ブラック/クロスロード

魔王「今日も平和だ飯がうまい」の小説版。グロ注意。

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黒衣の章・7

黒衣の章・7
そして次の朝である。

「さてと、生きているかな」

私は早めに起き出して、件の扉を叩いていた。
何しろ今日から中庭の植物に加えて子供一匹の面倒まで見なければならないのだ。
手の掛からない方を先に片付けて、後はじっくり一日中花の剪定でもしていようと決めていた。
何度かノックをしたのだが、やはり中から返事はなかった。
まあ子供の置かれた立場からしてみれば早朝鳴らされる扉など恐怖の対象でしかないだろうし、当然と言えば当然である。
ましてこのような早朝では未だ眠っていたとしても不思議ではない。
食事は三食与えるようヴァネッサに言ってあるので、そうであれば放置しておいても構わないだろう。
食事と言えば、かく言う私も起きてから何も口にしていない。生存の確認が終わればゆっくりと朝食を取りたいものだ。
昨夜とは異なり、気軽な気持ちで扉を開く私であった。そのせいで今日一日が潰されてしまうとも知らず。



「ひぐ……うぅ……え、う」

子供が寝台の上で丸くなり、小さく嗚咽を漏らしていた。
まあそれはそれ、拐われてきた身としては正しい行動であるため特に気にすべきものでもない。
ただ昨日の姿のまま少々薄汚いため、後で風呂にでも行かせる必要があるかと思う程度である。
ただし部屋の中、全く別の点は私の目を捉えて離さなかった。まさかとは思ったのだが足早に歩み寄り見ると、テーブルに乗せられた食事(恐らく昨夜持って来させたものだろう)は少したりとも手が付けられてはいなかった。
主菜にかかったソースは美しい模様を描いたまま、その軌跡は決して乱されることなく、食器も整然と並んだままである。
腹を空かせていたはずであるのにも関わらず。

「お前!全く食っていないではないか!」
「ひ」

いつしか私に気付き、不安げにこちらを見つめていた子供に思わず怒鳴り付けてしまった。
すると少しの間を開けてから、先程よりも激しく泣き始める子供である。
わんわんと堰を切ったかのように止めどなく叫び涙を流す子供は酷く目障りで、いっそ……と思わなくもなかった。
しかし僅かに残る理性でどうにかその衝動を抑え込み、私は事態の収集に乗り出すのである。
何しろこいつの存在が、私の平和の鍵となってしまっているものだから。

「あ、ああ。泣くな泣くな。寿命が縮んだらどうするんだ」

ぽんぽんと軽く頭を叩き宥めてやると、子供はどうにか泣き止んだ。
その後食事に添えられていたナプキンを渡して顔を拭かせてみたのだが、結局目は赤く腫れ上がりとろんと半開きで締りがなく、口もぎゅうと閉じられてこそいるものの、堪え切れないすすり泣きが漏れ出る程度の固さであった。
実に面倒かつ汚らしい生き物ではあるのだが、妙なストレスが祟って急死……などという展開は御免である。
そのため私は慣れぬ優しさを、あろうことか無償で提供しなければならないのであった。
寝台の側にしゃがみ込み、子供と目線を合わせてみる。
すると案の定さっと目を逸らされ俯かれるのだが、私はなるべく穏便に声を掛けてみる。

「どうした、料理が気に入らないのか?」

しかし子供は俯いたまま弱々しく首を振るばかりである。

「ならば、何故食べない。腹でも痛いのか?」

それからあれこれと訊ねてみるのだが、結局首を縦に振らない子供である。
額を触るなどして確認してみても、熱も怪我も無く、少々弱っていたが至って健康そのものであるように見えた。何の問題があるのか全く分からない。
爪で傷付けないようにと気を付けながら、子供の頬をつついてみたり、更に溢れる涙などを拭ってやったりしながらも私は悩みに悩み続けた。
するとその内に子供の表情は昨夜と同じ呆けたものとなり、ぼんやり私を見つめ返しているのだった。
とりあえずとばかりに表向きの親愛を表する笑みを浮かべてやると、今度は悲鳴を上げることなく小首を傾げるだけだ。
しかしその瞳はようやく物言いたげに揺れていた。

