くまで数ヶ月を要することは覆しようのない事実である。
前提として、私はここで人間共を出迎え叩き潰し、徐々に国力を削ぐことを目的としている。
そのためまだ私には、気ままに暮らすだけの猶予があるはずで……。

「っつーわけで、あのガキの世話はお前の仕事だから」
「は!?」
「まあ」

そんな幸せな人生計画を打ち崩したのは、それまで沈黙を貫いていたメイドですら声を上げる、とんでもない発案だった。
しかしジンは相変わらずボトルと愛を育んでいて、メイドは口元に手を当て朗らかに苦笑うだけである。つまり魔王のみが窮地の最奥。
聞き間違いやら空耳などでは決してないようで、私の抗議の叫びを二人はちらりと目配せすることで黙殺した。何だろうこの扱いは。理不尽極まりないと憤慨する、それよりも、だ。

「ちょっと待て! 魔王に子守をさせるつもりかお前は!?」

椅子を蹴倒すようにして詰め寄るのだが、ジンの表情を崩すことは叶わなかった。

「だって俺ら手下は人間を迎え撃つ準備とかに忙しいですし。人質ってこたぁ、殺しちゃまずいんだろ。計画立案者なら、せいぜい前提くらいは整えてくれねえとな」

平然と、まるで用意してあったかのような回答を述べるジンである。
確かに理には叶っているかもしれない。ただでさえ他の者は平時の仕事があり、その上に迎撃の準備を行うとなれば人間一匹に気を払う余裕など皆無となるだろう。
ならばそのように手の掛る人質などいっそ殺してしまっても構わないのではないかという考えが鎌首をもたげるが、死者のために生者が急く理由は無いのだ。
生きた人質がいるだけで、人間共のモチベーションは天地の差を生むことだろう。
ならば計画立案者であり最も城で時間を持て余しているこの私が、人質の飼育を任されることは最良の道であると思われた。
ただし問題は私の職業が魔王であり、その光景は確実にシュールなものになるということで。

「いやしかし待て。私は魔王であって、城で最も偉」
「なあ、ヴァネッサもいい考えだと思うだろ?」
「え……そうですね」
「露骨に無視するでないわ!!」

気楽な調子でジンが同意を求めたのは、勿論傍らに立つメイドであった。
急に話を振られ彼女は私の顔をちらりと見、そのままうーんと困り顔を浮かべて唸るのだった。
まあ無理もないだろう。魔王に子守を押し付けるなど不敬罪も良いところだ。
即時頭と首が分離しても文句が言えない次元であり、彼女もどう窘めようかと言葉を選んでいるに違いない。
それ見たことかと、少々気分が良くなる私であった。
ややあって、彼女も覚悟を決めたようだった。おずおずと口を開き、しかしジンに向かってはっきりと。

「魔王様は花の手入れなどもお上手ですし……人間の世話もそつなくこなされるのではないでしょうか。それに」
「それに?」
「たまには勤労の重みを知るべきだと思います」

言い放つ最後は毒の滲んだ美しい微笑みであった。
私は盛大に肩を落とす他無い。

「お前達……なあ」
「そういうわけだから。それ飲んだら、とっとと生きてるかどうか確認して来い」
「頑張って下さいませ魔王様」
「…………」

自棄酒とばかりに二口目を服する私だが、案外舌は先程と変わらぬ味を認識したので脳は死んではいないらしかった。
ただし権威や地位、誇りなど、数多くのものは確実に息絶えていた。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

Re:

大丈夫だこれから怒涛のロリコンタイムだから問題ない( ´∀`)b

  • 2011/01/12(水) 01:07:40 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

メイドさん可愛い!ジンかっこいい!


え?…… 魔王? あぁ、うん、まぁ、ねぇ?

  • 2011/01/11(火) 15:14:44 |
  • URL |
  • 水無月 #-
  • [ 編集 ]

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