「どうした」
「あ、あの」
「何だ」
「たべていい、って……いわれなかったから」
「は……?」

そう言われてみれば昨夜、『持って来させる』とは言ったが、『食え』とは言わなかった気がする。
いやしかし、そのニュアンスくらいは分からぬものか。最早呆れ返って怒鳴る気力すら沸かなかった。
はーあと寝台に倒れ溜息を吐く私だ。子供がやや慌てる気配こそするものの、構う事すら億劫だった。
しかしこれならば話は簡単だ。とっとと食事を取ってしまえと言うだけで、問題は解決してしまう。
幸い一食分がすぐ側に……いや駄目だ。すっかり冷めきっている上に、一晩置いた食事である。
こんなものを食べさせて、腹を壊さないとも言えず。

がばりと起き上ると同時、子供を片手で捕まえてみる。
やはり短い悲鳴を上げるのだが、どうでも良かった。私は子供をじっと見つめ、低い声で言い聞かせる。

「いいか、少し待っていろ。新しいものを持って来させる。食え」

怯えながらも子供は大人しく頷くのだった。



そしてヴァネッサを呼び付けて、代わりの料理を持って来させた。
私付きのメイドであり、メイド長でもあり、ジン共々城の雑務を一手に引き受けている多忙な彼女だが、嫌な顔一つせず料理の片付けから何から、全ての手配をしてくれた。
私に何か物言いたげな目線を送って来ていたような気もするのだが、きっと気のせいだろうと決めつけて、子供の側に腰かけ適当に構い用意が整うのを待っていた。
触る程度であればそれほど怯えないものの、爪をちらつかせてみたり頭をやんわり掴んでみたりと遊んでやると、びくりと身を固くした。その顕著な反応がとても愉快で、泣かせない程度にからかい続け……今になって、もしやそれであのような寒い目をされていたのだろうかと思わなくもない。

そうこうしている内に配膳が終わり、ヴァネッサは軽く頭を下げて部屋を出ていった。
こうして取り残された私と子供である。昨夜と同じように両手で掴み、子供をテーブルに付かせてやった。
私はその隣に陣取り、テーブルの上を差し示す。

「ほら食え」

目の前には湯気を立てる、色とりどりの料理の数々が所せましと並んでいる。
一体子供が何を食べる生き物であるのかが分からなかったため、品数を多めに、バリエーション豊かに持ってくるように言いつけていた。
これほど子供が食うとも思えなかったが、余れば私が片付ける。
むしろ子供が手を付ける一足先に、私はパンの一切れにバターを塗り齧っているような始末であった。

「どうした、腹は減っているのだろう」
「……」

しかし子供は一向に手を出そうとしなかった。
怯えと言うよりも、何かの儀式に臨むかのような緊張を顕わに、料理と私とを、交互に凝視するばかりである。

「毒など入ってはおらんぞ」

試しにスープを一掬い飲んで見せるのだが、子供は私を不安げに見上げる。
しばらくその睨み合いが続き。

「……ほら」

口元に運んでやることで、ようやく観念したかのように食いついた。そして小さな音を立てて飲み込む子供。
依然として怯えた目で私を見上げているのだが、餌をやる上では何ら問題ないと知れた。

「食えるではないか。ほら」

そうして一口二口と、私は子供に食事をやり続けた。
最初の内こそがちがちに身を固くしていた子供であったが、次第にその緊張は解きほぐされ「美味いか」と聞くとこくりと小さく頷く余裕もまた生まれていた。
そのため後は自分で食べるようにと幾度か言ったのだが、その都度子供はぴたりと動きを止め、深く俯いてしまうのであった。
仕方なく、私は子供が満腹を訴える最後の一口まで食事を与え続けた。
様々な料理を万遍なく味わい尽くし、最後に子供は満足げにほっと息を吐く。単調な作業の連続に疲弊しきった私の隣で。
その緩み切った表情では、魔王手ずから食事を与えられたという恐ろしい事実に気付いていないようだった。
由来不明の緊張は満腹と同時にどこかへ消し飛んでしまったらしく、代わりに自分でテーブル上のグラスを取り、ちびちびちと水を飲む気力すら生まれていた。
愛着が沸くどころか、いっそ忌々しくも思えてしまう自由さであった。

まあ、むやみやたらと泣き叫ばれるよりは、こちら方が良いのかも知れないが……どうも納得してはいけないような、折れた方が楽なような。
第一この調子では怖がられなくなる事すら時間の問題で、魔王として僅かに残った矜持だか何だかはこの子供によって容易く破壊し尽くされてしまうのではないか。
常温に近くなったサラダへとフォークを突き刺しつつ、そんな風に意味無く苦悩する私であった。
しかしそれも長くは持たなかった。裾を弱く引かれ、現実へと引き戻される。
見ると傍らの子供が私の袖を掴み、物欲しげな目をしてテーブルの片隅へと向けていた。
他にもまだ品数が並ぶものの、目当ての品はすぐに分かった。
何しろ子供が好むような物といえばこれだと、私でさえ予想のつく一品であったものだから。

「……欲しいのか? 腹いっぱいではなかったのか」

こくこくと、はっきり頷く子供であった。ついでに袖もぐいぐいと引く。
畏怖と言うよりも、遠慮と言うものを学ばせるべきであるとこの時に悟った。
拒否する理由もないので手を伸ばし、目の前に置いてやる。
すると子供は目を輝かせて、ようやく自らフォークを手に取り、その品物を攻略しにかかるのであった。

「……そんなに旨いものか」

私の独り言に、子供は満足げな笑みを見せて答えるのだった。
つまりは何の変哲もない、一切れのケーキである。
平たい三角柱のスポンジ生地は真っ白なクリームで塗り固められており、その上には苺が一粒鎮座している。
間にもクリームと様々な果物を挟み込んでいるようで、子供がフォークを入れ崩す度に、ぼろぼろと中から色が溢れ出た。
お世辞にも美しいとは言えない食べ方ではあるものの、マナーの如何を説く気にもなれず、ゆっくりと味わい片付ける子供の仕事ぶりを、私は眺めるばかりであった。
サラダも飽いてしまい、最早他に私の仕事と言えばフォークを弄ぶことのみだ。
甘い物をあまり好まない私としては、子供の気持ちが小指の先ほども理解できなかった。
果物はまだ許せるのだが、しつこくて胸焼けしか起こさないような甘さは苦手である。
しかし子供が美味そうに食う様を見ている内に、もしや案外美味いものであったのかも知れないなといった考えが、私の中で芽生えてしまった。

「どれ」
「あ」

興味の赴くまま上に乗った苺をクリームごと掬い取り、私は口に放り込んだ。
何故か目を丸くした子供が私を見ていたが、構わず咀嚼し飲み込んだ。
予想通りの酸味と甘さであった。それ以下でもそれ以上でもなく、結局はクリームの味が苺本来の甘さを邪魔しているとしか思えなかった。
つまりは私の口には合わなかった。
舌に残るしつこい甘さを洗い流すべく水を飲み、確認が取れて満足する私である。

「う……うぅ」

そして何故か子供が泣き始めて、その充足感もすぐに吹き飛ぶのであったが。
フォークを握りしめ、子供は静かに大粒の涙を流し始める。先程まで機嫌良くケーキを突いていたにも関わらずだ。

「こら待て。どうして泣く」
「いちご……」
「は?」
「うう……いちご……さいごに、たべるのに……う……ぇ」

不明瞭ではあったが、子供は何とかそれだけを言いきると、後はもうじわじわと鬼気迫る静かな慟哭を続けるばかりである。

「つまり何か……私のせいか?」

私のぽつりとした呟きに、力強く何度も何度も頷く子供であった。
泣かれた上に喧嘩を売られ、それでも魔王たる私は頭を抱えて堪えるしかなかった。



その後、同じもう一切れを持って来させることにより、今度こそようやく子供は泣き止んだ。
これでようやく仕事は終わったかと思われたのだが、ヴァネッサを呼びつけ風呂に入れさせたり代えの服を用意させたりしている内に、気付けば陽は沈み始めていた。
世話が楽だと高を括っていた昨日の私を、縊り殺してしまいたい。
自分の寝台に倒れ込み、私は今日一日の締めくくりに、そうとだけ思った。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

コメント

幼女万歳で書き始めたと言っても過言ではない…(^ω^∪)

  • 2011/01/24(月) 22:38:11 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

コメントで笑ってしまいましたw
子供がかわいいww

  • 2011/01/24(月) 15:32:18 |
  • URL |
  • メモやん! #JalddpaA
  • [ 編集 ]

通報されないレベルの子育てぶりでやっていきますw
ジェットコースター・ツンデレ(ぬるいツン後の急降下デレ)を目指します!

  • 2011/01/23(日) 21:49:42 |
  • URL |
  • おつかい #-
  • [ 編集 ]

暫くは「魔王様子育て奮闘日記(ダイアリー)☆」が続く訳ですなw

  • 2011/01/22(土) 02:57:45 |
  • URL |
  • 水無月 #-
  • [ 編集 ]

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